11 明日なき総力戦の巻 3
登場人物の簡易紹介(誰かわからない奴がいた時だけ見てください)
キラー:主人公。召喚された元高校生。クラスチェンジアイテムによりニンジャとなった。
ストライク:森で見つけたカメレオン。
サイシュウ:ダンジョンで出会い、仲間になった異世界の上級冒険者。
ソフィア:共に召喚された吉良の同級生。日米ハーフの少女。
ティア姫:吉良が身を寄せるハイマウンテン王国の姫君。
スターゲイザー:主人公達を地球から集団転移させた魔術師。
アリン:コリーン国の女騎士。クマ獣人。キラー達に敗れて軍門に降る。
マンドリオ:ニスケー国の将軍。ゴリラ獣人。キラー達に敗れて軍門に降る。
キャシャロット:カパード国でキラーに買われた元メイドの奴隷少女。マッコウクジラ獣人。
セファラス女王:カパード国の女王。ハダカデバネズミ獣人。キラー達に敗れて軍門に降る。
スフィル王子:アーマルベン国の王子。キラー達に加勢した縁で仲間に加わる。
シャンマウ:ウェスパレス国の女グラップラー。ネコ獣人。
シンディ:旅の途中で拾った、人造人間種族のメイド少女。
——スリーク山脈、山々に囲まれた物々しい砦の側——
朝日を浴びる砦に、対岸の斜面で対峙するハイマウンテン連合。
既に真魔怪大隊とシソウ国の連合軍も陣をしいており、互いに睨み合っている。
「ここまで来たら突っ込むだけか」
正面に集結した敵軍を眺め、サイシュウが呟く。
キラーは戦艦Cバエナガメランに通信を送った。
「外はどうなってる?」
「スターゲイザー傘下の国が、こちらと睨み合いになったみたいです。マックス王が、その、叩き潰したいがいいかと質問を‥‥」
ティア姫の困った声が返って来た。
敵の後ろや側面をつけないか、各国の王達が率いる部隊に動いてもらっている。
だが敵も同じ事を考えていたようで、別動隊同士が少し離れた場所で互いに牽制しあう状態に陥っていた。
その状況で、キラーの判断は――
「ちょっと待たせてくれ。できるだけ戦闘の被害は少なくしたい」
敵の総大将を自分達で討ち、被害を最小限に抑える事だった。
「さっすが。私もその意見に賛成よ」
「うむ。帝王が決まれば同じ連合の住民同士ですからな」
ソフィアはにこやかに、マンドリオは腕組みしながら深く頷いて同意する。
「真魔怪大隊の奴らは魔物だぞ!」
「そいつらはぶっとばせばいいにゃー。でも私らが今から大将首をあげるんだから、他の場所は大人しくしてろってのには大賛成!」
アリンは魔王軍残党に容赦するつもりは無いが、まぁそれは他のメンバーも同じこと。
シャンマウは大舞台を前にした高揚から、これもキラーに賛成した。
「僕もキラーさんと同じ意見です。戦いが終われば隣人同士、被害も犠牲も恨みもできる限り減らしたい」
スフィル王子はキラーと思いを同じくする事を告げた。
「ああ。余計な犠牲を出して復興資金がそこへまわるより、俺がもらって建国に使いたい」
正直に告げるキラー。
王子にとって残念ながら、思いは同じでは無かった。
何名かが複雑な顔をするが、気にせずキラーは通信をモニター越しに送った。
「シンディ‥‥そこで見届けてくれ」
シンディの姿は、戦艦のブリッジにあった。
壁際に一人、椅子に座り、俯き加減で黙ってこくりと頷く。
「やっぱシンディなのかのう? のう?」
「知らないって」
セファラス女王がソフィアに半笑いで訊いたが、彼女はぷいと横を向いた。
——やがて朝日の中を、全軍が一斉に動き出す——
陣を整え、武器弾薬が行き渡り、指令を受けて‥‥ついに両軍が動いた!
