1 戦乱突入の巻 4
登場人物の簡易紹介(誰かわからない奴がいた時だけ見てください)
キラー:主人公。召喚された元高校生。クラスチェンジアイテムによりニンジャとなった。
ストライク:森で見つけたカメレオン。
サイシュウ:ダンジョンで出会い、仲間になった異世界の上級冒険者。
ソフィア:共に召喚された吉良の同級生。日米ハーフの少女。
ティア姫:吉良が身を寄せるハイマウンテン王国の姫君。
サンタナ王:ハイマウンテン王国の王。
翌朝。朝食を終えたソフィアは、食器を下げに来たメイドに訊いた。
「あの、種岩君はどうしています?」
「庭の方で特訓するとの事です。よろしければ案内しますが」
快く教えてくれたメイドに、ソフィアは「お願いします」と頼む。
――城壁と塔に囲まれた庭——
ソフィアと一緒に同級生達もついてきた。
そして彼らは壁を見上げて目を丸くする。
黒装束を纏い、黒い布で口元を覆い、マフラーを靡かせて、朝日の逆行を背に、城壁の上を全速力で走る影を目の当たりにして。
壁にはあちこちに段差があるが、素早い跳躍でそこを上り下り、決して立ち止まらない。
また所々で塔に行き当たるが、影はその中へ入らなかった。跳躍して屋根に登って上から超えたり、塔の壁にしがみついて横から回り込んだりする。
城の本丸に行きつけば、窓のバルコニーや矢間、装飾を手掛かり足がかりにして風のように駆け抜けた。森の中の猿とてここまで身軽ではないだろう。
「‥‥フリーランニング? パルクール?」
同級生の一人が呟いた。
その間にも影は走り、目も眩む高さの壁を、石材の間に指をかけつつ、所々で飛び降りながら下ってくる。
影が庭に着地した時——「いくぜ?」と声がかかった。
見ればサイシュウが厩舎の戸を開ける所だった。
中からは、鼻息も荒く目を血走らせた、肩の位置が人間の頭より高い牛が飛び出して来る!
当然のように、牛は角を突き出して影へと突進した。
「し、死ぬって!」
生徒の一人が驚愕。
だが影は自らも牛へと走った。
全力疾走しながら止まる事なく乱れ撃たれる手裏剣!
見事に牛の頭を捉え、獣の足を止める。
そして影は旋風と化した。繰り出される必殺の貫手!
獣のぶ厚い皮が紙のごとく破れ、密度の濃い筋肉が豆腐のごとく貫かれ、固い首の骨が煎餅のごとく砕ける。
手が引き抜かれた時、暴れ牛は既に絶命していた。
地獄のカラテを見た同級生の一人が呻いた。
「なぜ牛と戦うんだ‥‥」
※この後、牛はごはんとして美味しくいただかれるので、無意味な惨殺ではない。
我々は命を|(文字通り)いただいて生きているのだ。
原罪はともかく拍手しながら影に近づくサイシュウ。
「よしよし、上出来だぞ、キラー。自分の能力を把握したか?」
そう言ってタオルを渡す。
それを受け取り、汗と血を拭い、影——ニンジャのキラーは一礼した。
「ええ。でもこれに加えて魔法もあるんですよね」
「ああ、この世界の忍者は忍術の一環として習得するな。ま、そっちは後で城の魔術師達に‥‥」
だがサイシュウと話している所へ、ソフィアが割り込んで来る。
「ちょっと、種岩君! 何してんの?」
「あ、おはよう。今日は訓練にあてて、明日から国境へ偵察に行くんだ」
ソフィアの詰め寄るかのような勢いを、全く気にしていないキラー。
「いや、ちょっと、あれが訓練? 一歩間違えたら死ぬでしょ!」
増々声を荒くするソフィアだが‥‥キラーは淡々と答える。
「できないと思った部分はやるなと言われている。できると思ったからやったし、できた」
