中編
朝ごはんを終えて着替えを済ませた私は、仕事をこなすお父さんの書斎にそっと入って、勉強に必要な医学書をいくつか見繕って取り出した。
広い書斎の西側の大きな窓の近くに、背を向けて座るお父さんの机と、隣には昔懐かしいラグが敷いてある。
私は本を抱えて久しぶりにそこに腰かけた。
「ねぇお父さん」
パソコンに向かうお父さんに声をかけると、ピタっと手を止めて私に向き直った。
「なんだ?」
「もうすぐ春休みだからさ、どっか旅行行かない?」
「・・・旅行?」
「うん、お盆の時にちょっと小旅行はしたけど、あれはおじいちゃんに会いに行くのが目的だったし・・・。ゆっくりお休みを堪能するための旅行。親子二人旅っていうのも悪くないでしょ?」
お父さんは私をじっと眺めてから、視線を落とした。
(一緒にいる時間がもう多くないから、気を遣ってるんだろうか・・・)
あ・・・お父さんの考えてること聞こえる。
「まぁそうだな・・・行きたい所があるならいくつか候補を出しておいてくれ。」
「うん!ふふ・・・ね、普通年頃の娘がこんな風に、二人で旅行行こうよ~なんて言ってくれないよ?」
(そうだろうな・・・)
「クラスの友達の子たちがさ、たまにお母さんやお父さんの話をしてくれるけど、お父さんとは全然口きかないとか、うざいとか関わりたくないとか言ってたの。思春期だからそうなのかもしれないけどさ・・・私もちょっとつんけんしてた時はあったけど・・・そもそも何でそんな風に思うんだろうね。」
「それは子供が脳の成長過程で正常に起こることだ。自分の遺伝子と極めて近しい相手と子供を残すことないように、体も心も大人になってきた頃、生理的に受け付けない匂いが出ているらしい。まぁ良好な関係を保てていて、精神的に大人な子であれば反抗期が来ない人もいるけどな。」
「へぇ・・・なるほどぉ・・・」
その時口にしないけど、続きの声がお父さんから聞こえた。
(まぁ・・・小夜香がもう思春期を終えてしまったのは、大人にならなければと思わせる程、苦労をさせた俺のせいだろうが・・・)
「・・・・」
お父さんって・・・私に苦労かけたって思ってるんだ・・・。
私・・・寂しいなって思うことはあったけど、別に苦労して育ったわけじゃないんだけど・・・
当主であった忙しいお父さんは週末にしか帰ってこない人だったけど、私にはずっと癒多がいたし、おばあちゃんとおじいちゃんが毎日側に居てくれた。
普通に学校に通って、今まで進学してきた。そこに何か障害があったわけじゃないし、家柄のせいでいじめに遭ったわけでもない。
「私はさ、皆にお父さんのこと聞かれて話すと、仲良しなんだねぇって言われるの。でも知ってる子は私が父子家庭だからかなって思ってるのかもしれない。昔はちょっと家庭のことでやっかみ言われたりしたけど、今親しくしてくれてる友達はみ~んな、私の事情を知ってても関係なく仲良くしてくれるいい子なの。」
「そうか・・・それなら良かったな。」
笑みを返すと、お父さんも落とすように笑った。
「ところでさ~・・・お父さん今日お休みなのかなって思ってたんだけど、相変わらず仕事なの?」
開いた本の文字を何となく追いながら尋ねると、お父さんは言葉に困って極まりが悪そうにした。
言葉がまとまらないからなのか、心の声も聞こえない。
「まぁ・・・別に急ぎの仕事をしているわけじゃないな。」
「じゃあさ~ランチは外食にしない?娘とデートだよ、デート。」
からかうように言うと、お父さんは特に何でもない様子で了承した。
思ってたより・・・お父さんが心中で思ってること、聞こえないなぁ・・・これくらいのものなのかな。
白夜さんは、真実を知りたいなら教えてほしいことを尋ねるだけでわかると言ってた。
人の心が読めるっていうのは確かにそういうメリットがあるわけだけど・・・
白夜さんはそれをあくまで、手段として使っていたんだと思う。
人としてそれがいいことか悪いことかと判断するのは自分だと、私に問いかけていた。
パソコンを閉じて仕事を終えたお父さんは、コーヒーを口にしてスマホを眺めていた。
「ねぇお父さん・・・」
「ん?」
「お父さんはさ、白夜さんのこと・・・実際どういう人だと思ってた?」
唐突な質問にお父さんは少し眉をしかめて、こぼれるように心の声が聞こえた。
(白夜・・・?なんだ急に・・・・何で小夜香が白夜のことを今更尋ねるんだ?)
