2 状勢激動の巻 3
登場人物の簡易紹介(誰かわからない奴がいた時だけ見てください)
キラー:主人公。召喚された元高校生。クラスチェンジアイテムによりニンジャとなった。
ストライク:森で見つけたカメレオン。
サイシュウ:ダンジョンで出会い、仲間になった異世界の上級冒険者。
ソフィア:共に召喚された吉良の同級生。日米ハーフの少女。
ティア姫:吉良が身を寄せるハイマウンテン王国の姫君。
サンタナ王:ハイマウンテン王国の王。
スターゲイザー:主人公達を地球から集団転移させた魔術師。
アリン:コリーン国の女騎士。クマ獣人。キラー達に敗れて軍門に降る。
「‥‥というわけで賠償金の話は勝手にまとめさせていただきました。さしでがましい事をしたかもしれませんが」
ハイマウンテン国に帰国したキラーは、サンタナ王への報告をそう締めくくった。
サイシュウが付け足す。
「オレの見た所、時間かけて払わせようとしても出すかどうか怪しい連中ですぜ」
「そ、そうか。まぁ貰ってしまった物は仕方がないな」
そう言う王の顔はどこか引き攣っていた。
(どっちの勝ち負けとかではなく、しばらく互いに戦闘行為は禁じましょう、という方向で考えていたのだが‥‥いや、まぁ、あくまで大切なのは先ず自国の防衛だし、こちらの勝利を主張して大人しくさせるのは正解なのか?)
ちょっと悩みながら、王は二人の横をちらと見た。
「コリーンを差別するのか! 魂の殺人だぞ! この後進劣等人どもめー!」
そう喚いて地団太を踏む、女騎士アリンを。
「なんであの人を連れてきたのかしら? 途中で捨ててくればよかったのに」
列席させてもらっているソフィアが溜息をつく。
そんな彼女の横で話を聞いていたティア姫が、キラーとサイシュウに訊いた。
「あの艦、Cシェルタートルも貰ってきましたの?」
すると喚いていたアリンが一転、胸をはって自慢しだした。
「コリーンの最新鋭艦だ。無敵の水陸両用艦だぞ」
だが姫は「え?」と訝しみ、おずおずと女騎士に告げる。
「でも浮力を得られる設計ではありません。水適応があるとは、とても‥‥」
途端に青筋立てて怒り出すアリン。
「設計は完璧だ! ケイト国から輸入した部品が悪いんだ!」
初めて聞く国名に戸惑うキラーとソフィア。
首を傾げるサイシュウ。
「ケイト帝国か? ちょいと前まではヘイゴー連合と並ぶ世界の三大国で、魔王軍にボコられてバラバラになっちまった、あそこか。しかしなんで連合内ではなくあっちから?」
それは周囲にいる大臣の一人が教えてくれた。
「生産性・質・価格のバランスでは、ケイト帝国は他国を一歩リードしていたからな。それに大昔、ヘイゴー連合ができる前までコリーン国はケイト帝国に属していた。今でも帝国への玄関口みたいな立場だし、コリーン国からの観光旅行でも連合内より帝国へ行く人の方が多いし、輸出入の経済関係でも長い付き合いだし、食べ物や娯楽の影響も‥‥」
その説明にサイシュウが顔を顰める。
「もうそれ帝国側なんじゃねぇか?」
アリンが吠えた! 怒りに吠えた!
「そんな事はない! ケイト帝国は強制的にコリーン国を属国にしていたんだぞ! それにケイトはそもそも古代コリーン人が作ったんだ! あいつらの起源はコリーンだ! だからコリーンが帝国側なんじゃなくて帝国がコリーン側なんだ!」
ソフィアが顔を顰める。
「出て行った方が大帝国になって、起源なのにコリーンは支配されてたんだ‥‥無能集団が有能な精鋭に見捨てられたように聞こえるわね」
アリンが吠えた! 怒りに吠えた!
「おのれー! このレイシストめー!」
※ケイト帝国は大多数が人間の人間族国家である。クマ獣人のコリーン国の末裔では無い。ケイト建国当時から交流があった事、遠い昔に帝国皇室とコリーン王家間の婚姻があった事が、コリーン国が帝国の起源主張をする根拠の一つ。
何やら面倒になっている話には関わらず、キラーは姫に訊いた。
「その優秀なコリーン艦だが、これからこちらの軍艦として使えそうですか?」
「多少改造すれば長期の運用も可能かと。けれど、使うんですか?」
姫の疑問に頷くキラー。
「ハイマウンテン国の軍事力も決して大きくはない。使える艦なら使いたいと思います」
それを聞いて王が訊ねた。
「使う‥‥どこにかね?」
「ニスケー国と一悶着ありそうな気がします。あちらが占領した地に、俺達が攻め込んだと考えているでしょうから。帝王の座を狙って戦い始めている国が、果たして黙っているのか‥‥と」
キラーのその説明に王の顔が強張る。
戦がまだ続くのか、という不安に。
「ふうん‥‥」
そう呟き、ソフィアも腕を組んで何か考えているようだった。
――そして数日後——
王の不安は現実の物となった。
ニスケー国からの、猿獣人兵士の使者が訪れたのだ。
「我が国の軍門に降るならよし。さもなくば容赦はせぬ!」
それが使者の言葉だった。
設定解説
・コリーンの最新鋭艦だ。無敵の水陸両用艦だぞ
コリーン史に残る最強の武将が開発したという無敵戦艦の伝説がある。
当時の魔王に滅亡の一歩手前までおいやられた時に現れ、魔王軍を一方的に蹴散らして大勝利をおさめた‥‥と伝えられている。
それを今の技術で完全に複製したのがCシェルタートルである。
最初の機動実験で水没してしまったので倉庫に安置されていた。
「残された設計図がパチモンだったのでは」「コリーン以外にそんな記録ないしな」「本当にそんな強かったら諸外国も同じ物造りまくってるだろ」と言った妄言をほざく売国奴どもは棒で叩いて黙らされ、現在は原因を究明中。
輸入した部品が悪い、というのが関係者の大まかな見解。