9 雄飛の決意の巻 4
登場人物の簡易紹介(誰かわからない奴がいた時だけ見てください)
キラー:主人公。召喚された元高校生。クラスチェンジアイテムによりニンジャとなった。
ストライク:森で見つけたカメレオン。
サイシュウ:ダンジョンで出会い、仲間になった異世界の上級冒険者。
ソフィア:共に召喚された吉良の同級生。日米ハーフの少女。
ティア姫:吉良が身を寄せるハイマウンテン王国の姫君。
サンタナ王:ハイマウンテン王国の王。
スターゲイザー:主人公達を地球から集団転移させた魔術師。
アリン:コリーン国の女騎士。クマ獣人。キラー達に敗れて軍門に降る。
マンドリオ:ニスケー国の将軍。ゴリラ獣人。キラー達に敗れて軍門に降る。
キャシャロット:カパード国でキラーに買われた元メイドの奴隷少女。マッコウクジラ獣人。
セファラス女王:カパード国の女王。ハダカデバネズミ獣人。キラー達に敗れて軍門に降る。
スフィル王子:アーマルベン国の王子。キラー達に加勢した縁で仲間に加わる。
シャンマウ:ウェスパレス国の女グラップラー。ネコ獣人。
シンディ:旅の途中で拾った、人造人間種族のメイド少女。
『さあて、試合開始だ!』
球十が威勢よく叫ぶと、真魔怪大隊とシソウ国の連合軍が動き出す。
砲弾ボールの援護射撃を受けながら、雪崩をうつように。
ハイマウンテン勢はその勢いに呑まれる——
かと思いきや、その中から疾風のように走る機影が!
キラーのヒエイマルである。
迷う事なく一直線に、敵からの射撃を最小限の動きで避けつつ飛び込んで行った。
「ま、映してるというならそうしてもらおうじゃねぇか。オレらの戦ぶりをよ!」
そう叫んだサイシュウのSサンライザーがすぐ後に続く。
それを見たハイマウンテン勢は「ハッ」と気づき、次々と駆けだした。
「そうです‥‥恥じない戦いを見せればいいんです」
「元よりそのつもりですしな」
スフィル王子が決意を籠めて、マンドリオが冷静に呟く。
「やるにゃー! ぼっこぼこにしてやるぞ!」
「恨みは半万倍返しだ! この劣等兵どもが!」
シャンマウが楽しそうに、アリンが先刻食らった怒りで叫ぶ。
敵の大軍に、ハイマウンテン勢の白銀級機が楔のように食い込んだ。
敵の巨人兵士機を、手裏剣と刀が断つ。
素早い犬頭機を、頭突きと剛腕が打ちのめした。
砲撃型の甲虫機に、ネコとクマの爪が炸裂して切り裂く。
勢いさえ取り戻せば、質ではハイマウテン勢が敵を凌駕していた。
だがしかし——敵部隊の後方で、球十のSリーガーバードが大きく振りかぶる!
『魔球・十段ドロップ!』
投げられた砲弾球は超高速でジグザグに変化し、その軌道を読ませない。
それでいて戦闘の中を潜りぬけ、自軍の機体には当たらないのだ。
「ガギゴゴー!」
側頭部をボールで叩かれ、アリンのSベアークマーが吹っ飛んだ。
「クッ、この乱戦で的確に狙ってくるとは‥‥」
『ストライクゾーンよりも大きい的なら楽勝さ』
たじろぐスフィル王子に嘯く球十。
王子は敵聖勇士を先に叩こうとするが、その行く手に敵兵士の青銅級機巨人兵が立ち塞がる。
「ええい‥‥ならば!」
マンドリオが唸り、その乗機Sヒババブーンがバナナ型手榴弾を投げつけた。
しかし球十のリーガーバードは一瞬でバットを取り出す。
『殺人XXX打法!』
バットで打ち返された手榴弾は逆にヒババブーンを直撃!