見当もつかない様子で、お父さんは少し黙ってから小さくため息をついた。
「・・・・どういう・・・・正直俺はあいつに興味なかったからなぁ・・・。ああでも・・・・・いや・・・・」
お父さんは口元に手を当てて、歯切れ悪く言葉を探していた。
(あれは言うべきじゃないな・・・。)
お父さんのその声が聞こえたと思いきや、言葉として考えていない、回想のように思い返しているであろう映像というか、絵が見えた。
それはどこか・・・恐らく本家の中庭のようなところで、由影さんと白夜さんが寄り添って座っていた。
二人の表情までよく見えないけど、恐らくお父さんがたまたま見た風景なんだと思った。
並んで腰かけていた二人は、何か言葉を発するでもなく、見つめ合ったかと思うとそっとキスをした。
「えっ!!!!」
私が思わず声を上げて口を抑えると、お父さんはビックリして私を見た。
「なんだ?どうした・・・・?」
「え・・・あ・・・・えっと・・・・ううん・・・・えっとね?その・・・ほら・・・3人とも同じ時期に当主をしてた仲だと思うし、仲良かったのかなぁってふと思ったの。あまりにもお父さん二人の話しないから・・・。」
説明になっていないような苦し紛れな言い訳をすると、お父さんは尚も不信感を強めた目で私を見た。
「それは質問した理由だろ?何にビックリしたんだ?」
「あう・・・えっと・・・」
流石にこれは誤魔化しきれない・・・
けど絶対にお父さんには夢の話も、白夜さんからちょっとの間能力を授かったなんて言えない。
だって心配性だし・・・
っていうかお二人がそういう仲だったなんて寝耳に水だよぉ・・・
「小夜香・・・」
お父さんは問い詰めるような態度をやめて、ゆっくり私の前に腰かけた。
まるで小さな子に諭すように。
「何か話せないと思ったとしても、どうか俺にだけは話してくれ。俺はお前の父親だ。何があってもお前を護る義務があり、権利がある。」
お父さんはその時点で、心配かけないために何か黙っているんだと察していた。
久々に間近で見たお父さんのグレーの瞳が、苦し紛れの言い訳はもう受け入れないと言っていた。
「・・・・夢の中で、白夜さんに会ったの・・・。」
私がそう呟いて、どう説明しようかと思案していると、目の前のお父さんの表情は、驚愕した様子からだんだんと恐怖の色に変わった。
「・・・私に半日だけ力を分け与えてやるって言って消えちゃったの。脳の負担はないから安心しろって。ビックリしたのは・・・お父さんが言わないでおこうって思ったことが、見えちゃったから・・・。」
お父さんは尚も何も言わずに顔を青くしていった。
そして震える手で私を抱きしめた。
「・・・・・他に・・・・夢の中で何かあったか?」
「・・・・ううん。色々話してくれてはいたけど・・・初めて聞いたこともたくさんあったよ。お父さんも同じように夢の中で白夜さんにあったんだよね?」
お父さんの怯えたような震えは止まらず、ゆっくり私と目を合わせて頬に触れながら言った。
「小夜香・・・・ランチには早いけど、これから出かけよう。」
「え・・・?なんで?」
「島咲家当主として所有していた医療施設が近くにいくつかある。CTやその他精密検査が行えるような機器が揃ってる。白夜がいったいどういうつもりか知らんが、死んでも尚娘に戯れのつもりで手を出すなら、それが本当に無害かどうか確かめねばならん。」
お父さんは殺気に似た気迫を纏ってそう言った。
その様子に「心配性出た~~」とは言えなかった。
「それは・・・いいけど・・・でもその、支障があったとしてそんな早く検査してみてわかるものなのかな。」
立ち上がりながら尋ねると、お父さんは少し考え込むようにしながら、スマホをポケットに入れた。
