12 欲しがった想いがそこにあるなら‥‥の巻 4
登場人物の簡易紹介(誰かわからない奴がいた時だけ見てください)
キラー:主人公。召喚された元高校生。クラスチェンジアイテムによりニンジャとなった。
ストライク:森で見つけたカメレオン。
ソフィア:共に召喚された吉良の同級生。日米ハーフの少女。
カートを掴み、代わりに押しながら、ソフィアを横目で見つめて切りだすキラー。
「どういたしまして。話がしたかったから、そのついでだ」
「え? ええ、何かしら?」
キラーは二人だけで話がしたくて自分を追って来たのだ——それに気づいてソフィアは動揺した。
そんな彼女に、キラーが話したい事とは——
「王と話はついた。土地の目星もつけてある。俺はヘイゴー連合に隣接する樹海に国を建てる。有志による開拓団と共にな」
その件はソフィアも知っていた。
既に物資と人員の準備も進んでおり、出発も遠い話ではない。
「大変だろうけど、頑張ってね」
彼女自身は参加を希望しなかった。かつて、自分がそんな場所で人の手助けをしたかった事を思い出しながら‥‥激励はする。
すると彼女の方へ、キラーははっきりと顔を向けた。
「ソフィアも一緒に来てくれ」
「わ、私!?」
思わず素っ頓狂な声が出た。
キラーは少し戸惑っているようだった。
「そこまで驚かれる事か? この国の王城に勤める気になっているなら、無理にとは言えないが‥‥」
キラーの肩にいるストライクがぎょろぎょろ目玉を動かしてソフィアを見つめる。
思わず、彼女は目を逸らした。
「そうじゃないけど。でもサイシュウもタイキさんもいるし」
それこそが、彼女が立候補を躊躇った理由だった。
キラーと他の二人。能力の高さもさる事ながら、全身全霊で手を組んだりぶつかりあったり——その結果、互いに認め合って、目的を同じくして次の道へ。
そんなキラーと自分との間に、何か越え難い壁を感じる。その向こうに自分が必要だと思えない。
「そこに君もいて欲しい」
キラーがそう言っても、ソフィアはぷいと目を逸らした。
「私がそういう仕事を、地球でやりたかったと、前に話したから? チャンスをあげようって事? 流石は無敵のニンジャマスター、強い男達の王様だもんね」
茶化すように、小馬鹿にするように。
言った途端、自己嫌悪が胸に溢れる。
(‥‥何を言ってるんだろ、私。嫌な奴。いっしょにやってきた仲間として誘ってくれてるのに)
ただ、自分がおんぶに抱っこされるような立場に思えて。
なんだか惨めな気持ちだったのである。
だがキラーは‥‥嫌がりも怒りもしなかった。
「最強キャラか。うん、サイシュウさんに遠慮するなと言われて、ずっとそうなろうとしてる」
思わずソフィアはキラーへと振り向く。
彼の口調は、この世界に召喚されて初めて言葉を交わした時の、気弱な少年のそれだったのだ。
口元を覆う布は下ろされ、素顔が露わになっていた。
だからその顔が初めて会った時の少年の物になっている事も見て取れた。
キラーはカートを押しながら俯く。
「強い事を言う度に、できるかどうか、勝てるか負けるか、いつも不安だけど。言わないとやる度胸が出ないし、成功するとほっとして‥‥痛い目を見た時は、怖がってる自分に、俺は強いキャラなんだと言い聞かせてる」
目の鋭さも、強靭な雰囲気も有りはしない。
全く無い。
「有り得ない奇跡で転機があったから‥‥成りたかった俺をやっているんだ」
そのためには瘦せ我慢も必要となる。
忍者とは忍ぶ者。忍ぶという語には、我慢する・堪えるという意味もある。
キラーは己の求める己であるため、まさに忍者なのだ。
キラーがソフィアへと顔を上げた。
「ソフィアさんも、一緒にやってくれないかな。成りたかった自分が胸にある君になら、他の人とは違う意味で、安心して頼れるから。君に‥‥お願いしたいんだ」
その、一生懸命に訴える瞳に、ソフィアは心臓が跳ね上がるかと思った。
精強な男の中にいた、かつてのか弱い少年。
彼が安心を求めているのが自分であるということ。
自分が要らない人間ではなかったということ‥‥。
嬉しさで頭が熱くなる。そのせいで思考が上手く働かない。
それで、こんな事を言ってしまう。
「種岩君は、そんなに私がいいんだ?」
言ってさらに血が昇った。
(なんて聞き方をするの、私は!)
吉良少年は真っ赤になって俯く。
「‥‥うん」
応える声は小さかったけれど、ソフィアにははっきりと聞こえた。
言葉が出ない。
足が止まる。
思わず足元を見る。顔を上げられない。
「あの?」
吉良少年も足を止め、躊躇いがちに振り向く。
気弱な彼が度胸を振り絞った申し出に、ソフィアは大きな声で応えた。
「はいはい了解! よろしくね、キラー!」
顔を上げずに叫んだのは誤魔化すためだ。
真っ赤な顔が緩んでしまうのをどうしても止められないのだ。
ちょっと驚きはしたが、一瞬、少年は照れ臭そうに微笑んだ。
「よろしく頼む、ソフィア」
そう言った時には、口元を覆う布を上げ、顔色を含めていつもの冷静なキラーに変わっていたが。
「じゃあさっさと料理を取りにいくわよ! みんな待ってるし!」
叫んでソフィアは厨房へ向かうため、キラーの隣でカートを押す。
実に自然に——というのはソフィアの主観だが——キラーの隣に入り、肩を触れ合わせながら。
二人は一緒に歩き出した。
主人公に恋愛要素がほぼゼロだったので最後に入れておいた。
まぁソフィアの地球での話を出した時、いずれはやろうと思っていた事だが、結局最後にしか入れるタイミングが無かった。
無いなら無いでいい話でもあるのだが、せっかくなので入れてはおく。