落ち着きつつも鋭い彼の眼光を見て、ソフィアは思った。
昨日とはまるで別人だ‥‥と。
まだ納得できず、ソフィアは食い下がる。
「‥‥ねぇちょっと。私達のせいで無理してない? 今からでもやめさせてもらえば?」
「契約破棄の理由が『気が変わったから』では通らない。それに俺は気が変わっていない」
そう言うとキラーは「行きましょう」とサイシュウを促す。
二人は背を向け、連れ立ってその場から去って行った。
「ちょ、ちょっと!」
思わず手を伸ばして呼び止めようとするソフィア。
しかし――
「いいじゃん、別に。本人がやるって言ってるし」
「あいつはマジックアイテムの力でパワーアップしたんだろ? 心配いらないって」
他の同級生達はそう言って、キラーの姿勢を肯定した。
ソフィアは彼らをキッと睨みつける。
「あのね! 一人に面倒を押し付けていいと思ってるわけ?」
そう言って‥‥気づいた。
誰も彼も、去り行くキラーから目を背けている。
多かれ少なかれ、彼らは漂わせていた。後ろめたさと、罪悪感を。
一人に押し付ける事を良しとしているわけではない。ないが——
「だったらどうするの。私達にできる事って、何?」
女子の一人の言い分こそ、皆が痛感している事なのだ。
ソフィアは何も言い返せなかった。
——城の廊下——
サンタナ王に先導され、キラーとサイシュウは格納庫へ向かっていた。
「キラー殿には我が国最高の機体に乗ってもらう」
王の言葉にキラーが疑問を挟む。
「よろしいのですか? この国の騎士や兵士は納得しないのでは」
だが王は軽く笑った。
「したさ。元最強部隊・サイシュウ殿の推薦という事もあるが‥‥それよりも、貴殿の特訓を目の当たりにしたら皆が黙ったよ」
キラーの肩で、ストライクが体色を明るい黄色に変えた。
三人は格納庫に入った。
作業員達が動き回り、人造巨人の兵士が並ぶ、その中‥‥王が案内したハンガーには、他とは全く異なる機体が立っていた。
頭部は白い鳥。
身に纏った鎧は周囲の量産機よりも重厚ながら、鈍重な印象は受けない。
背には大きな翼が畳まれていた。
王がどこか得意げに微笑みながら、キラーを横目で見る。
「鳥空型白銀級機‥‥Sゲイルイーグルだ」
【登場キャラ解説】
マスターニンジャ キラー
主人公。召喚された元高校生、本名 種岩吉良。
何をさせても45点、趣味は不人気なネット小説を書く事、自信と友人の全く無い孤独で陰気な少年だった。
異世界インタセクシルに来た直後、クラスチェンジアイテムによりニンジャとなる。
その力と心強い仲間を得て、彼はこの世界で英雄として成功する事を決意する。
設定解説
・ニンジャ
この世界においては、盗賊と戦士とカラテカと錬金術師のマルチクラス。
その起源は一万年以上昔、神話の時代にさえ遡る事が古墳の壁画により証明されている。
神々の峰と呼ばれる霊山のどこかには発祥の地となったニンジャテンプルがあり、そこでは完全無欠とならんがために大陸中から集まったニンジャモンク達が日夜修業に励んでいる。
技を極め下山するのは千人に一人とも万人に一人とも‥‥だがマスターの段位を許されたタツジン達は猿のごとく敏捷に、イルカのごとく泳ぎ、タイガーのごとく跳躍し、微風のごとく移動し、影のごとく漆黒の闇を駆け抜ける――。
また「忍」には「こらえる」「我慢する」「苦しみに心を動かさない」という意味もあるので、厳しい修行を耐え抜いたニンジャに「忍んでいないじゃん」と指摘するのは愚かな無識、全く通用していない。
真のニンジャに一切の隙は無いのだ‥‥。