10 防衛線を突破せよの巻 7
登場人物の簡易紹介(誰かわからない奴がいた時だけ見てください)
キラー:主人公。召喚された元高校生。クラスチェンジアイテムによりニンジャとなった。
ストライク:森で見つけたカメレオン。
サイシュウ:ダンジョンで出会い、仲間になった異世界の上級冒険者。
ソフィア:共に召喚された吉良の同級生。日米ハーフの少女。
ティア姫:吉良が身を寄せるハイマウンテン王国の姫君。
スターゲイザー:主人公達を地球から集団転移させた魔術師。
アリン:コリーン国の女騎士。クマ獣人。キラー達に敗れて軍門に降る。
マンドリオ:ニスケー国の将軍。ゴリラ獣人。キラー達に敗れて軍門に降る。
キャシャロット:カパード国でキラーに買われた元メイドの奴隷少女。マッコウクジラ獣人。
セファラス女王:カパード国の女王。ハダカデバネズミ獣人。キラー達に敗れて軍門に降る。
スフィル王子:アーマルベン国の王子。キラー達に加勢した縁で仲間に加わる。
シャンマウ:ウェスパレス国の女グラップラー。ネコ獣人。
シンディ:旅の途中で拾った、人造人間種族のメイド少女。
『さあ、シンディを離せ! それとも先ずコイツから焼却してやろうか?』
墜落したSゲイルイーグルに杖を突きつける、スターゲイザーのSハンドレッドアイ。
全身の結晶が、杖の先端が魔力に満ちて輝き、今にもイーグルを焼き払わんとしている。
緊張の中、敵味方とも動きを止めた、そこへ——
「やめてください、ご主人様‥‥」
悲痛な声を漏らしたのはシンディだった。
『えっ? なんで?』
仰天するスターゲイザー。
シンディの解放を要求しているのに本人から制止がかかるとは思っていなかったのだろう。
「別にあの子は捕まってねーぞ」
捕捉するサイシュウ。
『お前らの艦にいるだろうが!』
「はい、雇っていただいたので‥‥」
当然、スターゲイザーにしてみれば納得がいかない。
けれど他ならぬシンディがそう言うのだ。
『騙されたからだろ!?』
「いえ、ご主人様が家出してしまったので、探すためです」
当然、スターゲイザーにしてみれば納得がいかない。
けれど他ならぬシンディがそう言うのだ‥‥というか前にそう言われた筈だが、状況的に納得していなかったらしい。
『じゃあそこから降りられるとでも言うのか!?』
よってスターゲイザーはそう訊いてくるが‥‥
他ならぬシンディがこう言うのだ。
「あ、そうですね。ただ今そうします。ではティア姫様、今までありがとうございました」
ティア姫は穏やかな笑顔でぺこりと頭を下げた。
「いえいえ。お役に立てて何よりです。今までのお給料は‥‥」
「アイテム変換作業の前払いで、アリン様からいっぱいもらいました!」
そう言ってシンディも穏やかな笑顔で礼儀正しく一礼。
ティア姫は穏やかな笑顔でシンディの手をとり、優しく握手する。
「あらら、そうなんですね。ではお別れですか。せっかくお友達になれたのに残念ですけど、大切な人のためですからね。幸せを離しちゃダメですよ?」
「やだぁ、お恥ずかしい。姫様とお友達だと言っていただけて、本当に光栄です。私は‥‥」
シンディも穏やかな笑顔でティア姫の手を優しく握り返す。
和やかで優しい空間‥‥だがブリッジのモニターの一つが点灯し、キャシャロットが変身したアーマードマッコウクジラが映る。
「長話はまた今度にすればどうなんですかね」
だが向かいのモニターにサイシュウが映った。
顰めヅラで、声を潜めて‥‥
「いや、もうちょい引き延ばせ」
隣のモニターが点灯し、スフィル王子の慌てた顔が映る。
「サイシュウさん、声を出したらバレます!」
一体二人は何を言っているのか?
実はスフィル王子の乗機・Sハンマーヘッドには修理装置が装備してあり、ゲイルイーグルを修理していたのだ。
スターゲイザーの足元から、サイシュウの【消去自在】スキルで距離を消去して手元へ引き寄せたうえで。
「大丈夫、修理は終わったわ。これでまた戦える」
ソフィアの声とともにゲイルイーグルは立ち上がった。
戦闘可能なコンディションまで回復させる事ができたようだ。
『貴様ら! 結局シンディを利用しているじゃないか! 許ざん!』
怒鳴るスターゲイザー。
今のやりとりでシンディを危険な目にあわせてはいないだろ、という理性的な説明が無駄なのは誰の目にも明らかだ。
機体の全身に満ちていた魔力が杖の先に集まり、強力な重力球を形成した。
「やらせるかよ」
サイシュウの日輪武者・Sサンライザーが前に出る。
『邪魔だ!』
重力球攻撃・グラビトンスターが放たれた。
次に起こった事を、理解しきれた者がどれだけいたか。
サンライザーの頭部にトンカチが当たった。
これはサイシュウが【消去自在】スキルで重力魔法を消そうとしたのを妨害するためである。
だから重力球自体は放たれたのだが、それはサンライザーのバリアと装甲で食い止められ、大きなダメージにはならなかった。
そして同時にスターゲイザーのハンドレッドアイもダメージを受けていた。
なぜならソフィアのゲイルイーグルが撃ったライフル弾を避ける事ができなかったからである。
この一瞬の攻防へ、敵軍の雑兵どもが割り込もうとしないわけではなかったが、それはスフィル王子のハンマーヘッドが食い止めていたのだ。
装甲に火花を散らせ、スターゲイザーのハンドレッドアイが後ずさる。
機体にダメージを受けながらも、サイシュウは操縦席でニヤリと笑った。
「反則能力ではこちらの上を行くようだが‥‥それでもオレの相手をしながら片手間に聖勇士へ対処するのは厳しいらしいな?」
ギリリ、と歯軋りするスターゲイザー。
『おのれ‥‥!』
首領が苦戦しているこの時、腹心ともいうべき聖勇士は何をしているのか?
それは——
設定解説
・やめてください、ご主人様‥‥
シンディが「やめて」と頼んだのは、友人のソフィアがイーグルに乗っているから攻撃しないでくれ‥‥という事だ。
別に勝つのを諦めて降参してくれ、という意味ではない。
スターゲイザーが真魔怪大隊を率いてヘイゴー連合国を侵略する事を、シンディは否定も肯定もしていなかったりする。
従属する種族として産まれた人造人間なので、主人に善悪を問うような気持ちは持ち合わせていないのだ。