10 防衛線を突破せよの巻 1
キラー:主人公。召喚された元高校生。クラスチェンジアイテムによりニンジャとなった。
ストライク:森で見つけたカメレオン。
サイシュウ:ダンジョンで出会い、仲間になった異世界の上級冒険者。
ソフィア:共に召喚された吉良の同級生。日米ハーフの少女。
ティア姫:吉良が身を寄せるハイマウンテン王国の姫君。
スターゲイザー:主人公達を地球から集団転移させた魔術師。
アリン:コリーン国の女騎士。クマ獣人。キラー達に敗れて軍門に降る。
マンドリオ:ニスケー国の将軍。ゴリラ獣人。キラー達に敗れて軍門に降る。
キャシャロット:カパード国でキラーに買われた元メイドの奴隷少女。マッコウクジラ獣人。
セファラス女王:カパード国の女王。ハダカデバネズミ獣人。キラー達に敗れて軍門に降る。
スフィル王子:アーマルベン国の王子。キラー達に加勢した縁で仲間に加わる。
シャンマウ:ウェスパレス国の女グラップラー。ネコ獣人。
シンディ:旅の途中で拾った、人造人間種族のメイド少女。
——ハイマウンテン城・大浴場——
今日も全員で湯舟に浸かるハイマウンテン勢の面々。
いい具合に寛ぎながらも、セファラス女王は何やら考え込んでいた。
「ふーむ。キラーはティア姫が欲しくは無いのか?」
「割とどうでもいいようで」
肩まで湯に浸かっているキャシャロットがぽつりと呟く。
「そ、そんな‥‥」
心地よい湯の中、ティア姫はがっくりと項垂れていた。
救国の英雄が姫を娶り王家に入る事は、ヘイゴー連合どころかインタセクシルという世界全体で、枚挙にいとまの無い成功譚のパターンである。
だがキラーはそれを踏襲せず、新たな国を興したいと言っているのだ。
キラー自身は、己が王になれないからだと言っていたが、それにしてもなぜそんな困難な道を選ぶのか。セファラス女王にはそこが理解できなかった。
だがふと、ある考えに思い至る。
セファラス女王は「あっ!」と叫んだ。
「もしや! 欲しい女は他にいるのか? まさか‥‥私の可能性が!?」
「そんな可能性が匂った事、一片たりとも無かったが」
サイシュウは浴槽の縁にもたれながら呆れていた。
シャンマウが興味津々に目を光らせる。
「じゃー私かにゃー?」
「そんな話も全く無かっただろうが」
サイシュウは浴槽の縁にもたれながら呆れていた。
愕然とするアリン。
「ではまさか私か!」
「そこだけは絶対に無い」
サイシュウは浴槽の縁にもたれながら力強く断言した。
ジト目で何やら考えるキャシャロット。
「もしやHOMOですかね」
「自分と言わずにそっちが出るのかよ」
サイシュウは浴槽の縁にもたれながら呆れていた。
おずおずとスフィル王子が口を挟む。
「あの‥‥普通に考えてソフィアさんじゃ‥‥」
「え!? な、ななな、そんな事も素振りなかったでしょ!」
ソフィアは真っ赤になって大慌て。湯舟の中でいきり立つ。
サイシュウは浴槽の縁にもたれながら呆れていた。
「おいキラー。ハーレム宣言してこの場を収めろ」
「その収め方!?」
ソフィアがあげた声にはどこか抗議のような響きがあった。
そして、浴槽の縁にもたれていたキラーは‥‥
すっ、とシンディの側へ寄る。
「そこなの!?」
目を丸くして思わず漏らすソフィア。
にわかには信じ難いようで、納得し難いようでもある。
一方、サイシュウは愉快とばかりに「ヒャッハー!」と笑っていた。
「悪役からNTR!」
一同が驚きつつも見守る中、キラーはいつもと変わらぬ冷静な声で語りかけた。
「シンディ。良ければこれからもバエナガメランに同乗して欲しい」
「あ、はい‥‥」
やや戸惑いながらも承知するシンディ。
そんな彼女に、キラーは真っすぐな瞳を向けている。
「スターゲイザー本人とも、そう遠くない将来にぶつかる。その時、多分君が必要だ」
「はい?」
かなりの戸惑いで意味のある返事のできないシンディ。
(ご主人様との戦いに、なぜ私が必要なのでしょう? アイテムの作成や変換はできますけど、ケイオス・ウォリアーでの戦闘は全くできません‥‥)
理解しかねるシンディに、次にキラーがかけた言葉は、完全に彼女の予想外だった。
「無論、盾や人質にする気は無い。ただ、スターゲイザーを倒した時に‥‥ご主人を君に返してやれると思う」
「えっ!? あ、あの人を助けてくれるんですか!」
これには驚くしかなかった。
無論、それはシンディの最も望む事である。だがなぜキラーはそんな危険を冒してくれるのか?
その疑問は他の者も同様——サイシュウがたまげて叫ぶ。
「おいおいおいおい! 本気か? お前が強くなった事は認めるが、流石に手加減できる相手じゃねぇだろ!」
言われたキラーは、肩越しに頷いて見せた。
「手加減はしない。だがスターゲイザーを倒した時、奴が死ぬとは限らない。その時にシンディがいれば‥‥と考えているだけだ」
ハイマウンテン勢は、戸惑と困惑から皆で顔を見合わせる。
スターゲイザーを殺そうと思っている者はいない。だが助けた上に恋人まで返してやろう、などとは‥‥全く理解できなかった。
ただ一人、ティア姫だけは、機嫌が上向いたようで嬉しそうに微笑んでいた。
「希望を持つ事は間違ってはいませんよ。きっと」
設定解説
・ハーレム宣言してこの場を収めろ
普通に考えたら絶対に収まらないと思うのだが、異世界物ではそうでもないようだ。
まぁ世界が違うから文化も違うという事なのか。
ワシも次があったら一発ハーレム物でも試してみるか?
人間は挑戦をやめたら老いるだけだからな。
ワシの電書棚にも萌えマンガは少なくないからのう。