12 欲しがった想いがそこにあるなら‥‥の巻 6
登場人物の簡易紹介(誰かわからない奴がいた時だけ見てください)
キラー:主人公。召喚された元高校生。クラスチェンジアイテムによりニンジャとなった。
ストライク:森で見つけたカメレオン。
ディナル:キラーとその邸宅を世話する専属メイド。外見年齢は十代。
キャシャロット:カパード国でキラーに買われた元メイドの奴隷少女。マッコウクジラ獣人。
——樹海の中、湖の辺にある村——
樹海の外、ヘイゴー連合へと続く林道。
そこをメイドがリヤカーを牽いて村へやってきた。
沢山の家具を載せたリヤカーはさぞ重かろうが、メイドはそれを一生懸命牽いている。
いきむあまり白い肌が真っ赤になっているが、足はふらついて危なっかしいが、それでも彼女は村へ入って来た。
何人かの村人がこの来訪者に目を丸くするも、メイドは構わず‥‥というか気にする余裕もなく、ついに地面へへたり込んだ。
「は、はひぃ‥‥やっと着いた‥‥」
虚ろな瞳で天を見上げ、しばし呆然。
そんな彼女へ声をかける者が一人。
「あ、ディナルさん。なんでここに?」
それはキラーのメイド、キャシャロットだった。
フラつきながらも立ち上がるディナル。ややヤケクソ気味に叫ぶ。
「引っ越してきたに決まってるやろ!」
「なんでリヤカー牽いて来たんです?」
「私は馬にもケイオス・ウォリアーにも乗れないから仕方なかったんや!」
キャシャロットにそう叫ぶと、また力尽きてへたり込んだ。
いや‥‥今度はがっくりと崩れ、地面に倒れた。
側に近寄り、その頭をつんつんつつくキャシャロット。
ディナルは地に伏したまま呻いた。
「ぐおぉ‥‥ナメよって。なんで開拓団のメンバーは軍と技術者からの立候補やねん」
「他の職や民間からは、ある程度の下地ができてからの二次募集で募る予定ですから」
キャシャロットの言い分に、ディナルはガバッと顔を上げる。
「キャシャロットちゃんも! 私と同じでメイドやろ! なんで一次メンバーにおるんや!」
「ご主人様個人にお仕えしているので、国の規定は無関係です」
キャシャロットの言い分に、ディナルは再び力尽きて地に伏した。
「ぐおぉ‥‥その手があったんか‥‥」
「ここに勝手に引っ越す時点で、ディナルさんもハイマウンテン国からは退職しているのでは?」
キャシャロットの言い分に、ディナルは突っ伏したまま頷く。
「うん、してきた‥‥という事は、同じ事をいらん遠回りと労力かけてやってたんか‥‥ち、チクショウ」
「ならば俺が雇わねばならんという事か」
その声はキャシャロットではない。
馴染みのある男の声に、ディナルは勢いよく上体を持ち上げる。
「キラー様!?」
そう‥‥そこにいたのはかつての主人、キラー。
その向こうには、彼が降りたばかりのヒエイマルが立っていた。
「あ、帰ったんですか」
「ああ。今し方な」
キャシャロットに頷くキラーを見て、ディナルは、安心したような、疲れきったような、そんな微妙な表情を浮かべると、またもや地面に突っ伏した。
「お帰りなさいませ。立ってお出迎えできない事をお許しください。回復したら改めて挨拶に伺いますので、今しばらくこのまま寝てます‥‥」
「正確には倒れていますね」
「それにしたって家の中で、な」
キャシャロットにそう言うと、キラーはディナルの側に来た。
彼女の体を抱え、力強く持ち上げる。
いわゆるお姫様抱っこの体勢になった。
「おひゃあ!?」
変な声をあげてしまうディナル。
これまでの人生で男性に抱かかえられた経験は、子供の頃に父親のみ。
そんな彼女が驚いて動揺するのも仕方ない事だろう。
真っ赤な顔で口をパクパクさせるディナルを、キラーは優しく運び、そっとリヤカーに置いた。
そしてリヤカーを牽き出す。
(‥‥!!)
慌てて手をわたわたと振り回すディナル。
「きききキラー様、お構いなく! ほら、ケイオス・ウォリアーも格納庫に入れないと‥‥」
言ってディナルはヒエイマルの方へ振り向いた。
ヒエイマルは勝手に歩いて村で一番大きい建物へ向かっていた。
「なんで!?」
驚愕するディナル。
ヒエイマルは生体ニンジャロボだ。自立行動が可能な事はこれまでの話で証明されている。
ニンジャの世界では常識など一切通用しない——常識は通用しないのだ!
「しょっちゅう家を空けるんでな。来てくれて助かった。ありがとう」
リヤカーを牽きながら、肩越しに声をかけるキラー。
あわあわと狼狽えながらもディナルは必死に訴える。
「あ、い、う、ええ、お世話させていただきます! ずっと!」
そう言いながら、頭の中では悪態をついていた。
(チクショウ! なんでこの世界に10年早く来てくれなかったんや!)
夢見て十年、見ないふりをして数年。
ちょっと遅い甘酸っぱい春が、今さら彼女の胸に来ていた。
設定解説
・私は馬にもケイオス・ウォリアーにも乗れないから仕方なかったんや!
ケイオス・ウォリアーを操縦するには次元の力・異界流が必要。
だがこの技術が生まれて数千年、革新と向上が繰り返された結果、必要な異界流の下限が更新され続け、この時代では転移者ではない現地住民でも乗れるようになった。
とはいえ適正が全く要らないわけではなく、操縦可能な適正を持つか否かは大体半々。
二人に一人しか操縦できない兵器を有用と見るか無能と見るかは意見の別れる所だ。
そしてディナルは適正が無い方の人なのである。