12 欲しがった想いがそこにあるなら‥‥の巻 2
登場人物の簡易紹介(誰かわからない奴がいた時だけ見てください)
キラー:主人公。召喚された元高校生。クラスチェンジアイテムによりニンジャとなった。
ストライク:森で見つけたカメレオン。
サイシュウ:ダンジョンで出会い、仲間になった異世界の上級冒険者。
ソフィア:共に召喚された吉良の同級生。日米ハーフの少女。
ティア姫:吉良が身を寄せるハイマウンテン王国の姫君。
スターゲイザー:主人公達を地球から集団転移させた魔術師。
アリン:コリーン国の女騎士。クマ獣人。キラー達に敗れて軍門に降る。
マンドリオ:ニスケー国の将軍。ゴリラ獣人。キラー達に敗れて軍門に降る。
キャシャロット:カパード国でキラーに買われた元メイドの奴隷少女。マッコウクジラ獣人。
セファラス女王:カパード国の女王。ハダカデバネズミ獣人。キラー達に敗れて軍門に降る。
スフィル王子:アーマルベン国の王子。キラー達に加勢した縁で仲間に加わる。
シャンマウ:ウェスパレス国の女グラップラー。ネコ獣人。
シンディ:旅の途中で拾った、人造人間種族のメイド少女。
一刀両断!
真っ二つになって転がるスターゲイザー!
‥‥の、仮面。
その下にあったのは、キラー達がかつて遭遇した事もある魔術師。短い黒髪にあまり特徴のない容貌の、キラーと同世代であろう青少年だった。
「終わりだ。スターゲイザーは叩き斬ったぜ。で、タイキ。お前はどうすんだ」
サイシュウは呆然とするタイキを睨みつけ、怒鳴った。
「申し出を受けてこっちに就くか、どこへなりともさっさと失せるか! たった二つの選択肢だ、どっちにするかはっきり自分の口で言え!」
そこへハイマウンテン勢が駆け寄ってきた。
各自の機体から、艦から降りて。
アリンもまた、目を吊り上げてタイキへ怒鳴る。
「どこかへ行くならシンディは置いていけ! キラーの国でアイテム作成と変換をやらせるからな」
「何を勝手なこと言ってやがりますか」
ジト目で睨むキャシャロット。
しかしサイシュウが親指を立てる。
「いや、いい案だ。ついでにオレの再建ハーレム第一号に入れるぜ。男にとことん都合いい女って所が、俺の好みにクリティカルヒットだ」
「おい血迷いすぎですHAGE。喋るな」
ギザ歯を剥いてキャシャロットが唸った。
ところがなんと、キラーが同意するではないか。
「それでいいと思う。負け犬のまま失せる男を一生世話させるより、英雄の一人に可愛がって貰える方が、客観的には幸せだろうからな」
ソフィアとキャシャロットが「えっ!?」と驚く横で、シャンマウは気楽に笑った。
「まぁその方がヘイゴー流だにゃ」
おずおずと、うつむき加減でシンディが呟く。
「サイシュウさんは、素敵な人です」
「気を確かにもってください」
キャシャロットが唸った。
「でも、私は‥‥ご主人さまのものなのに‥‥」
そう言って‥‥シンディはせつなげな瞳を、タイキに――彼女の主人に向けた。
弱々しく力の無い目で、タイキは視線を返す。
「本当に、都合のいいヒロインだな。手に入れているんだ、僕は。なりたかった強い男には‥‥なれなかったのに」
「君の空振り作品の、無敵主人公みたいな男にか?」
キラーにそう言われ、タイキは驚いて振り向いた。
(なぜ僕が故郷で書いた小説を知っている!?)
