#0 悪の金庫は簡単に空く/A easy game
(マトモな現実世界の作品は)初投稿です
対戦よろしくお願いします
カリキュレータの重低音が回るファンとハーモニーを奏で。カタタタタっと叩かれる鍵盤は合いの手か。そうして部屋のあちらこちらに座す機械らに絶えず指揮し続けるのは一人の少女。
「スマート化様々。まるで魔法みた〜い☆」
画面を流れてく文字列は呪文のよう。電脳の魔術師は笑いながらプロトコルを書き換えていく。
「でもドア作るのって大工さんだよね〜……?」
そんな彼女の名前はソフィア・クラレント。歳は22。趣味はゲームと──不法侵入。
「どんな奴も穴をつけば── 」
今回もその趣味の内。既に顔パスな軍事衛星から日課である地表観察中、ソフィアは郊外なのに頻繁にバンが出入りしている建物を見つけた。これは何かあると感じ取った彼女はいつものように不法侵入。USBを差し専用回線を作って現在奇襲中。管理権限を盗み取った今、やることはただ一つ。
「──侵入成功っ♪」
最後に大きくエンターキーを叩くだけ。セキュリティを突破したソフィアは金庫室と漸くお目見え。期待通りにツヤッツヤの札束とピッカピカの金塊が眠っていてテンションアップ。
「少しは楽しかったけど…ザァッコすぎ♡」
勝利のピザを頬張り、美コーラで喉を癒し、ここから幾らかのお宝を拝借する算段を立てていたところ、新しい収穫があったのか大きな音を立て金庫室の扉が開き、二人の男が現れる。
『hohoho…今日は少ないなァ』
方やヨレたアロハシャツにチリチリの髪、一言で言えば"だらしない"男が無造作にバックを放り投げ、その中からパック詰めされた現金を楽しそうに積んでいく。
『先日は不幸がありましたからね。僕としても非常に残念です』
方やいかにも日本人といった黒髪で、ツーピーススーツを着込んだ男が同じくバックから取り出した金塊を棚に並べていく。
『やっぱサァムライの国で生まれたRookは優しいねェ』
『仲間を弔うのは万国共通でしょう。Aceも昔は幾らか仲間を亡くしたと聞きましたが』
『あァ、そりゃ皆頭パッパラパーでカミカゼしたからなァ。これでも昔ァ臆病だったんだぜ?今ァ"撃墜王"様だけどな!』
『ははは』
『おいそこァもっと笑えよ!』
「……え、これって」
けれどソフィアが驚いたのは目の眩むような戦利品の数々ではなく。男達の横に並べられた、『マスク』だ。
「見たことある、髑髏と、赤い鬼の面…!」
ソレが指すのは多少問わずダークウェブに繋がる者なら誰でも知っている名。依頼とあらば如何なるものも奪ってみせる、世界を股にかけた四人組の犯罪集団。
「『OPENER GANG』…!?」
その名前を口にすると同時。生まれてこの方謝ったことのないソフィアの身が震えた。いつもこの部屋はコンピュータ達がせっせこ働いて少し蒸し暑いのに、今ばかりは数度低く感じる。
『ですが、Johnがいい仲間候補を見つけたと言っていましたし、次はまた四人で給料日を迎えられそうです』
金縛りにあったように動けなくなったソフィアの耳に思い出されるのは今朝も報じていたココ最近のヘッドライン。内容はOPENER GANGの欠員。
『あァ、しかもスッゲー可愛い娘だったか?今Grandが迎えに行ってるんだったな』
それをニュースキャスターが嬉しそうに話していたのを覚えている。しかしなぜソレを今思い出した?
『おーい見てるかァ〜?新しい仲間ちゃんよォ』
カメラの方を見たAceのニヤケ顔と、同じ感情がこもっているからではなかったか?
「逃げな──」
だが、走馬灯を見るには遅すぎた。
「仕事の誘いだ、お嬢さん」
後頭部に突きつけられた冷徹なる銃口。ソフィアは逃避を封じられた。無意識に上がる両手。所謂ホールドアップの体勢。
「── おじいちゃん、これから学校なの、付き合えない」
一縷の望みに賭けて話しかけてみるが。
「問題ない。今お前は死ぬ」
帰ってきた返事は、気の抜けた銃声。飛んでいく意識。『ソフィア・クラレント』という戸籍は、22歳の生涯に幕を閉じた。
「起きてください」
「ひゃぁん!?」
少女は冷や水に打たれて飛び起きた。目を覚ますとそこは知らない天井。コンクリート打ちっぱなしの殺風景。目の前には三人が並ぶ。両端には先ほど服装に見覚えのある二人。そして真ん中にいたのは深く帽子を被り足を組んで座る老紳士。
「……ああ、これは夢なのね」
興味本位で覗いてみた家がまさか凶悪犯罪者の拠点で。なんなら侵入がバレていて攫われて。あまつさえ拘束、され……?
