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0 異世界漂流の巻 2

悪いがいきなりピンチ系だ。

すぐに逆転するからちょっと待ってくれ。

 気がつくと、吉良(きら)は石造りの部屋にいた。

 周囲には同級生達が狼狽(うろた)えている。二、三十人ほどだろうか‥‥遠足に来ていた二年生の、あちこちのクラスから寄せ集められたようだ。


 部屋には大きな扉があり、その前には武装した一団がいた。

 剣、盾、鎧‥‥ファンタジーゲームに出て来る装備。武装しているのは、ゴブリンやオーク等、これもゲームで見慣れた物。

 その中央に立つのは、紫色のマントを羽織り、兜と鉄仮面で顔を隠した人物だった。

 そいつは吉良(きら)達を見渡す。

「諸君。君達に何が起こったか、今から説明する。大人しく聞くように。質問は後で受け付ける」

 その声と体格で、若い男性だという事だけはわかった。


「誰だよ、あんた!」

 異常な事態に混乱したまま、同級生の一人が叫ぶ。


 直後、その少年を光線が貫いた!


 少年は倒れ――二度と動かなくなる。

 光線を放った杖を構えたまま、仮面の男は冷たく告げる。

「質問は後で、と言った」


 同級生達が一様に静まったのは、その迫力に圧されてか。あまりの非現実ぶりに何も考えられないからか。



 静かになると、男は杖で壁の一画を指した。そこには窓があり、外が見える。

「ここは君達の故郷ではない。インタセクシルという別の世界であり、そこに召喚されたのだ。剣と魔法と‥‥巨大ロボットのある世界にな」

 窓の外には森がある。木の位置からして、この部屋はそれなりの高層階にあるのだろう。

 そして森には何体もの巨人が立っていた。


 武器と甲冑で武装した巨人。

 鎧の隙間から覗く肌は、肉体ではない。何らかの生体素材ではあるようだが、人造物である。

 人の手と技術で造られた人造の巨人兵なのだ。


 混乱に拍車がかかる同級生達。

 そんな一同に言って聞かせるような口調の、仮面の男。

「ほんの数か月前まで、この世界の人類は強大な魔王軍に攻撃されていた。色々あって、人類が勝利し、魔王軍が壊滅したがね」


 周囲の魔物の兵が、目に見えて不機嫌になる。

 悔しさや無念が滲み出ていた。


「そんな魔王軍にも生き残りはいるが、大小様々なグループに分かれている。魔物の領域に帰った物、野党と化した物、そして‥‥潜伏し、次の行動を準備している物などに」


 兵達の目がギラつく。

 やる気だ。

 彼らは敵意と害意に満ちていた。


「私は元魔王軍魔怪大隊、最強の親衛隊。だが今はスターゲイザーと名乗る魔術師だ。私の率いる真魔怪大隊は、今後のために有能な者を欲している」

 そう言って、仮面の男——スターゲイザーは、己が召喚した少年少女達を見渡した。



 召喚された生徒一同は、それでもなお困惑するばかりだ。

 それは吉良(きら)も同じ事。

(異世界召喚! そりゃ、そういう作品、大好きだけど。山ほど読んだけど。マンガも読んだけど。アニメも見たけど。でも‥‥俺、何のチートも貰ってないぞ!?)

 青年の話の流れだと、どうやら魔王軍残党の下で戦わされる事になりそうだというのに‥‥だ。

 試しに小声で「ステータスオープン‥‥」と、誰にも聞こえないよう呟いてみた。


 何も出ない。

 何かの能力がある事を期待はしたいが、それを確かめる術は――少なくとも、今は――無い。



 男は冷たく告げた。

「今から君達をテストする。武器を与えるので、この塔から12時間以内に出るんだ」

 そして召喚された生徒一同を再度見渡す。

「質問は?」


「か、帰してよ‥‥」

 女の子の一人が半泣きで訴えた。

 だが男はあっさりと‥‥

「不可能だ。しない、のではなく、できない」

「どうして!?」

 女の子の声は悲鳴のようだった。


 その足元が、撃ち込まれた光線でジュッと焼ける。

 女の子は「ひっ!?」と声をあげ、怯えて静かになった。


 女の子を黙らせると、男は他の生徒達を促す。

「他には?」


 今度は不良の少年が訊いた。

「武器って‥‥何かと戦うのか?」

「この部屋の外には、下級のゾンビやスケルトンを多数放ってある」


 その意味がわからない、特にゲームなどやらない者も多いようだが、吉良(きら)の顔色は変わる。

(ノンアクティブのカワイイ系モンスターから始めさせてはくれないのか‥‥)


 次は真面目そうな少年から。

「12時間経ったらどうなるんです?」

「我が部下達が脱出できていない者を皆殺しにする」

 男の言葉に、左右に控える魔物兵達がニタニタと笑う。残虐な期待に満ちた目で‥‥。


 さらに、気の強そうな少女が訊いた。

「脱出できたら?」

「真魔怪大隊の幹部候補生として厚遇しよう。その後の手柄次第で、金も色も不自由しない生活が待っている」

 男の言い草は、さも当然かのようだった。


 質問が途切れた。

 男はマントを翻す。

「では、私は一足先に本拠地へ帰らせてもらう。塔の外には案内役の――落伍者を全滅させる役でもある――部隊を残しておくので、脱出できた者は彼らに同行したまえ」

 そう言うと青年は杖を振った。その体が光に包まれ、そして消える。瞬間移動の魔術だ。

 魔物の兵士達は、ニタニタと笑ったまま扉から出て行った。12時間後の()()を期待して、塔の外で待機するために。



 青年と魔物達がいなくなってから、誰かが言う。

「武器って‥‥どこ?」

「あの箱の中かな?」

 少年の一人が、扉と反対の壁際を指さした。


 確かにそこには大きな箱がある。

 剣や斧でも入りそうな箱が。十個少々。


 それを見て誰かが叫んだ。

「数、足りないぞ!?」


 箱の数は、召喚された人数よりも少なかった。

【登場キャラ解説】

真魔怪大隊長 スターゲイザー

 主人公達を異世界インタセクシルに召喚した張本人。

 最近滅んだ最新の魔王軍でマスターヴォイドと名乗っていた魔術師であり、魔王軍残党を率いて真魔怪大隊を結成。ヘイゴー連合を手中に収めるべく暗躍する。


 魔王軍が滅んだ今、その素顔と経歴を知る者は少ない。

 だがこの世界における現時点最強の魔術師である事はほぼ間違いない。

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