たじろぐタイキに、キラーは淡々と告げる。
「敵を知り己を知れば百戦してなお危うからず。シンディからスターゲイザーの事は色々聞いた。タイキが故郷の世界で、アマチュア小説を書くのが趣味で、自信作が全く顧みられない空振り作品だった事もな」
「クッ‥‥」
苦い過去をほじくられ、唇を噛むタイキ。
だがさらにキラーは言葉を続ける。
「大した特技も自慢できる能力も無い、その他大勢の一人だった事もな」
打ちひしがれていたタイキの声に、過去に触れられた苛立ちと憤りが、僅かに力を籠めさせた。
「ああ、そうだ。だからこの世界で、異界流レベルを高くもっている事を知って、僕は変わろうとしたのに‥‥!」
「俺と同じだ」
「!?」
突然のキラーの、思いがけない告白。
タイキは驚き、動揺する事しかできない。
「サイシュウもな」
「!?」
さらに続く、キラーの言葉。苦笑いするサイシュウ。
タイキは驚き、動揺する事しかできない。
何も言えなくなったタイキを、キラーは真っすぐに見つめた。
「さっきも言ったが、俺はタイキの能力を求めている。弱かった奴が、転機を掴んで、無理も無茶も背伸びも必死になって、俺の前に最大最強の敵となって立ちはだかっていた、その能力を‥‥だ。俺と同じ側の奴だったからこそ、俺は君に負けたくないと思った。そして持てる力も持ってなかった力も全部叩きつけて、勝つ事ができた」
その目が力と鋭さを増す。
「おかしい事は承知で言う。俺は感謝したいぐらいだ。そして君が味方になれば、これから苦戦続きになる俺にとって、きっと頼りになるだろう」
そんなキラーの後ろで、サイシュウがニヤリと笑った。
「で、二択の答えは決まったな?」
タイキは‥‥一度項垂れ、自分のつま先を見て、ちょっとの間、逡巡したが。
それは道を迷っているのではなかった。
言葉を探しているのだ。
再び顔をあげた時、キラーに視線をぶつけ、彼ははっきりと告げた。
「僕のなりたかった僕になれなかった。けれどまだ、なる事を諦めたくない。だから‥‥世話になる」
キラーは深く頷く。
「ああ。お互いにな」
「ご主人さま!」
シンディが歓喜の声ともにタイキの胸へ飛び込んだ。
それを受け止め、穏やかに微笑むタイキ。
それを前に「ククク‥‥」と笑うサイシュウ。
「なんなら故郷で書いたヘボ作品を書き直して見せあうか? オレは主人公以外の名有りキャラ全部が女の異世界ハーレム系だぜ」
頷くキラー。
「俺は役立たずだと思われていた奴が最強だった系だ」
シンディを抱いたまま、少し照れ臭そうなタイキ。
「僕は‥‥生まれ変わってやり直したら何でも上手く行く作品なんだ」
「魔境じゃないですか」
キャシャロットが口をヘの字に曲げて唸った。
三人の男達は互いに笑いあう。
最初は微笑み、次に小さく声をあげて‥‥最後には陽気に、大きな声で。
ついさっきまで巨大な兵器での死闘が繰り広げられ、今は撃墜された機体の残骸と、戦い終わって疲労困憊の兵士達があちこちでへたり込んでいる山中に、明るい馬鹿笑いが響き渡った。
ハイマウンテン勢の、各国から集まった獣人達も。ある者は穏やかに、ある者はニヤニヤと、ある者は「ウェハッハー!」と訛り丸出しで‥‥皆が笑顔を見せていた。
まぁソフィアだけは、三人を横目に「ふん、だ」とちょっぴり拗ねていたが。
それは別に、彼らへ否定的な気持ちがあるわけではない。
この日。ヘイゴー連合内での戦いは終わった。
新しい時代に、ようやく一歩が踏み出された。
設定解説
・シンディからスターゲイザーの事は色々聞いた
実のところ、むしろ「タイキが自分の同類ではないかと疑った」のが根掘り葉掘り聞いた最大の理由である。
スターゲイザーが【禁断の魔筆】の能力を、わざわざ誇らしげに、出来の悪い木端小説に例え、それを完全肯定する方向で解説した時に「こいつももしや‥‥!?」と疑いを持ったのだ。
シンディからの情報で確信を得た後、キラーの闘争心の中に「自分の上を行っている同類」への対抗意識とそれに挑戦したい意欲が加わった。これが戦いの中で大きなプラスになったのは間違いない。
男を成長させるものは、なまじの味方との平和よりも、すぐれた敵との激闘の嵐である!(昔の作家・談)