12 欲しがった想いがそこにあるなら‥‥の巻 7
実はこの話が最終回だ。
第一部・完!
——樹海の中、湖の辺にある村——
森の中の拓けた地に数十個の家屋がある。
大半は丸太小屋だ。林業と漁業を主軸に、田畑の開墾を進めている、ついこの間できたばかりの新しい村。
しかしこの村はとても小さな国なのである。
その国で最も大きな建物——丸太でできた城——で、夕食も兼ねた会議が開かれていた。
「そんな物があったんですか。では艦も出した方がいいかもしれませんね」
よそったご飯を配りながら意見を出すティア姫。
戦艦Cバエナガメランはハイマウンテン国から報酬の一つとして贈られた‥‥のだが、操艦できる人材がまだいないので、姫が友好国からの親善大使という形でこの国に来たのである。
なおこの城の半分以上はその艦を収容するための格納庫だ。
場所はとるが野晒しにもしておけない。
「ぼ、僕もティア姫様に賛成です。長旅なら移動基地としての艦はあるべきかと‥‥」
賛成したのは聖勇士の四原修三。
彼もまた戦後の生きる場所としてこの国を選んだ。
そしてティア姫が出す意見全てを毎日全肯定している。
一方、シャンマウが急に歓声をあげた。
「おお、おかずが来たにゃー」
剣歯虎獣人・メガンテレオンがカートに積んで来た焼魚の皿を見て、退屈そうな顔から一転して涎をたらす。
シャンマウとメガンテレオンはウェスパレスからの客人である。虎王マックスはキラーがいたく気に入ったらしく、統一後も引き続き戦力を派遣してくれているのだ。
「はいはーい、沢山ありますよ」
にこやかに皿を配るシンディ。
そのお腹は緩やかに膨れている。彼女は妊娠しているのだ。
生体人造人間なので、懐妊する機能があるかどうかはグレードとオプションによるのだが——まぁつまり、そういう能力有りで作成されたのである。
旦那がタイキなのは言うまでもない。結婚式はこの村誕生後最初のイベントとして行われた。
「チッ‥‥ヨリを戻したらその日の晩から人口増加計画始めやがって」
「嫉妬は常に醜いですね」
苦い顔をするサイシュウに、キャシャロットが菜っ葉の皿を配りながらジト目を向ける。
懐妊の時期を考えると挙式の前にする事をしていた筈だが、それは他人がどうこう言う事ではないのだ。
しかしまぁ僻む奴もいるだろう。サイシュウは叫んだ。
「うるせー! おいタイキ、てめぇは留守番組だからな! 今度はオレが行く!」
約二週間かけた探索隊。サイシュウはそれに参加せず、他の聖勇士とともに留守番だった。
樹海の中にはモンスターも多い。国には防衛軍も必要なのだ。
「いや、僕もこの国の宮廷魔術師として参加を‥‥」
タイキは反論するが、サイシュウは納得しなかった。
「宮廷つってもこのでかい丸太の家だろうが! オメーが出張してる間、いつ帰ってくるのかとシンディが毎日心配して聞きやがるんだよ!」
「慰めの言葉も三日目ぐらいで早くも尽きてましたね」
珍しくキャシャロットも同意していた。
新婚の奥さんが出張中の夫を気にかけるのは良い事だが、毎日同じ茶番に付き合わされるのが面倒でないわけではないのだ。
「真面目な話、トップ三人の誰かは残ってくれないとね」
ソフィアまでが、味噌汁を配りながらそう口を挟む。
彼女が言っているのは王のキラー・将軍のサイシュウ・宰相のタイキ、この三人だ。
まぁ官位は一応割り振ったものの、キラーとタイキが共に調査で外出する事でもわかるとおり、現時点では役職は飾りである。
だが能力的・戦力的な問題で、最低一人は村に残る事になっていた。ソフィアはその念を押しているのだ。
しかしタイキはまだ不服のようだ。
「奢りに聞こえるかもしれないが、アイテムや魔物の知識で僕以上の者は今この国にはいない。未知の領域を探索するのに必要不可欠なのでは‥‥」
だがソフィアはにっこり微笑む。
「奢りに聞こえるでしょうけど、代役が勤まるつもりで立候補するわ」
言ってキラーヘと振り向いた。
「私がね。どう?」
穏やかに「フッ‥‥」と笑うキラー。
「異論は無い。頼もう」
いつも鋭い目には深い信頼が満ちる。
その肩でストライクが体色を橙色に変化させていた。
「チッ‥‥ピンクの花があちこちで咲きやがる」
顔を顰めるサイシュウ。
「咲くべき所とそうでない所は非常に正しいですね」
「オメェはいちいち‥‥!」
流石に頭にきたか、キャシャロットへ怒鳴ろうとした、その時。
ドタドタと大部屋に駆け込んで来る者が一人!
「おい! 聞いたぞ! 石の鉱脈が見つかったそうだな!」
大声をあげたのはコリーン国から派遣された形のアリンだった。
「随分と歪曲されて伝わったな‥‥」
額を抑えるマンドリオ——彼もまたニスケー国から派遣されたのだ——が呻くが、アリンは部屋中に響く声で叫ぶ。
「私も次の探索部隊に加わるぞ! 探検の起源はコリーンだからな! 未開の地底を制圧だァッー!」
サイシュウが深い溜息をついた。
「全く、希望がどこまでも昇っていく国だぜ」
新国家の名は【アーガル】。
キラーの故郷の言葉「上がる」を、そのまんまだとちょいダサいという事でそれっぽく変えた、仲間達が笑いながらも賛成してくれた名前なのだ。
ちょっとおかしな名前ではあっても。
それが皆の望みで、きっと名に相応しい未来があると。
仲間達はみんな、全く疑っていなかった。
(完)
以上、彼らの戦いはこれからだ!
長くお付き合いいただきありがとうございました。
試しに一つとここを覗いた方は、最初の一話も見ていただければ嬉しく思いますな。