11 明日なき総力戦の巻 10
登場人物の簡易紹介(誰かわからない奴がいた時だけ見てください)
キラー:主人公。召喚された元高校生。クラスチェンジアイテムによりニンジャとなった。
ストライク:森で見つけたカメレオン。
サイシュウ:ダンジョンで出会い、仲間になった異世界の上級冒険者。
ソフィア:共に召喚された吉良の同級生。日米ハーフの少女。
ティア姫:吉良が身を寄せるハイマウンテン王国の姫君。
スターゲイザー:主人公達を地球から集団転移させた魔術師。
アリン:コリーン国の女騎士。クマ獣人。キラー達に敗れて軍門に降る。
マンドリオ:ニスケー国の将軍。ゴリラ獣人。キラー達に敗れて軍門に降る。
キャシャロット:カパード国でキラーに買われた元メイドの奴隷少女。マッコウクジラ獣人。
セファラス女王:カパード国の女王。ハダカデバネズミ獣人。キラー達に敗れて軍門に降る。
スフィル王子:アーマルベン国の王子。キラー達に加勢した縁で仲間に加わる。
シャンマウ:ウェスパレス国の女グラップラー。ネコ獣人。
シンディ:旅の途中で拾った、人造人間種族のメイド少女。
「結局、僕は勝てなかったか‥‥」
大地に仰向けになり、青い空を見上げながら、スターゲイザーは力の抜けきった声で呟いた。
近くには大きなクレーターがあり、底には爆発したSハンドレッドアイが煙をあげている。機体から脱出装置で弾き出されて一命はとりとめたものの、スターゲイザーにはもはや何をする力も無かった。
体にも。
心にも。
「好きにするがいい」
「それは好都合」
キラーは戦艦に通信を送る。
「姫。勝ち名乗りを」
「あ、はい。え‥‥と。すいませんが、我がハイマウンテン連合が勝利しました。シソウ国と真魔怪大隊の方々は降参してください。抵抗しなければ攻撃はいたしません」
ティア姫のおっかなびっくりな勝利宣言。しかし効果は十分だった。
シソウ国側の兵士達は残らず攻撃を止める。対するハイマウンテン側も余計な事をせず、戦闘は立ちどころに終わった。
真魔怪大隊の魔物どもは、蜘蛛の子を散らすようにいっせいに逃げていく。首領が敗北してなお踏み止まるような物は一匹もいなかった。
「敵の王様が増援に来たのも、勝っちまえば好都合だな。こいつに降伏を宣言させれば亀王のサンタナさんが新帝王ってわけだ」
サイシュウがボロボロの自機の掌を見る。そこにはケガを負ってうめくカエル王インディブルが。
彼も脱出装置で弾き出され、落下の際に負傷したのである。それをサイシュウが確保したのだ。
また、Sクマーベアーもやってきた。その後ろにはボコボコにヘコんだSデルタポッドの無残な姿が。召喚キャラ達も既に消えている。
アリンが通信を送った。
「おいキラー。スターゲイザーの命を助けるような事を言っていたが、本当か?」
「ああ。こいつにはやってもらう事がある」
キラーの返事を聞き、スターゲイザーは倒れたまま訊く。
「私に? 何をだ。所有している魔王軍の遺物なら砦に運んである。勝手に持って行け」
頷くキラー。
「それは貰おう。そしてお前もだ」
「なんだと?」
流石に驚き、スターゲイザーは上半身を起こす。
それにキラーは静かな声で告げた。
「以前宣言した通り、俺はこの後、俺の国を建てる。お前はスターゲイザーをやめ、三河大樹に戻って、今後は俺の国家運営のために尽力してもらう」
ハイマウンテン勢の機体から驚愕の声!
「「「な、なんだってー!?」」」
「‥‥そいつをスカウトするのか」
呆れたように言うサイシュウ。
スターゲイザーも、信じられないといった風に首を振っていた。
「馬鹿な。私は魔物を率いてこの国の戦乱を煽っていた身だ。許されると思うのか」
「許す許さんの話など知らんな。俺は裁判官ではない」
キラーは静かに、しかし強く断じる。
しかしスターゲイザーは納得しなかった。
「この連合内に、私の私欲で命を落した者は数えきれんぞ」
「それは言わんでもらおうか‥‥俺にとっても都合が悪い。俺とて自分が成り上がるために戦いへ参加した。俺がいなければ死ななかった奴も一人や二人ではない筈だからな」
キラーは静かに、しかし強く断じる。
それでもスターゲイザーは納得しなかった。
「死者にはお前の同級生もいる」
「俺の友人がその中にいれば話は違っただろうがな。だが顔と名前が一致もせんくせに、彼らを理由に正義ヅラはしない。まぁ‥‥何らかの形で弔いはしよう」
なおもスターゲイザーは納得しなかった。
「だから私の、敵の首領の命を助けるというのか!?」
「益となるなら昨日までの敵を自陣営に引き込む。受けた被害と今後の見込みを天秤にかけ、得るべきだと思えば恨みつらみも飲みこむ。戦国の世はそういう物じゃないのか」
キラーは静かに、しかし強く断じる。
だが、そこで声の調子が変わった。どこか自問しているかのように。
「‥‥いや、違うな。世の中がどうこうじゃない。俺が三河大樹を、その力と組織運営の経験を買っているんだ。例え世の中の道理で考えれば否があろうと‥‥な」
スターゲイザーが立ち上がった。よろめきながらも、必死に。
そして怒鳴る。
「ふざけるな。今さら、私が情けをかけられるなど!」
「なんでお前がさっきから責める側なんだよ」
溜息まじりに呆れるサイシュウ。
一方、キラーは戦艦に通信を送った。
「まだ従わないというなら、最後の札をきるまでだ。頼むぞ、シンディ!」
声をかけられ、艦ブリッジの隅に座っていたシンディが俯いていた顔を上げる。
「やっとですか」
ティア姫の頭に「?」が浮かぶ。
その声はシンディの物ではなかったからだ。
しかし聞き覚えはよくある声。
シンディの両手両足が外れた。よくできた作り物だ。
短い手でかつらを外し、ハンカチを取り出してごしごしとメイクを落とした。
ギザ歯を剥きだす三白眼の、その少女は——
「ええええ!? キャシャロットさん!?」
たまげるティア姫、およびブリッジクルー。
キャシャロットは椅子から降りた。
「血迷った奴がまた人質とか盾とか言い出すとスターゲイザーが言う事きかなくなるというんで、私が変装させられてました」
結果的には不要であったが、まぁ結果論だけで備えを疎かにするのは良い事ではないのだ。
※諜報・潜入も忍者の主な仕事である。そのため一流の忍者は変装術も学んでいるものだ。
そして変装の技術は、他者を変装させる事にも当然ながら応用が利く。
「じゃ、じゃあ、本物は!?」
ティア姫が慌てふためいていると、上空からSゲイルイーグルが降下してきた。
設定解説
・戦闘は立ちどころに終わった
この連合内の新帝王を決めるための戦いは、負けた者達が被差別階級に落とされたり国が取り潰しにあったりするわけではない。
戦いが終わってしまえば皆が新帝王の庇護下に入る「連合国民」である。
敗戦国を必要以上に虐げては「いけない」という暗黙の決まりがあるし、むしろ強敵として食い下がった者達は讃えろという風潮まである。
よって敗北した国の者達が戦後もしつこくレジスタンスやゲリラになるケースは滅多に無い。