10 防衛線を突破せよの巻 5
登場人物の簡易紹介(誰かわからない奴がいた時だけ見てください)
キラー:主人公。召喚された元高校生。クラスチェンジアイテムによりニンジャとなった。
ストライク:森で見つけたカメレオン。
サイシュウ:ダンジョンで出会い、仲間になった異世界の上級冒険者。
ソフィア:共に召喚された吉良の同級生。日米ハーフの少女。
ティア姫:吉良が身を寄せるハイマウンテン王国の姫君。
スターゲイザー:主人公達を地球から集団転移させた魔術師。
アリン:コリーン国の女騎士。クマ獣人。キラー達に敗れて軍門に降る。
マンドリオ:ニスケー国の将軍。ゴリラ獣人。キラー達に敗れて軍門に降る。
キャシャロット:カパード国でキラーに買われた元メイドの奴隷少女。マッコウクジラ獣人。
セファラス女王:カパード国の女王。ハダカデバネズミ獣人。キラー達に敗れて軍門に降る。
スフィル王子:アーマルベン国の王子。キラー達に加勢した縁で仲間に加わる。
シャンマウ:ウェスパレス国の女グラップラー。ネコ獣人。
シンディ:旅の途中で拾った、人造人間種族のメイド少女。
カパード国のモグラ部隊がトンネルを掘るのを、崖下でじっと待つハイマウンテン連合軍。
崖の上からの射撃に晒され、じっと耐える。短時間で掘る事ができるとはいえ、流石に数秒数分の話ではない。ごつごつした岸壁をほぼ真下に撃ち下ろす射撃の命中率はまともな物ではないが、それでもノーダメージとは行かず、たまの被弾に各国の艦は揺さぶられていた。
キラー達の合体イーグルを始め、連合軍側にも航空戦力が無いわけではない。
しかしそれらは敵の空軍を相手にしており、崖の上まではなかなか手が回らないでいた。
「ふむ‥‥穴が開通するまでは我々が相手をしますかな」
「え? どうやって‥‥」
マンドリオの呟きにティア姫が驚くが、それを尻目にニスケーの猿機軍団はひょいひょいと崖に取りつき、器用によじ登り始めたではないか。
適当に散開しつつ途中まで登り、岩陰からほぼ真上への射撃を加えて敵に反撃する。
迂闊に下を覗けなくなり、敵からの射撃は目に見えて減った。
「おお! さすが猿、身軽だな」
アリンは感心するが、スフィル王子は崖を見上げて呟く。
「マンドリオが微妙に辛そうですね‥‥」
マンドリオのSヒババブーンはあまり登攀が得意では無さそうで、崖に張り付くだけで苦労していた。片手でバナナ型の手榴弾を投げるが、全然敵に当たっていない。
それを見たシャンマウのSマーシャルカラカルが艦から飛び出す。
「んじゃ加勢にゃー」
シャンマウが元気に言うと、猫獣人型の機体はぴょんぴょんと猿型機より身軽に岩から岩へ飛び跳ねて、いとも容易く崖を登った。
援護射撃があるとはいえ、単身で崖を登りきる。そして下を覗こうとする敵へ、身軽に飛び蹴りを炸裂させた!
崖の上で乱闘が始まったせいで、下にはほとんど射撃が飛んでこなくなった。
「助かりました‥‥けど、一人で大丈夫でしょうか」
ティア姫が心配する中、通信機からセファラス女王の声が届いた。
「抜けたぞ!‥‥おわー!」
続いて響き渡る、打撃音と銃撃音と爆発音。どうやら敵陣の真ん中に出てしまったらしい。
だがアリンのSクマーベアーが艦から飛び出した。
「やっと出番だな!」
嬉しそうに叫び、カパード軍が掘ったトンネルへ飛び込む。
ハイマウンテン連合軍の機体が次々とそれに続いた。
——崖の上——
モグラ獣人型機の部隊を包囲していた、真魔怪大隊とシソウ国の連合軍。だがそこへ新たなる乱入者が飛び出してきた。
「ウェハッハー! 無双スタイルはコリーンが起源だ!」
アリンの声とともに熊獣人型機が爪をふるう。すぐ近くにいた敵機がそのただ一撃で八つ裂きにされ、爆発した!
