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0 異世界漂流の巻 4

ここからやっとモンスターと戦えるようになるぞ!

 周囲に落胆が広がった。

 だが一番気落ちしているのは、金貨を掌に乗せて眺める吉良(きら)だ。

(いや、隠しアイテムにするぐらいなんだから、これが案外強力なマジックアイテムなのかも‥‥)

 未練がましくそう考え、握ったり掲げたり目の側でまじまじと見つめたり、しばらくいじってみた。


 そうしているうちに、共鳴する不思議な()()を金貨の中から感じる。

(もしかして、本当に?)

 一か八か。吉良(きら)はその不思議な()()——自分の中へさざ波のように押し寄せる波動を受け入れた。


「金貨が消えた?」

 すぐ側で見ていたソフィアが驚く。

 水の中へ溶ける錠剤のように、金貨が消滅してしまったのだ!



 金貨が消えて‥‥吉良(きら)は何度か、瞬きと深呼吸を繰り返した。

 そしておもむろに、その場で身を翻す!

 突然の事に目を丸くする周囲の生徒達。

 その目は、吉良(きら)が奇麗なトンボ返りを軽やかに繰り返すのを見て、さらに大きく見開かれた。

「えっ!?」

「何、あれ?」

 思わず漏れる声。

 そんな彼らの前で、吉良(きら)の体術はさらに鮮やかになる。

 回転に捻りが加わり、宙で飛び蹴りや回し蹴りの試し打ちまで放たれた。

 着地して繰り出す正拳突きは、空気を破る鋭い音がする。

「スゲ‥‥」

 カンフー映画も顔負けの動きに、周囲には微かな興奮が漂った。


 己の動きを試した吉良(きら)は、深呼吸しながら掌を見る。

 自分で自分が信じられない。

「うひゃあ‥‥凄いじゃん、コインのパワー? ゾンビと戦えそう?」

 ソフィアが期待混じりに肩を叩いた。

 しかし‥‥吉良(きら)の表情は浮かない。

「正直、自信ないね」


 運動能力は格段に上がったが、格闘技の経験は無い。

 それに未だ素手だ。

(モンスターなんて、武器か魔法で戦うのが前提だよな)

 吉良(きら)は不安からもう一度、空の宝箱を見渡す。

 しかし――吉良(きら)が金貨を見つけてから、他の生徒が残りの箱を調べていたが、他に隠しアイテムは見つからなかった。



 その時、部屋の扉が乱暴に開けられた。

 そこにいるのは――血の気が全く無く、白目と歯を剥き、口の周りを血でべったり汚した薄汚い男。

(ゾンビって、これか!)

 吉良(きら)が慄いていると、ゾンビは緩慢な動きで部屋に乗り込んできた。

「うわぁ! き、来た!」

 生徒達が強硬に陥り、壁際を逃げ回る。


(落ち着け。仮面の男は低級モンスターだって言ってただろ! 勝ち目はある‥‥多分)

 そう自分に言い聞かせる吉良(きら)

 正直、物凄く怖かった。泣いて逃げ出したかった。


 だが今、怪物をなんとかできるのは、おそらく自分だけなのだ。



(素人がディフェンスなんて上手くやれない! 先手必勝、しかない!)

 破れかぶれを正当化し、吉良(きら)はゾンビへ走った。

 その胴体へ、踏み込みながらの横蹴りを思い切り叩き込む!

 できるだけリーチの長い技で、とにかく早く攻撃を加えたかったが故の選択だ。


 その一撃は見事ゾンビの真芯を捉え、吉良(きら)と同程度の体格のゾンビを、一撃で吹き飛ばした。


 当てた吉良(きら)が目を丸くする。

 ここまで威力が出るとは思わなかった。

 しかし床に叩きつけられたゾンビが凶暴な唸り声をあげながら起き上がろうとするのを見て、慌てて相手へ駆け寄る。

 近づく吉良(きら)へ、ゾンビが顔を上げて手を伸ばした。


 ぞおっと恐怖が吉良(きら)の背骨を昇る。

 だがそれが返って、躊躇の無い攻撃を放たせた。

 渾身の手刀が怪物の首筋を捉え――ゾンビは首を刎ねられた!


 首を失った胴体が崩れ落ちる。

 首は部屋の外へ転がり出て、呻くのをやめた。


 吉良(きら)は己の手を信じられない思いで見つめる。

 死んで時間が経っていたからだろう、首を寸断された魔物からはほとんど体液が出ていなかった。吉良(きら)の手は僅かに血で汚れているだけだ。

 見知った筈の己の手だが‥‥何か、今までと違う物を吉良(きら)は感じていた。


 そんな吉良(きら)に、後ろからソフィアが恐々と声をかける。

「本当に勝っちゃった。あれ、空手?」

「なの、かも」

 吉良(きら)にしてみればそう言うしかない。

 金貨の力で身に着いたのであって、頭で理解しているわけではないのだから。



 だがしかし。天は猶予を与えてはくれなかった。

「な、なんだこれ!」

 生徒の一人が悲鳴をあげる。

 扉から入ってきた物があるのだ。さっさと閉めておけば良かったのかもしれないが‥‥どうせこの扉、鍵は無い。


 それは人魂のようだった。

 しかし人の頭ほどの金属核があり、それがめらめらと燃えている。

 人魂はふらふらと漂い‥‥おもむろに炎を噴き出した!

 同級生達が悲鳴をあげて逃げ惑う。


(こ、これもモンスターなのか!?)

 初めて見る火の玉にたじろぐキラー。

 しかし生徒の一人が炎にあぶられ、服の肩口に火が付いた。

 泣き叫びながら転げまわる少年。周囲の級友が駆け寄り、上着で火を叩いて必死に消す。

 だが無情‥‥火の玉はゆっくりと同級生達に近づいていた。


 もはや考えている余裕は無かった。

 吉良(きら)は火の玉へ駆け寄り、渾身の飛び蹴りを放つ!

 フォーム、スピード、籠められた力。全てが素人離れした見事な蹴りを。

 果たして——火の玉は床に叩きつけられて転がった。


 しかし吉良(きら)は膝をつく。

(硬い! なんて硬さだ)

 蹴った足が痺れている。全力を籠めたのは逆に不味かったか。

 そして火の玉は、ふわりと宙に浮くと、何事も無かったかのように近づいてくる。


(攻撃が、効かない!?)

 異世界に来て二戦目——吉良(きら)、早くも絶体絶命‥‥!

今時レベル1からスタートの主人公だ。

全ての転移者は裏路地をあけろ!

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