「強く悪影響が出る能力なら、その都度酷い頭痛がしたりするらしい。その後平衡感覚がなくなって立っていられなくなるほどな。白夜はよくそういう症状が出て倒れたり寝込んだりしていた。今の小夜香を見る限り症状は特にないように思うが、何より俺はあいつの言うことが信用出来ない。何かあってから対処したのでは遅いからな。」
お父さんはそう言って私に準備を急かして、二人して車に乗り込んだ。
静かに景色が過ぎていく窓を見やりながら、座った助手席でお父さんに何か尋ねようか思案した。
どうやら心の声は、相手に集中して意識しないと聞こえてこないようで、考え込んだまま運転しているお父さんの声は全く聞こえてこない。
「お父さんあのね・・・」
「・・・なんだ?」
私は心の内が聞こえてしまわないように、景色を眺めたまま問いかけた。
「白夜さん・・・知りたい事の真実を見抜きたいなら、この力を使って見ろみたいなこと言ってたの。けど・・・お父さんがあえて話さないでいることは、教えるべきじゃないと思ってのことだから今更気にするな、とも言ってたの。・・・・私白夜さんに何か試されてるのかな。そもそも・・・白夜さんは死んじゃったのにどうして夢の中で会えたりしたのかな。」
車の走行音だけが静かに流れて、お父さんは何を思っていたのか・・・しばらく考えてから答えた。
「・・・・小夜香・・・もう大人だと思って、ある程度の事実を正直に話してもいいと思ってる。それを受け止める覚悟があればの話だが・・・」
振り返ってお父さんの横顔を見ると、少し複雑そうな様子が窺えた。
「・・・お父さんは私のために話さなかったんだよね。私ね・・・もし話してくれることで、少しでもお父さんの気持ちが軽くなるなら聞きたい。そうじゃなくて心の傷を開くだけの結果になるなら、話してほしくない。お父さんが選んでくれていいよ。」
お父さんの側で、色んな場面がチラチラと見えた。
その多くが本家に居た頃の記憶みたいだった。
赤信号に差し掛かって大きくため息をついて、尚もまっすぐ前を見据えたまま話し始めた。
「間接的に人を殺した。かつて人だった者も殺した。死んだ者を利用して、癒多を生み出した。良しとされていない研究に加担した。・・・・白夜の思惑に乗って、御三家を滅ぼすために、あらゆることに手を回して事を治めた。多くの者を篝家が手にかけたが、それを誘発させたのは俺だ。そして・・・・当主であるが故やってきたことのせいで・・・・小百合を・・・お前の母親を死なせてしまった。」
断片的に見えたお父さんの記憶は、血に染まった着物姿の母だった。
それを抱きしめて苦しむお父さんの姿も・・・
「これは俺の業だ。小夜香は関係ないし、巻き込むつもりがないからその後は本家の外で暮らさせていた。追われ狙われる立場である、当主の家族にまで危害が及ぶということは、御三家の古き歴史に無かったとは言えないが、警備や警護を重んじてきた昨今に起こりえないと思われていたことだった。明らかに俺の失態であり、白夜にとっては予想外の出来事であり、警備の甘さでもあった。」
「・・・・そうだったんだ・・・」
何とかこぼれそうになる涙を堪えながら、青信号になって発進した窓の先を眺めた。
「一生・・・・小夜香に話すつもりはなかった・・・・。小百合は・・・・」
「お父さん、もういいよ。ありがとう・・・。」
これ以上はここで聞くべきでない気がして、私は一先ず深呼吸した。
静かに淡々と走り続けていた車が、やがて住宅街の一角に到着して白い建物の中に入った。
人気はないけど、普通の少し大きい病院のような雰囲気で、確かに外科手術が出来るような設備まで整っている場所だった。
お父さんの後を追って検査の準備をする背中を見ながら、何だか悪いことを聞いてしまった気がしてならなかった。
話すことでたぶん、お父さんの気持ちが楽になったとは思えない。
私がしてあげられることを必死に考えながら、無事検査を受け終えて、その結果をまじまじと見るお父さんをボーっと眺めた。
「・・・問題ないようだな・・・」