周囲の敵雑兵を巻き込みながら大爆発した。
「ぐわぁー!」
マンドリオの悲鳴とともにヒババブーンは倒れる。
劣勢と見て、キラーはヒエイマルを走らせた。目指すは敵の聖勇士、それを仕留めようと。
それも敵兵士の青銅級機達が阻もうとするが、ヒエイマルは全く速度を落とさず、その間を縫って駆け抜ける。
が‥‥そのヒエイマルを数条の光線がホーミングしながら追いかけた!
あわや直撃、という寸前でヒエイマルは宙返り一発、光線の束を見事避ける。だがその疾走は止められてしまった。
『機体を乗り換えたか。どの程度の物か見せてもらおう』
ヒエイマルを止めたのは、スターゲイザーの乗るSハンドレッドアイだった。各部の眼球のような結晶が搭乗者の魔力で光る。
やむなくキラーは機体を身構えさせた。無視して振りきれる相手ではない。
——ハイマウンテン城内・格納庫——
外の様子はモニターに映し出されている。
シンディを囲む高官の一人が肩を落とした。
「ああ、やっぱりこのお嬢さんを盾にするしかないのか‥‥」
「撮影されてますから、なんとか誤魔化しの利く方法を考えないと」
兵士の一人が焦りながら言うと、他の兵士達は――明らかに気乗りしない様子だが、それでも——シンディへ迫ろうと包囲を狭めた。
「いい加減にしなさいよ!」
シンディを背に庇いながらソフィアが怒鳴る。
しかし先頭の兵士が溜息混じりに抗議した。
「そうは言われましても、この地に住む我々としては死活問題ですよ」
ソフィアは唇を噛んだ。
(そりゃ、私達よりも必死でしょうけど‥‥)
故郷が叩きのめされそうな彼らの言い分、全くわからないではないのだ。
他所から来た自分が横から口を挟む事なのか、という疑問も皆無ではないのだ。
ソフィアが壁となりながらも迷っていた、その時。
「きゃあぁ!?」
唐突にシンディの悲鳴。
彼女は、床に突然開いた穴へ落ちてしまった!
その姿が一瞬にして消える。
「‥‥ええ? なんで?」
呆然とするソフィア。
それは周囲の兵達も同じだ。
誰も状況を把握できない中、穴からセファラス女王の笑い声が響いてきた。
「ふははは。ヘイゴー連合に住む私としては、腰抜けた手段で延命するような帝王が即位しては死活問題じゃからのう」
彼女がシンディをこの場から奪ったのである。
人質として使わせないように。
「ゲェー! 掌返す気か!」
理解した大臣が大慌て。
兵士達も武器を手に急いで穴へ殺到しようとした。
そこへ‥‥
「ふむ、一理あるね」
落ち着いた男の声。
その場の者達は、聞き覚えのある声に思わず振り向く。
「サンタナ王!?」
そう、ハイマウンテンの王がこの場に現れたのである。
王には別に慌てた様子は無かった。
穴を覗き込んで声をかける。
「セファラス女王。シンディさんにケガはさせていないね?」
「うむ、大丈夫じゃ! そこよりは安全よ」
そう答える女王に「ならいいんだ」と呟く。
困惑する高官達、戸惑う兵士達。
だが彼らを尻目に、ソフィアが王の前に進み出た。
「王様! お願いがあります!」
「うん、いいよ」
あっさり頷く王。
ソフィアが目を丸くする。
「え? まだ言ってませんけど」
「え? 君達が言う事だから、きっと頼りになると思っているんだけど」
王には心配も不安も無いようだった。
設定解説
・Sリーガーバード
タカ・ツバメ・ペンギン・カモメ・アヒル・ワシなど複数の鳥の特徴を持ち、装甲には野球ユニフォームの意匠が凝らされている。
射撃武器はボール、近接武器はバット、盾はグローブ。
野球の技術を再現する能力に特化しており、操縦者の野球技術とケイオスレベル次第でいかなる魔球・打術の再現も可能。