「いやいや夢じゃァない。自分の頬でも叩いて確認しな」
いや、少女はただただ椅子に腰掛けていただけ。現実と認識の乖離に悩んでいた少女へ、ラジオから響くボイスチェンジャー越しの声が届く。
『起きたかい、子猫ちゃん』
それはどこか優しい声。だけど有無を言わせない圧を含んでいて。だけどめげずに少女はいつもの調子を取り戻そうと笑った。
「誘拐って重っもーい罪になるんだよ?」
『でも不法侵入者は射殺していいそうじゃないか』
「うっ」
だが返せる刀が見当たらない。太刀打ちできない。なんてったってここは相手のホーム。非力な少女に勝ち筋なんて存在しない。
「お、なら殺すか」
「まだ本題に至ってないだろう」
立ちあがろうとする男を老紳士が制止。謎の声もそれに同調して。
『そうだよAce。交渉はまだ始まっていないんだ。ああ、まだ名乗っていなかったね。私の事はJohnと呼んでほしい。彼らOPENER GANGの──オーナーだ』
嬉しそうに手を広げ名乗る姿が幻視できる程に彼は明るく宣う。それが当然だというように。
「へぇ、こんな天涯孤独の少女を攫うくらい仕事に困ってるんだ〜、車でも洗ってる方が稼げるんじゃない?」
そんな冗談も軽く交わして。
『ふふふ。だからGrandが言ったように、これは"勧誘"さ。君、OPENER GANGに入らないかい?』
さらりと甘い誘惑を持ちかける。それが彼のやり方。
『私の作ったセキュリティを抜けられた君なら実力は申し分ない。私は、君が欲しい』
立ち上がったRookが、少女の前にアタッシュケースを差し出して蓋を開けた。中にはマスクが。模るは道化、煽り嘲り笑う少女にはお似合いのもの。
『それを受け取ってくれれば、君は私達の仲間だ。退屈しない毎日を約束するよ──"Laughy"』
少女の新しい名前は笑う者。それは目の前のAce、Grand、Rookと同じ、"いないはずの人間“が裏世界で名乗る為の身分。
「Nyahaha、どうしようかな…こんな可愛いと人気奪ちゃうでしょ?」
ああ確かに。先ほどのまでの恐怖は何処へやら。道化になった彼女は何よりも可愛らしく、凶悪。何故ならピエロは笑うもの。それがどれだけ凄惨で、非道なる時でも。仲間が倒れ逝く中、彼女をみた者はどう思うのやら。
「安心してください。銃弾は僕が引き受けますから」
「戦果一位ァこの"撃墜王"様だ」
「盛大に盛り上げてくれ」
『末長くよろしくね、Laughy』
少なくとも、仲間達に関してだけは気にせずとも良さそうだ。
『それじゃあ、君達新生OPENER GANGへの初仕事を紹介しよう』
Johnがそう言うと、プロジェクターの光が灯った。白いコンクリートが青の光に染まる。これは…銀行の見取り図か。
『新人の肩慣らしとお披露目も兼ねて、今回は簡単なものだよ。勿論話も単純、君達はこの銀行にある"金目のもの"を奪い取るだけさ』
ポケットの中で鳴った携帯を取り出し、メールの添付ファイルを開けば先ほどの見取り図に警備情報等々役立ちそうな事柄が沢山記されていた。ソフィアにとっては唆られるものばかり。
「へぇ…楽しそうじゃん」
『準備は勿論一任するよ。それじゃ来週、またここで』
そう言い残してラジオからの音声は途絶えた。早速、ソフィアは"協力者リスト"の一人へと電話してみることにしたのだった。
Tips キャラ紹介(ソフィア1)
・ソフィア・クラレント
表の顔:(自称)プロゲーマー
年齢:22
概要
生まれはアメリカ、育ちもアメリカだがイギリス人とギリシャ人のハーフ。しかし両親はすぐに他界した上学校に馴染めないままハイスクールまでは卒業。しかし社会がイヤになって、鬱憤を晴らすようにコンピュータの世界にのめり込んだ。