砲弾と光線が飛び交い、高機動型の機体が一気に崖を駆け下り、その後ろに重装甲の歩兵機が続く。
飛行できる機体は崖から次々と飛び上がる。空でも大軍同士の激突がすぐに始まった。
混迷を極める山間の戦場。
しかしその中を、キラー達ハイマウンテンの精鋭は駆け抜ける。
「どけーい! 三途の川の渡し守の起源もコリーンだァー!」
怒鳴るアリンのSクマーベアーが敵雑兵を吹き飛ばした。他の白銀級機もそれに続く。
行く手を塞がる敵を怒涛のごとく打ち倒し、止めようと駆け付ける敵部隊は味方の兵士達に任せて先へ進んだ。
目指すは敵砦。
この地から逃げられないスターゲイザーはそこにいる筈だ。
そして事実、ハイマウンテン連合白銀級機部隊は、砦の前に陣を敷く敵最後の部隊の中に、スターゲイザーの乗機Sハンドレッドアイを見た。
その横に立つ、もう一機の白銀級機も。
黒いボディに白い縁取り。顔の中央に丸い目が光るが、それは白いラインで三分割されていた。
その機体の操縦者がスターゲイザーに通信を送る。
『だ‥‥駄目だ、もう追い詰められてるよ。今のうちに降参しよう、一生懸命謝れば許してもらえるかもしれない』
「「「‥‥」」」
ハイマウンテン勢の動きが、一瞬、完全に止まった。
キラーは相手の声に聞き覚えがあった。
「‥‥四原か?」
半信半疑で訊いてみれば、相手がモニターに顔を映す。
そこにはキラーの想像通りの、歳の割に子供っぽい、気弱な少年がいた。
『うん、そうだよ種岩。お願いだ、降伏すれば罪は一切問わないと約束してくれ!』
半泣きで訴える、真魔怪大隊最後の聖勇士。
(やっと顔と名前を知っている奴がいたと思ったら、彼か‥‥)
四原修三。去年の同級生で、オタク同士知り合いではあったが、キラーが一人でいたために友達未満の関係でしかなかった知人。
「グループを作れ」と言われた時に余り者同士で組んだ事が片手の指が余る程度にだけある、そんな同級生を前に、キラーは力が抜けそうな思いにかられていた。
しかしハイマウンテン勢の態度は芳しくない。
「流石にムシが良すぎるだろう、それは‥‥」
「そんな都合のいい話があるか! 死刑だ! 死ぬまで棒で叩いて死んだら晒し首だ!」
顔を顰めるマンドリオ、目を吊り上げて怒鳴るアリン。
しかし‥‥
「はい、わかりました。じゃあここで戦いはお開きにしましょう! 良かった‥‥これからは仲良くしてくださいね」
ティア姫がニッコニコかつ大喜びで何度も頷いた。
両手を胸の前で握り、朗らかで柔らかな満面の笑みを四原に向ける。
相手は頬を染めて舞い上がった。
『あ、ありがとうございます! いいなぁ‥‥僕もこのお姫様の所に行きたかった‥‥』
スターゲイザーの横で本音がダダ漏れるあたり、本当に追い詰められていたのだろう。
「最後に出すのがそんな奴か‥‥」
『こいつが一番、異界流レベルが高かったのでな』
呆れるセファラス女王に、スターゲイザーは理由を呟く。
「あいつも人材面で苦労してんのかもな」
サイシュウのその言葉に、スターゲイザーは頷いた。
『その通りではある。だからこそ手もうっている』
そう言って何やらボタンをポチリ。
四原の乗る機体・Sデルタポットの、全身の白いラインが銀色に光った。
その光は操縦席にも満ち、四原へ——主に頭に——流れ込む。
四原の目が血走った。
同時に機体の、三つに区切られた巨眼にも赤い光が灯る。
『グゥエッヘッヘ‥‥! ボケがぁ、アヤマるワケねぇだろう! お前らこそその姫さんをヨコしてこの世から失せろやァ!』
「‥‥色んな意味で酷いのう」
セファラス女王がぽつりと呟いた。
設定解説
・三途の川の渡し守の起源もコリーンだァー!
コリーン国の大王城壁画には、半裸の男達が組み合っている姿が描かれている。
コリーンの学者が唱える説によれば、これは冥界の川岸であり、渡し賃を要求する船頭と値切ろうとする死者の戦いを描いた物である。