0 異世界漂流の巻 6
レベルアップした主人公の活躍を見てくれ。
吉良を先頭に、皆は部屋を脱出した。
廊下を慎重に進んで行く——と、不気味な呻き声や乾いた足音が曲がり角の向こうから聞こえた。
ぎょっとして立ち止まる一同。
しかし吉良だけは冷静に言い渡す。
「皆はここにいて。ただ、後ろには気を付けていてくれ」
そして一人で前進した。
曲がり角の向こうにいたのは、歩く死人や、剣と盾で武装した骸骨!
(ゾンビと‥‥スケルトン、か)
二体の怪物を相手に、吉良は油断なく身構えた。
歯を剥きだし、剣を振り上げ、生者に群がる死者達。
戦いはすぐに終わった。
力はあっても緩慢なゾンビ。武装はしていても脆いスケルトン。
吉良の手刀は、足刀は、それらの攻撃の間を貫くように首を的確に捉えたのだ。
ゾンビは、スケルトンは、首を刎ねられた!
死者達の体が崩れ落ち、二度と動かなくなる。
——大きな扉の前——
その後も何度か彷徨える魔物との遭遇はあった。
だが既に吉良の敵ではなく、ことごとく倒される。
ケガをしていた同級生も、敵から拾った傷薬でケガを治す事ができた。
「吉良君、剣も使えるんだ‥‥」
「ああ。なんとなく、ね」
驚くソフィアに吉良は曖昧な頷きで応える。
いくらカラテが強くてもやはり素手。武器を使った方が良かろうと、最初のスケルトンから拾った剣を装備しているのだが‥‥吉良の太刀筋がただ力任せに振り回している物ではない事ぐらい、素人のソフィアでも見ればわかった。
(剣の使い方もなんとなくわかる。これも金貨の力なのか‥‥)
疑問はあったが、吉良は前進のため、通路の突き当りにある大きな扉を押し開けた。
「ひっ!」
同級生の一人が泣きそうな声をあげる。
扉の向こうは大きな部屋で、総勢10体は確実に超える魔物の群れがいたのだ。
ゾンビやスケルトン等、どれもこれまでに倒した魔物である。個々の敵に吉良が後れをとる物ではない。
だが数が多い。
負けると決まったわけではないが、同級生達が襲われたら守り切れない!
吉良は急いで扉を閉じようとした。
ここまでの通路には分かれ道もあった。この扉を絶対に抜けねばならないと決まってはいない。
しかし——扉が何物かに押さえられた。
吉良は見た。
扉の陰に灰が散らばっており、それが集まってダルマのような人形になったのを!
死者の灰から造られた不死怪物が、逃亡を妨害するよう配置されていたのだ。
あらゆる罠を瞬時に見抜いて対処するには、流石にまだ吉良のレベルは足りなかった。
次の瞬間、灰人形の首が刎ねられる。キラーの剣が一閃したのだ!
だが他の魔物が既に迫っており、否応なく乱戦が始まる。
「みんな、廊下に!」
同級生達を廊下においやり、吉良は出入り口を塞ぐ位置に立つ。
これで後ろが襲われる事は防げる。
だが同時に、吉良が魔物の群れから逃げられない事も意味していた。
先頭にいたスケルトンの首を刎ねるや、左右からゾンビが掴みかかってくる。
必死に身を捩って避ける吉良。
間一髪の死闘を前に、廊下でソフィアが悲鳴をあげた。
(くそっ! やられない、やられないぞ! こんな所でやられてたまるか‥‥)
ゾンビの片方を斬り捨てたが、割り込んできたスケルトンの剣が体を掠める!
吉良の血が床に滴った。
絶体絶命!
だが突然、スケルトンの頭部が吹き飛んだ。
胴体がガラガラと崩れ落ちる。
何が起きたかわからず、硬直する吉良。
崩れたスケルトンの向こうには、大きな剣を握り、鎧を纏った、メガネをかけた猫背で禿頭の男がいた。
その目がギロリと吉良を睨む。
(この世界の戦士? でもなぜ魔王軍残党の塔に?)
混乱しながらも吉良は相手を窺った。
そして息を呑む。
男が大きな剣を振り回し、魔物の群れを、容易く一方的に粉砕していくのだ!
男の動きを見て吉良にはわかった。
(この男——今の俺より、圧倒的に強い‥‥!)
設定解説
・アッシャー
死者の灰をある程度集めて作ったアンデッドモンスター。
脆いが、爪には毒をもつ事も多く、下手に傷つけられると麻痺や大量出血を起こす事もある。
たいして取り柄のある魔物でもないが、材料のおかげであまり臭わないので、住居を兼ねるダンジョンに配置するならゾンビよりは使い勝手が良い。




