その頃、別の場所にて 10
キラー:主人公。召喚された元高校生。クラスチェンジアイテムによりニンジャとなった。
ストライク:森で見つけたカメレオン。
スターゲイザー:主人公達を地球から集団転移させた魔術師。
——様々な器具の並ぶ実験室——
長方形の、金属製の箱が中央に設置されていた。様々なケーブルが接続されており、透明な蓋がされている。
箱の中は透明な液体で満たされており、一糸纏わぬ少女が眠っていた。緑の髪から金属製のアンテナが、獣の耳が立つかのように生えている。
箱の傍らでは少年が一人、半透明の板を真剣に操作していた。紫のローブに、複数の指輪をはめており、宝飾品の首飾りを身に着けた、短い黒髪にあまり特徴のない容貌の少年。
半透明の板に浮かんだいくつかの光点‥‥その一つを、少年は期待を籠めて、けれど恐々と押す。
箱から水が抜け出した。全ての水が抜けると、透明の蓋が開く。
眠っている少女の躰が微かに震え、唇から「ん‥‥」と微かな呻きが漏れて、そして——瞼がゆっくり開いた。
大きな翠色の澄んだ瞳が、傍らに立つ少年を映す。
少年は声をかけた。恐々と、探るように、少しおどおどしながら。
(目が覚めたかい? え、と‥‥初めまして、かな?)
少女はほんの少しの間、少年を見つめる。
けれどすぐに奇麗な声で応えた。
(初めまして。貴方がご主人様ですね)
大慌てで頷く少年。
(あ、うん。素体の君を調整して、覚醒させただけだけど‥‥成功したのかな?)
(はい。私に名前をください)
そう言って少女は身を起こす。
髪から水が滴り、豊かな胸が揺れた。
柔らかな曲線の、一点の傷も汚れもない、淡白い少女の躰。
それから目を逸らせず、少年は自分の動悸を抑えられないまま、それでも必死に伝える。
(ん、じゃ‥‥シンディ、で、いいかな?)
少年が故郷で書いた初めての小説のヒロインの名前だ。
少年にとっての、理想の女性の名前。
(はい! ありがとうございます。ふつつか者ですが、これからはご主人様のため、なんでもいたします。なんなりとお申し付けくださいね)
そう言って少女が満面の笑みを浮かべた。
それを見たせいで、少年が、のぼせて、舞い上がって、ちょっとの間なにも言えなくなってしまった笑みを。
人造生物の調整・設定は難しく、外見も内面も、シンディは少年の理想を完全に再現できたわけではなかったが。
この後、理想の方がシンディへ寄っていく事に、さほどの時間はかからなかった。
——石造りの寝室——
魔術師は寝台で目を覚ました。
その身を起こし、懐かしい夢の余韻を頭から振り払う。
(‥‥我ながら、なんと未練がましい)
寝台から立ち上がると、テーブルに置いてあった仮面を身に着けた。
これで彼は【真魔怪大隊首領・スターゲイザー】だ。
ローブと装備も身に纏う。
(確かに僕は別れを告げた。成功するか、いつまでかかるか、わからないから。でも‥‥僕がこの地で成功したら、その時はまた会いに行く。その時にシンディが良い人を見つけていなければ、その時こそ、僕が改めて‥‥)
スターゲイザーの手に杖が生じていた。
絶対の強者の力にして証、神々の血から創り出した杖が。
(けれど今はまだ駄目だ。今の僕では、まだ負けてしまう‥‥)
部屋の扉がノックされた。
「入れ」
スターゲイザーが許可すると扉が開く。
その向こうにいた者は——シルエットになっていて、顔形は定かではない。だが、魔物兵の類では無い。れっきとした人間である。
「指示通りの編成はした。ハイマウンテン国は攻めて来るのか?」
その人物の言葉に、スターゲイザーは頷いた。
「奴らとていつまでも攻められっぱなしではおるまいよ。もし来なければ来ないで、次の手を考えるまでだ」
戦いが幕を開ける‥‥。
最初は女や化け物にする案もあったが、結局はこうなった。
まぁ味方側に女キャラ多すぎだからこれでいいだろう。