お父さんはポツリとそう呟いて、動かしていた医療機器の電源を落としていく。
毎年私の健康診断の結果も、いつも真面目な顔して隅々まで見るし、ホントに心配性だなぁ・・・
「お父さん・・・」
「ん?」
「・・・・お母さんが今の私くらいの時、お父さんに出会ってたのかな。」
お父さんは少し沈黙したまま私を見つめて、思い出を辿るような光景が見えた。
「そうだな・・・恐らくちょうど患者として俺が受け持った時くらいだったかもしれんな。・・・それがどうかしたか。」
「・・・今の私はお母さんに似てる?」
「・・・ん~・・・まぁ・・・そこそこ似てるとは思うが・・・。」
おばあちゃんの話では、幼少期こそ私はお父さんにそっくりだったようで、おばあちゃんとも顔立ちが似ていたみたいだけど、今となっては飾られている写真の中の母の人相に、我ながらそっくりだなぁと思うことが多々あった。
「私がお母さんの感じで、お父さんを抱きしめたりしたら嬉しい?」
突拍子もないことを提案すると、流石にお父さんは苦笑いを落とした。
「ふ・・・何を言い出すかと思えば・・・。そんなことされたいとも思わないな。小夜香は小夜香だろ。娘が甘えてくれてるのを嬉しく感じるくらいだな。」
「そっかぁ・・・」
「・・・心配せんでも、何かしてほしいとは思ってない。今日話したことが、小夜香が知りたかった質問の全てかどうかはわからないが、あくまで俺個人の過去の所業でしかない。小百合の死因を曖昧にして誤魔化していたことは謝る。」
「ふふ・・・そんなの子供に普通言えないよ・・・。でもね・・・私、お母さんがいなくて寂しい想いはしてたけど、別に特別島咲家に生まれたせいで苦労してきたわけじゃないよ?」
お父さんは後片付けを終えて、丸椅子に腰かけていた私の目の前に座った。
それはまるで、私が医者であるお父さんに診察を受けているような感じだ。
「あの当時・・・寂しくて広い、知らない人が沢山いる本家にそのまま暮らしてたら、私は誰も信用出来なくなってたと思う。私にとって何が一番いいか考えたから、おじいちゃんとおばあちゃんに預けて外に引っ越しさせてくれたんでしょ?心配してたから、どんなに忙しくても週末には会いに来てくれてたんだよね?後さ・・・気になってたんだけど・・・」
私はもう一つ確認したい事を思い出して、この際だから聞いてしまうことにした。
「私さ・・・おばあちゃんたちと住んでた頃、本家にいる晶ちゃんと文通してたけど、もう一人住所も宛名も書いてない子と文通してたの。或る日私宛にポストに入ってて・・・島咲家の人で、名前は言えないけど私を知ってるから、話してみたかったって言われて、そこからやり取りが始まったけど・・・あれって、お父さんだよね?」
「・・・・・そうだな・・・。」
お父さんから、やっぱり気付いてたのか・・・と心の声が聞こえた。
「2年くらい文通してくれてたよね・・・。お父さんわりと癖のある文字の書き方するから、いくら子供でも私はわかったよ。でもね・・・忙しい中帰ってきてくれてた週末でも、私はプチ反抗期だったしろくに話せなかったから、嬉しかったんだよ。途中から気付いてたけど、最初から明かしてくれててもよかったのになぁって思って・・・。でも・・・その気遣いが私は嬉しかったの。お父さんがそんなにマメな人じゃないのもわかってたから、それなのに一生懸命毎週末そっとポストに入れてくれたんだなぁって思うと・・・ふふ・・・おかし・・・変なのぉ。」
拙い手紙のやりとりをしていた中学生の頃を思い出した。
「・・・・騙してたと思われてなくて安心した。」
「思わないよ・・・」
その後静かにその場を後にして、少し離れた街にランチに行くことになった。
ゆっくりドライブを楽しむのもいいだろうってことで。
「お父さん私さ・・・心の声が聞こえちゃう白夜さんは、きっと嫌なことも多かったんじゃないかなぁって思うの。」
