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1 戦乱突入の巻 3

登場人物の簡易紹介(誰かわからない奴がいた時だけ見てください)


吉良:主人公。召喚された元高校生。クラスチェンジアイテムにより謎の能力を得る。

ストライク:森で見つけたカメレオン。

サイシュウ:ダンジョンで出会い、仲間になった異世界の上級冒険者。

ソフィア:共に召喚された吉良の同級生。日米ハーフの少女。

ティア姫:吉良が身を寄せるハイマウンテン王国の姫君。

「当座は安心、か。いつまでものんびりとはしてられなさそうだけど」

 吉良(きら)から成り行きを聞き、ソフィアは眉を(ひそ)めた。他の同級生も似たようなものだ。

 予定外の訪問があまり大勢なのも良くないと、彼らは城の一室で待たされていたのである。


 溜息を一つついてから、ソフィアは吉良(きら)の顔を覗き込んだ。

「色々ありがとう。でも吉良(きら)君、あんたはそれでいいの?」

 自分達の身柄を吉良(きら)一人に背負わせている事で、彼女も引け目を感じているのだろう。

 そんなソフィアに吉良(きら)は笑顔を――力の無い、頼りない物だが――見せた。

「選択肢は無いからね」

 その肩で、ストライクの体色が青く変化した。



——その夜。吉良(きら)は城の一室をあてがわれた——



 同級生達は男子と女子で大部屋を一室ずつだが、吉良(きら)だけは食客として専用の部屋を貸してもらえた。

 小さな部屋のベッドに寝転がり、これからの事をあれこれ考える。

 戦いの、生活の、級友達の、帰還できない事の‥‥不安な事ばかり。



 やがてノックが聞こえた。

「おい、入るぜ」

 間髪いれずサイシュウの声。

「どうぞ」

 身を起こして吉良(きら)が促すと、サイシュウが「よっ!」と片手をあげて入ってきた。


 彼は壁にもたれる。

「ちと確かめたい事があってな。お前の転移前についてだ」

「今日話したとおりですが‥‥」

「その話でいくつかひっかかる所があってな」

 サイシュウは何かを覗うように、じっと吉良(きら)を見つめた。

「お前‥‥アニメとゲームとマンガが趣味の陰キャなオタじゃねぇか?」


「!!」

 驚愕!

 確かにその通りなので吉良(きら)は上手い返事を考え付かない。


 動揺も露わな様子を見て、サイシュウがさらに訊く。

「もしかして虐められてなかったか?」

「あ、いや、それはありませんでした」

 良くも悪くも独りだったのだ。

 なぜかサイシュウは「チッ」と舌打した。

「まぁ同級生を助けてやろうってんなら、そっちは無いか」


「まぁ、浮いててボッチでしたけどね‥‥」

 そう付け加えると、一転、サイシュウの顔が輝く。

「そうかそうか! いや、それはそれでいいんだ」

 そこで吉良(きら)はピンときた。

「あの‥‥もしかして、サイシュウさんも‥‥」


 腕組みをして「フッ」とクールに笑うサイシュウ。

「皆まで語る必要はねぇだろう」


 吉良(きら)は察した。

 なぜここまで親切にしてくれたのかも。

(神獣の獣人だと言っていたけど‥‥前世は俺と同じ日本人で、俺と同類だったのか!)



 サイシュウの目が真剣みを帯びた。

「いいか。お前はもう吉良(きら)じゃない。聖勇士(パラディン)にしてニンジャのキラーだ」

「えっと‥‥」

 気圧される吉良(きら)。その名をこれから名乗るのか。正直恥ずかしい。

 しかしサイシュウの言葉に熱が籠る。

「昨日までのお前はもういない。これからお前はいくつもの死闘を演じるだろう。だが乱世というのはチャンスでもある。出てくる敵を右から左にブッちぎり、無双の末に頂点(テッペン)を掴むんだ。遠慮はするな、自虐もすんな、欲しい物は欲しいと言え、全部お前の物にしろ!」


