1 戦乱突入の巻 2
登場人物の簡易紹介(誰かわからない奴がいた時だけ見てください)
吉良:主人公。召喚された元高校生。クラスチェンジアイテムにより謎の能力を得る。
ストライク:森で見つけたカメレオン。
サイシュウ:ダンジョンで出会い、仲間になった異世界の上級冒険者。
ソフィア:共に召喚された吉良の同級生。日米ハーフの少女。
「一緒のパーティにいたから経験値が入ってレベルアップ‥‥そんな事が?」
ゲームでは当たり前の事だ。だが自分の身に起こってみると、吉良には違和感しかなかった。
あれはあくまでゲーム内の処理であり、システムの都合でしか無い筈である。
だがサイシュウはニヤリと笑った。
「お前さんの体はマジックアイテムのパワーで、ニンジャの基礎訓練を身に付けた状態にされたからな。実戦をこなせばそりゃニンジャとしてレベルが上がるだろ」
「でも、サイシュウさんに助けられていた部分も大きかった筈ですが?」
それも実戦をこなした事にカウントされるのだろうか?
しかし吉良の疑問に、サイシュウはどこか楽しそうに説明する。
「隣で俺の戦い方を見ながら実践もしてただろうが。職場の先輩に付いて実作業するようなもんだ。基礎ができてんだから、どこ見てどう使うか、お前さんの目と体はわかってんだよ。現に‥‥戦いの中でどんどん手際が良くなっていってただろうが。本人としては無我夢中で、実感している暇は無かったかもしれねぇが」
そう言われると、ピンとくる物が無いではなかった。
サイシュウの太刀筋や立ち回り、バリア越しに見たケイオス・ウォリアーの射撃や敵の機動‥‥今までの吉良ならただ見たで終わっていただろうが、無意識のうちに、それらを観察して理解していたような気がする。
スケルトンへ刀を振り回した時も、敵の量産機へ弩を撃ち込んでいた時も、それらを基に動いていた。そうしようと、自然と思えたのだ。
不思議半分、納得半分。吉良が困惑している間に、サイシュウはサンタナ王と話を進めていた。
「というわけで、こいつは既に戦力になりますぜ」
「うむ、頼もしい。そなたの名は?」
急にきた質問に、吉良は慌てて王に答える。
「種岩吉良、です」
王は頷いた。
「タネーワ殿か」
「えー‥‥」
思わず呟く吉良。アクセントがおかしい。
サイシュウが肩を竦めた。
「ガイジンだからな。お前さんの思った通りの発音じゃなくても仕方ねーぞ」
雰囲気を察した王は新たに提案する。
「む、ご不満か。ならキラー殿と呼ぼう」
でもやっぱり微妙におかしい。
しかしサイシュウはぽんと吉良の肩を叩く。
「そっちの方がニンジャっぽいしカッコいいな。敵にハッタリも効くかもしれん。そうしろよ」
(敵にハッタリって‥‥戦う事になってしまったのか?)
発音はもう仕方ないとして、そこに流されてしまっていいのか。
吉良は悩んだ。
ふと気配を感じ、吉良は近くの柱を見る。
その陰に、こちらを恐る恐る窺う少女がいた。
流れるような長い青髪に青い瞳の、どこか儚げな少女だ。
歳は吉良とそう変わるまい。
ウォーターブルーカラーの、水をイメージしたようなロングスカートの綺麗なドレスを着ている所を見ると、身分の高いお嬢様なのだろう。王と同様、頭の左右に丸い髪飾りをつけている。
その大きな瞳は不安で満ちていた。
王も少女に気づき、声をかける。
「おお、ティアか。喜べ、名高いサイシュウ殿が、他の聖勇士まで連れて加勢してくれるぞ」
少女を呼んでから、王はサイシュウと吉良へ紹介した。
「我が娘のティアです。以後、お見知りおきを」
柱の陰からおずおずと出てくるティア姫。
「これで、我が国は守られるのですか?」
彼女が側に来ると王は自信をもって微笑みかけた。
「きっと大丈夫だ。彼らで駄目ならばもはやどうにもなるまい」
(な、なんか凄い信頼されてる?)
内心、ビビる吉良。
サイシュウが高レベルである事はわかるし、名が通っている事にも納得する。
しかし彼を通して紹介された事で、吉良にも相当な期待が寄せられているのだ。
吉良は逃げるタイミングさえ考え出した。
だがそんな彼のすぐ目の前まで来て、ティア姫は綺麗な瞳を潤ませ、胸の前で両手を握り合せて拝まんばかりに、涙ぐんで訴えたのだ。
「お願いします、キラー様。私達を助けてください」
(それはサイシュウさんに言おうよ!)
一瞬、そう考えた。
それが吉良の、最後の抵抗だ。
ティア姫はまさに昔のファンタジー物に出てきたような、「お姫様」と「お嬢様」という言葉で組み立てたような、可憐で弱々しくお淑やかな少女である。
普段から人付き合いもロクにしない吉良が、頑固に突っぱねられるわけもなかった。
「‥‥こちらも条件を出して、よろしいですか」
そう言ってしまった時。吉良がこの世界の戦乱に巻き込まれる事が決まった。
王は「ふむ?」と呟き、吉良の言葉を待つ。
そんな王に、吉良が出した条件とは――
「俺の同級生達の、衣食住の面倒をみてほしいんです」
吉良はアイテムによって得た技術がある。だが同級生達には頼れる物が何もない。
例えその場しのぎであろうと、当面だけでも食べていくアテは必要なのだ。
王は快く笑った。
「そんな事か。引き受けよう。彼らも聖勇士ならば、後々、我らのために戦ってくれるかもしれんからな」
取引は成立した。
ならば吉良は、ハイマウンテン国へ進軍する兵達があれば戦わねばならない。
「ありがとうございます、キラー様」
ティア姫はまだ瞳に涙を残したまま、それでも笑顔を浮かべて吉良の手をとる。
少女の掌の暖かさと柔らかさに、ちょっと胸が高鳴る吉良だが――その胸の半分は不安でもやもやしたままだ。
吉良の肩で、ストライクの体色が青色に変化していた。
【登場キャラ解説】
プリンセス ティア=ケリス
主人公達が身を寄せるハイマウンテン王国の姫君。
心優しく争いを嫌う少女だが、気が弱く泣き虫でもあり、危険が迫るとうろたえて殻に閉じこもってしまう事もしばしば。
寛容で心が広く、敵であろうと降伏・投降すれば許してしまう。