2 状勢激動の巻 5
登場人物の簡易紹介(誰かわからない奴がいた時だけ見てください)
キラー:主人公。召喚された元高校生。クラスチェンジアイテムによりニンジャとなった。
ストライク:森で見つけたカメレオン。
サイシュウ:ダンジョンで出会い、仲間になった異世界の上級冒険者。
ソフィア:共に召喚された吉良の同級生。日米ハーフの少女。
ティア姫:吉良が身を寄せるハイマウンテン王国の姫君。
サンタナ王:ハイマウンテン王国の王。
スターゲイザー:主人公達を地球から集団転移させた魔術師。
アリン:コリーン国の女騎士。クマ獣人。キラー達に敗れて軍門に降る。
山中の狭い道が多いハイマウンテン国だが、流石に主要な街道は広い。
そこを亀型の艦がのしのしと進む。
ブリッジでは、新米のオペレーターがルートを確認していた。
「もうじき関所です。森の角をまがれば視認できます」
「はい、ありがとうございます。助かります、ソフィアさん」
主座席からにこやかに礼を言うティア姫。
彼女へと振り向き、オペレーター‥‥ソフィアはくすっと微笑んだ。
「そう言っていただけると、こちらこそ助かります」
軽装ではあるが部分鎧をいくつか身に着けた武装は、ハイマウンテン国から支給された物。
今の彼女はれっきとした部隊の一員である。
彼女達のすぐ後ろで、キラーとサイシュウが顔を見合わせていた。
「なんであの娘がオペレーターやってんだ?」
「俺も知りません」
そんな二人へソフィアが肩越しに声をかける。
「いつまでも種岩君だけに養われているわけにはいかないでしょ。みんな色々と考えているのよ」
キラーの同級生達も現状を受け入れ、これからの生き方を模索し始めていたのである。
「では皆、ハイマウンテンの軍に就職するのか?」
キラーのその問いには、ソフィアは「そうじゃないけど」と否定した。
「やっぱ戦闘とか戦争とか怖いしね。半分ぐらいは街に出て、何か就ける仕事が無いか探しているわ」
「逆に言えば、半分ぐらいは軍でやっていこうとしているわけか。お前さんも」
サイシュウが訊くと、ソフィアは頷いた。
「種岩君が戦場に行かないなら、他の仕事を探したけどね‥‥。危ない事をしているなら、それをなんかサポートできないかと思っただけよ」
「すまない。ありがとう」
神妙に深々と頭を下げるキラー。
ソフィアはそれにちょっと驚いたようだ。戸惑いながら、その口調を不自然に軽くする。
「や、やだなぁ。なんか改まっちゃって」
「ケイオス・ウォリアーの操縦はしなかったのか?」
再びサイシュウが訊くと、一転、ソフィアが「はは‥‥」と微かにひきった笑みを浮かべた。
「挑戦はしたし、動かす事はできたけど‥‥種岩君に比べたら、ちょっと、ね‥‥。異界流とかいうパワーに差があるみたい。お城の人に計ってもらったら、私も普通の人の何倍もあるらしいんだけど」
そう言って再びモニターへと向き直り、ソフィアは仕事に戻った。
「もうじき国境です!」
――なんだかんだで国境に到着——
下り坂の途中に設けられた、簡易な砦も兼ねる関所。
その向こうに広がる山林に多数のケイオス・ウォリアーがいた。
どれも魔王軍やコリーン軍が使っていた物と同じ、数種の量産型機である。
それらは既に武器を準備し、いつでも突撃できる体勢だった。
亀艦は砦に入り、そこから敵を窺う。
「フン、露骨にやる気見せやがって」
サイシュウが舌打するのがわかったわけでもあるまいが、敵が動くのはほぼ同時だった。
「こ、攻撃きます!」
ソフィアが叫ぶ。
直後、砦へ、そこから伸びる境界の壁へ、矢や砲弾が撃ち込まれた!
振動と爆発音に、ブリッジのクルー達が悲鳴をあげる。
だがキラーは落ち着いていた。
「挑発か」
有効打を与えるには遠すぎる、と見たのだ。
現に砦にも国境線の壁にもほとんど命中していない。大半は手前の地面に落ちている。
「で、どうするよ」
世間話でもするかのように気楽に訊くサイシュウ。
キラーの返答は――
「やるしかないでしょう」
国境へ砲火を加えられたのは確かなのだ。
黙っているという事はこの国が無力であると認めるような物。
雇われているキラー達としては、抵抗を見せねばならない‥‥
‥‥筈なのだが。
「も、もうちょっと様子を見ましょう。一発なら誤射かもしれません」
おどおどとそう言ったのは、他ならぬ王族の姫だった。
ちょっと苛つきながら訊くサイシュウ。
「どう勘定すりゃ一発なんだ?」
おどおどする姫。
「じゅ、十発なら誤差の範囲という事で‥‥」
ちょっと苛つきながら訊くサイシュウ。
「でけぇ誤差だな。それもとっくに超えてんぞ?」
おどおどする姫。
「じゃ、じゃあ二十発までならで‥‥」
「許容範囲が上がっていくんだ‥‥」
ちょっと驚きのソフィア。
青筋を立ててアリンが吠える。
「ええい、やる気がないならなんで来たか!」
おどおどする姫。
「いや、その、攻撃にはまだ心の準備が‥‥」
青筋を立ててアリンが吠える!
「おーまーえー! 戦艦に乗ってて、なんだそれは!」
※この世界の軍艦にも数種類あり、【戦艦】に分類される物は、それ自体が高い戦闘力を持っていて、自ら前線に出る事を想定されている。
「支配国の王女によくそんな口きけるな、コイツは」
そう言いながらもサイシュウに止める気はないようだ。ちょっと苛ついてるからかもしれない。
その横でキラーは敵の様子を窺っていた。
「だがまぁ、砲撃は止んだ」
確かに、矢も砲弾も飛んでこない。
敵の姿は依然、山林の木陰にあるのだが‥‥。
「停戦ですか!?」
ぱっと姫の顔が明るくなる。
だが——
「こちらの反応がないから、本格的な攻撃の準備でもしてるんだろう。今のうちに出撃する」
そう言うとキラーは背を向け、ブリッジから走り出た。
サイシュウとアリンもそれを追って走る。
「あ、え?」
戸惑う姫。
数分後、ソフィアが姫に報告した。
「三機、出撃します! シャッター開!」
設定解説
・やる気がないならなんで来たか!
やる気があるから来たのだ。
そのやる気を危険がある場所に来た事で使い果たしただけである。
命の危険がある場所に乗り込んでその先へ進んだ事もある者だけが石を投げなさい。
できれば痛くない石にしなさい。