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0 異世界漂流の巻 3

ヤンキーが安易に悪者だけど、ここをひねって欲しい人はいないよな多分。

 召喚された生徒の数より少ない宝箱。

 何人かがそれを恐々と開けた。

 中には、剣・斧・槍・鞭・ブーメラン・シャベル・丸太・釘バット・アフリカ投げナイフ‥‥様々な武器が入っている。

 が――


「どの箱にも、一個ずつしか入っていない‥‥」

 誰かが呻いた。

 全員に行き渡る数は無いのだ。


 少年の一人が、不安そうに同級生を見渡した。

「ケガしたら交代して、持ち回りで戦うしかないのかな」

「先に戦う奴が損じゃないか、それ」

 別の少年が不満を露わにする横で、別の少年が(うつむ)いていた。

「だからって素手で戦うのはな‥‥」

「嫌よ! 私には無理よ!」

 頭を抱えて泣き叫ぶ少女もいた。


 吉良(きら)は少し考え、窓から下を見た。

 高さ次第ではなんとかならないかと考えて、だ。

 だが非情‥‥地面まで二、三十メートルはありそうだ。石造りの壁には隙間や凹凸もあるが、クライミングのド素人が生きて地面へ辿り着けるとは思えなかった。



 後ろが騒がしくなったので吉良(きら)は振り返る。

 不良のグループが、手に手に武器を持っていた。

「じゃあな、シャバ僧どもがァ‥‥。勝手に泣いてろ」

 一人が「ビキィ!?」となぜか青筋を立てながらそう言うと、不良グループは部屋から恐る恐る出ていく。

 他の生徒達に、それを止めようとする者も、異を唱える者もいなかった。


 部屋がしんと静まり返る。

 と、すぐに遠くから怒声と悲鳴が響いてきた。

 不良グループが何かと戦いになったのか。


 誰かが焦って叫ぶ。

「やべ‥‥早く獲らないと丸腰だぞ!」

 途端に生徒達は恐慌状態に陥った。

 大半の者は残った武器に殺到し、邪魔な他人を押しのけ、つき飛ばしたり、殴り合いさえ始まる始末。


 吉良(きら)はどうするのか決めかねていたが、ぐずぐずしているうちに、突き飛ばされた者とぶつかってしまった。

 咄嗟に受け止めたものの、非力の悲しさ、相手に圧し掛かられる形で尻餅をついてしまう。

「きゃあ!」

「ご、ごめん!」

 甲高い悲鳴をあげられ、思わず誤ってしまった。


 相手は急いで顔をあげた。大きな青い瞳が吉良(きら)を映す。

 染めたのとは違う生まれついての金色な長い髪もあって、その少女は外国人のようにも見えた。

 だがその少女がハーフで、生まれた時から日本にいた事を、吉良(きら)は人づてに聞いて知っている。

 旭日(あさひ)ソフィア――目立つ容姿のハーフ少女で、高校に入学したばかりの時にちょっとした噂になっていた。


 少女——ソフィアは慌てて身を起こす。

「あんたが下敷きの方でしょ! ごめんなさいはこっちよ」

 怒ったようにそう言うと、吉良(きら)の手をとった。

 女の子に手を握られる事をちょっと意識しなくもなかったが、吉良(きら)は素直に手を借りて立ち上がる。

 その頃には、もう騒ぎは収まっていた。

 箱は全て空になり、武器を確保した生徒たちは、緊張と恐怖を押し殺して扉から外を窺っている。

 そして‥‥武器を構え、出て行ってしまった。



「行っちゃった‥‥」

 取り残された生徒の一人が呟く。

 どうした物か考えられず、十余人の生徒たちは部屋の中で黙っていた。


 だが開いたままの扉の向こうから、いくつかの絶叫が響いた!

 小さな悲鳴をあげ、何人かの男子が扉に飛びついて閉める。

 ちょっとして静かになってから、女子の一人が泣きながらこぼした。

「私達、このまま殺されちゃうのかな‥‥」


 部屋の中央近くには、最初に魔術の熱線で撃ち殺された男子が倒れたままだった。



「冗談じゃないわ。なんとかしないと」

 ソフィアは窓から外を窺う。降りる事のできる場所はないか、探しているのだろう。

 それに触発されて、吉良(きら)も近くの壁を触り出した。

 それを見たソフィアが訊いてくる。

「何してるの?」

「いや、隠し扉とか無いかなって」

 答えながらも、吉良(きら)は割れ目やスイッチが無いか、石の壁を注意深く観察した。

(ここまでゲームみたいな世界なんだから、ゲームみたいな救いの手ぐらいあってもいいだろ?)

 そう思いながら。



――二、三時間は経っただろうか――



 壁も床も調べた吉良(きら)は、何も見つけられずに落胆していた。

 そうしている間にも、事態に多少の変化はあった。

 吉良(きら)を見てマネして部屋の中を調べる者。

 ヤケクソになって扉から出て行ってしまった者。

 床に大の字に寝転び、天を呪う者。

 部屋の隅ですすり泣く者。



 焦りと気落ちでちょっとの間呆ける吉良(きら)

 だがその目に空の宝箱が映った時、ふとした考えが浮かんだ。

(宝箱の底に隠しスイッチとか、どこかのRPGになかったっけ?)


 のろのろと空の箱に近づき、底をごそごそと探っていく。

 いくつ目かの箱を探った時、違和感に気づいた。

 手応えと音が変だ。他の箱より底が浅い気もする。


(あれ? これって、もしかして‥‥)

 しばらく触ってから、吉良(きら)は思い切って箱を横倒しにした。

 するとどうだ、底が外れたではないか。

「二重底!」

 思わず声をあげた吉良(きら)の前に、真の底から何かが転がり出て来た!

「凄え! 隠しアイテムだ!」

 誰かが弾んだ声で叫んだ、その隠された物とは――



 一枚のコインだった。



「‥‥お金?」

 訝しみながらコインを拾う吉良(きら)

 金貨という奴だろう。

 片面には十文字の星が刻まれており、もう片面には「忍」の一文字。


「チート魔剣とかじゃ、ないの?」

 吉良(きら)はそう呟いたが、形も大きさも、やっぱり金貨だった。

【登場キャラ解説】

主人公の同級生 旭日(あさひ)ソフィア

 主人公と共に召喚された同級生。日米ハーフの少女。

 目立つ容姿で高校に入学したばかりの時にちょっとした噂になっていた。

 明るく行動的でやや強気、曲がった事が嫌いで人の役に立てると嬉しいその性格から、友人知人も多い。

 反面、自分が役に立たなかったり不要な人間だと感じると、ちょっぴり拗ねてしまう一面もある。

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