怯んだ敵へさらに打ちかかるクマーベアー。さらにトンネルから次々と後続が飛び出してくる。
崖際ではシャンマウのマーシャルカラカルが暴れていたが、そこへニスケーの猿型機達か崖の上まで登ってきた。最後尾にはマンドリオのゴリラ型機の姿もある。
こうなると形勢は完全にひっくり返り、ハイマウンテン連合が敵を圧しだした。
崖の上にたどり着き、「やれやれ」と一息つくサイシュウ。
「ま、ザコ散らしは任せるか。じきに敵聖勇士も出てくるだろ」
『それは俺の事か?』
その通信とともに、山影から敵の増援部隊が現れた。
新たな敵部隊を率いて現れたのは、白い詰襟学生服のような鎧を纏い、棒状の剣を装備したケイオス・ウォリアー!
強大なケイオスを発散するその機体に、サイシュウは「ふん」と鼻を鳴らして訊く。
「高校のカースト頂点の次は何だ?」
『高校カーストの、真の頂点だ。それは‥‥』
敵がきびきびと答える途中、アリンのクマーベアーが躍りかかった。
「知るか! 脳味噌ぶちまけろー!」
『話の途中でほたえるなー!』
刹那、怒声とともに敵の得物が閃く!
突き出された竹刀のような金属棒は閃光のようにクマーベアーの喉を捉えた。白いエネルギー光が爆発を起こす。
「ガギゴゴー!」
アリンの悲鳴とともにクマーベアーは吹き飛ばされ、倒れた。
「ほう、剣道部かい。まぁ剣道三倍段というからな」
敵の太刀筋を見てそう判断するサイシュウ。
『人の話も聞かずに勝手に決めるな』
だが敵からの返答は否定だった。
「じゃあ何だ?」
改めて問われ、相手は誇らしげに胸をはる。
『それは――風紀委員だ!』
モニターに映ったのは、二つに垂れた前髪がある短髪の、目つきの鋭い青少年。着ている衣服は腕章つきの学生服だ。
「格闘系の運動部か軽音部のバンドでも来るのかと思ったら、それかよ。どこが頂点なんだ」
半ば呆れるサイシュウへ、相手はモニター越しに胸をはる。
『他の学生を指導し、管理し、毎朝チェックを行い、規則違反には正義の指導を行い、そして生徒の誰も俺達に逆らう事を許されない。風紀委員こそが学生の頂点なのだ!』
「そんな風紀委員はマンガにしかいねーよ」
げんなりするサイシュウへ、相手はモニター越しに見下した視線を送る。
『ふん、どうやらお前も不良の一員だったらしいな。ならばこの世界にとっても不良品。学校の秩序を守っていた俺‥‥狭淵魁が、この世界でも新たな王国の秩序を守る番人となるのだ』
傲慢にもそう言う敵——魁に、セファラス女王が酸素半減結界を放つ!
「余所者がこの世界で言う事か! 地獄へ落ちるのじゃー!」
結界は敵機を捕らえ、完全に包み込んだ。
だがしかし。
敵機は結界の中、意にも介さず動いたではないか!
『ほたえるなー!』
竹刀状の金属棒が地面に突き立てられる。そこから輪のようなエネルギーの波が、周囲四方に向けて放たれた。
それはハイマウンテン勢の機体を呑み込んでいく。
「な、なんじゃ? 動けん!」
セファラス女王が焦った声をあげた。乗機Sモールラットが身を捩ってもがくが、彼女の言う通り、まともに行動する事ができない。
それは他のハイマウンテン勢の機体も同じ事だった。
『風紀委員の俺による禁止だ。お前達の横暴に対するな!』
声高に叫ぶ魁を、補足する者が現れる。
『わかりやすく言えば、行動不能デバフのあるMAP兵器だ』
増援部隊の最奥にいた、魔術師のような死神のような機体。
「来たな、スターゲイザー‥‥」
現れた相手を見て、サイシュウが呟いた。
設定解説
・Sマーシャルカラカル
シャンマウの乗るネコ獣人型の白銀級機。
装甲は軽量だが、移動速度・敏捷性・機動力に優れ、跳躍や登攀の能力も高い。
手持ち武器は無いが爪も牙も鋭く、格闘戦を得意とする。
爪を利用した拳での攻撃を主に使うが、最大の技は敵に組みついて密着状態から怒涛のように繰り出すネコキック。