そう切り出すと、お父さんはチラリと私に視線を送った。
「お父さんが信用出来ないって言うのは、たぶん当主としての白夜さんの言動が強く心に残ってるからなのかなって思って・・・。でも美咲くんはさ、本当は優しい人だったんじゃないかとか、子供が好きだった人だと思うって言ってたじゃない?それって美咲くんと関わってる時の白夜さんは、少なくともお父さんとして接してたんだろうし、本来の気質が見えるような言動があったんじゃないかなって思ったの。」
「なるほどな・・・」
「想像だから真実はわかんないけど・・・美咲くんが感じ取った白夜さんは、息子のためを思って心を鬼にしてた白夜さんでしょ?相手の本音が聞こえてたなら、本当はそうじゃないよって否定したいこともあっただろうし、聞きたくもない自分の悪口とか、陰口とか聞こえてたならずっとストレスじゃん。その・・・・もしさ・・・・例えば白夜さんが、本当に愛してた人が由影さんだったとしても、言いたいことは言えなかったかもしれないし・・・。とにかく、何も語らないけどつらいこといっぱいあったんじゃないかなって思ったの。」
お父さんはなかなか変わらない信号を、ハンドルに腕を預けて眺めていた。
「まぁそうだな・・・・。そもそも俺には絶対本音は言わない奴だったように思うし・・・俺が悪い印象を抱いてるのは当然かもな・・・。向こうは本心が見えているのに、あいつの本心は一切闇の中なもんだから・・・それに少し苛立ってたのもあるが・・・。」
「そっか、オンとオフ分けてるタイプの人だったのかもね。」
青に変わって走り出して、お父さんはまた姿勢を正して言った。
「何故あいつが人の夢に干渉出来るのか・・・についてだが・・・俺たちが見たそこは、夢の中と言うには少し違う場所だからだ。俺が思うにあいつは・・・この世とあの世の狭間に居るのだと思う。」
「狭間・・・・それって・・・・白夜さんが成仏してないってこと?」
「まぁ・・・成仏という観念を持っているのか疑問だが・・・。もし・・・次会う機会がお互いあったとしたら、さっさと生まれ変われとでも言ってやった方がいいかもな。どうせ、どうしてそこにいるのか聞いてもまともに答えないだろうし・・・。」
「そうだね・・・。うん・・・」
「だがこれだけは言っておくが、本来なら白夜に会い見舞える狭間に立ち入ることは危険すぎる。戻って来れなければ一生眠ったままになりかねんし、現に・・・島咲家当主の者で、二百年程前だったか・・・同じように夢から覚めず亡くなった者がいたらしいからな。」
「そうなんだ・・・。でもさぁ・・・ん~・・・」
真っ白い空間で、一人切りでいた白夜さんを思い出すと、何だか不憫に思えて仕方ない。
何か目的があってとどまってるのか、そこから抜け出せないのか・・・けどお父さんの言う通り、思惑を尋ねようとしても、白夜さんは正直に答えてくれるとは限らない。
「あ・・・・でもさ、お父さん・・・私が今借りてる心の声が聞こえてる力で、また白夜さんに会えたらどうして狭間にいるのか、真相がわかるかもしれないよね?」
するとお父さんはじろりと私を睨んだ。
「人の話聞いてたのか?」
「・・・う・・・でもでも・・・気になるし・・・」
「はぁ・・・そういう無鉄砲でお節介で他人思いな所は小百合に似たのか?さっき言ったことを努々忘れるな。というか・・・そういう手段を取られないために、白夜は半日しか能力を貸さないって言ったんじゃないか?また夜にならない限り、そうそう深い眠りにつくこともないと踏んで・・・」
「あ・・・そうなのかな・・・抜かりないんだね・・・」
考えても答えが出ないようなことを、その後も車内でたくさん話した。
休日を楽しむというより、聞いたことの無いお父さんや白夜さんの話を聞く機会になっていた。
ふと車窓から見えた景色に、緑の多い場所が見受けると、何となく幼い頃遊びまわっていた本家の風景を思い出していた。