「あ、はい‥‥」

 気圧される吉良(きら)。そういう作品は好きだったが、改めて言葉にされると恥ずかしい。


 しかしサイシュウの言葉にさらなる熱が籠る。

「上手い具合にお姫様なんていやがるじゃねぇか。まずアレをモノにすればお前はこの国の王だ」

「なんか悪役っぽい考えな気が‥‥」

 気圧される吉良(きら)。抵抗があるしやっぱり恥ずかしい。

 しかしサイシュウは目を剥いた。

「なにィ!? お前のいた日本じゃ主人公全獲りは基本ルールになってねぇのか!?」


 そこで吉良(きら)に疑問が一つ。

「あの‥‥それならサイシュウさんがティア姫を貰えばいいのでは‥‥」


 サイシュウから急に熱が抜けた。

「あー‥‥ちょっと足りねえな」

「何が?」


「チチ。大きさ」


 一瞬、何の事かわからなかった。

 胸囲の事だと理解し、失礼ながら吉良(きら)はティア姫のその部位を思い出す。

「‥‥並にはあるのでは?」

 サイシュウの目が再び真剣になった。

「もう二回りは欲しいな。巨の範囲でねぇと。できれば奇の手前が理想的だ」


 吉良(きら)は困った。非常に困った。何をどう言えばいいのだろうか。

 だがこの状況での沈黙はちょっといたたまれない。

「あの、これまでにいい感じの女性(ひと)もいたのでは?」

 名高い冒険者なら、多くの女性に出会っているだろう。そう考えた吉良(きら)が訊く。

 するとサイシュウの目がふと遠くを見るのだ。

「ああ。勇者パーティにもオレ好みの女はいたし、それなりに仲良くはしてもらったな」


(勇者パーティ! 魔王軍の最終決戦に参加したって‥‥パーティのメインメンバーだったのか!)

 納得と興奮。吉良(きら)は思わず訊く。

「その女性(ひと)は今どこに?」


「勇者と一緒だ。今頃は、な」

「‥‥!」

 遠くを見ながらのサイシュウの返事に、吉良(きら)は察した。



 (くだん)の女性は、勇者を選んだのだ。

 彼ほどの達人でも、想いを寄せる女性に選んでもらえなかったらしい。

 なぜサイシュウ自身が全獲りにいかないのか――わかった。


(選んでもらえなかったからこそ、勇者のいない所での主役づらは嫌なんだな‥‥)


 なぜサイシュウが吉良(きら)の面倒をみて発破をかけるのか――わかった。


(せめて同類で後輩の俺に、栄光を掴んで欲しいんだな‥‥)



 吉良(きら)の中で何かが切り替わった。

 何をしても45点。

 吉良(きら)は人付き合いが苦手でいつも独りだった。

 人に見込まれた事など無かった。

 期待を受けた事など無かった。

 叶わなかった願いを託される事など無かった。

 それら全て、これが初めてだったのである。



 吉良(きら)はベッドから立ち上がった。

「サイシュウさん。姫はともかく、俺、頑張りたくなりました。まだ未熟な俺を、先輩として手助けしてください!」

 サイシュウの顔が輝いた。

「おお! やる気になったか! よしよし、陰が転じて陽となったお前さんは、光と闇が合わさり最強に見えるぞ。ぶっちぎるぜぇ!」

「はい! 俺はやります!」

 それほどはっきりと決意を表明したのは、生まれて初めてかもしれない。


(ニンジャのキラー‥‥それが俺なんだ)

 この日、吉良(きら)だった少年は今までの自分と決別した。

主人公がやる気を出す回終了。

これ以降、一切何も悩まず出て来る敵を右から左に串団子式に殴り飛ばしていく予定。

ちょっとモタモタし過ぎたか。


なおサイシュウが吉良に「そういう趣味」があると気づいたのは、吉良が身の上を説明をする時に「異世界転生、じゃなくて転移で~」「チートをくれる神様はいなくて~」「ステータスもスキルもわからなくて~」etc、無意識のうちに「そういう奴っぽい説明になっていた」ので、同じ趣味嗜好を持っていたサイシュウに「こいつももしや?」と感づかれたのである。

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