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(8) まあ、そうなりますよね

 


 メイアがいる場所から程近い大扉が開かれるとそこから王家が入場した。順番は国王、第一王子とその妻、第二王子、ジュリアス様、そして王妃、カイゼルの並びだった。


 ジュリアス様は貴賓扱いでインサルスティマ王国の王弟でもあるから王家側にいるのはおかしくはないが出てくる順番も並びも歪でおかしかった。


 壇上には国王が玉座に座り、二人の王子が国王の後ろに立っている。第一王子の妻はジュリアス様と共に玉座に近い場所で控えた。

 最後に入ってきた二人は壇上の椅子には座れたものの、玉座となんとも言い難い距離があり王妃の後ろに控えたカイゼルは不安げに玉座の方を見ていた。


 見ている方は距離だけではなく位置も気になった。玉座は壇上の中心にあるが王妃の椅子は壇上の端の方にあるのだ。

 今までは壇上の真ん中にふたつ寄り添うように置かれていた。その記憶が濃ければ濃いほど貴族達は動揺していた。


 しかし国王はそのことには何も触れず淡々と挨拶をし、ジュリアス様を紹介した。


「この度ヘンダーソン侯爵家の息女メイア嬢とインジュード公爵が縁を結ぶことと相成った。

 隣人であり友人であるインサルスティマ王国とはこの結婚で更に強固な結びつきとなっただろう。二人が末長く幸せに過ごせるよう心から祈っている」


「祝福してくださりありがとうございます。国を代表して、そして一人の男としてメイアを生涯愛し守っていくことを誓います」

「インサルスティマ王国との橋渡しとして恥じぬよう邁進していく所存でございます」


 国王に名を呼ばれ、挨拶までしたメイアをドゥーパント姉妹は驚愕した顔で見ていた。そしてカイゼルもまだ信じられない顔で悲しそうに見ている。

 それらを無視してジュリアス様を見つめ、彼と目が合うと互いに微笑んだ。



 歓談に入るとジュリアス様がこちらに歩み寄る姿が見えた。それに合わせて姿勢を正すが視界に派手なドレスが二着目に入った。


「ジュリアスディーン様にご挨拶申し上げます!」

「ジュリアスディーン様。わたくし達に自己紹介をする名誉をお与えください」


 うっとりと頬を染めるドゥーパント姉妹にメイアは呆れた。

 確かにジュリアス様は大人の魅力があり女性を魅了する手管をたくさんお持ちだけど目の前に妻がいるのにそれを押し退けて挨拶するなんて、なんて無作法なのかしら。


 しかも自分達が化物貴族と言ったことをもう忘れている。

 あれだけ大声で叫び、しかもあのタイミングで入ってきたのに聞こえていないと思っているのかしら。


 いきなり前に現れたドゥーパント姉妹にジュリアス様は嫌な顔ひとつせず薄く微笑み少しだけ屈んだ。

 ジュリアス様は長身のため人の話を聞く時は少し背を曲げて聞くくせがある。さらりと揺れた髪と少し近づいた距離に姉妹は舞い上がった。


「リリローヌ・ドゥーパント伯爵夫人、エネレッタ・センダース侯爵夫人ですね?」

「はっはい!そうですわ!!」

「わたくし達をお見知りおきくださるなんて!光栄ですわ!」


「勿論知っているさ。君達は私の妻を虐げ、苦しめた憎い憎い敵だからね」


 名前を言い当ててもらい、まるで自分達に好意があるのだと勘違いしてるような歓喜の顔でジュリアス様を見つめていると彼の言葉が低くなったと同時に姉妹は近衛騎士に拘束されその場に膝を突かされた。


 現状についていけない姉妹は目を白黒させジュリアス様を呆然と見つめたが、彼はもう彼女達を見ていなかった。



「国王よ。これはどういうことだ?この女達はメイアを傷つけた重罪人であり、絶対に招くなと事前に言っていたはずだが?」


 遅れて壇上から降りてきた国王は慌てて宰相を見ると彼は王妃を見遣り苦い顔をした。

 当の王妃は素知らぬ顔で扇子で顔を隠しカイゼルはこちらと王妃を交互に見て戸惑っている素振りを見せた。


「な、何かの手違いで呼んでしまったようだ。後できつく言っておくのでこの場は」


「このパーティーはメイアと私の結婚とインサルスティマ王国との結びつきを祝うものだ。

 私はヘンダーソン侯爵家に婿入りしたわけではなく、インサルスティマ王国の代表として招かれている。それは公爵夫人となったメイアもだ。

 もてなされる側のメイアがもっとも会いたくないと弾いたのはドゥーパント伯爵家とセンダース侯爵家だ。だというのになぜその本人達がここにいる?

 この国ではパーティーをする際ゲストを不快にさせなくてはならない風習でもあるのか?

 国賓が嫌がる相手をわざわざ呼び寄せ、メイアがいる高位貴族……今日は国賓と国賓が許した貴族しか足を踏み入れられないエリアにまで侵入を許した。

 これはダスパラード王国はインサルスティマ王国を軽視している、または国賓の警備すらできない杜撰な国だと言っているようなものだぞ!

 どうなのだ?国王よ、答えよ!!」


 国王は内心かなりヒヤリとしたが軽く流そうとした。

 今まではドゥーパント姉妹がどれだけ悪質なことをしても国王の権限でどうにかできたからだ。


 しかしジュリアス様は流さず国王に問いただした。国王はそこでやっとメイア達のエリアにドゥーパント姉妹達が侵入していることに気づき、まずいという顔をした。


 パーティーをする際、爵位によって立つ場所が決まっている。王家がいる壇上に近い前方ほど爵位が高く後方ほど低くなる。

 それが崩れるのはダンスになってからでそれまでは上位の貴族に呼ばれない限りそのエリアに留まるのがマナーであり暗黙の了解だった。


 しかも本日は他国からゲストを招いている。高位貴族は数が少ないので境界線が曖昧だがメイア達はもっとも王家に近い場所で高位貴族は彼女の友人達以外気を遣って少し離れた場所に立っていた。

 そんな中このパーティーで一番身分の低い伯爵位の者が呼ばれてもいないのに同じエリアに立っている。これは外交問題に発展するとんでもないやらかしだった。


 この光景を見て姉妹以外、正確にはサロンメンバー以外が顔を真っ青にさせこちらを凝視した。

 神経質な相手や激昂しやすい者なら戦争もあり得るほどの耐え難い侮辱だ。

 だが戦争を知らない世代が多いこの空間ではここでどう対処すればいいのかわからず国王に縋ることしかできなかった。


 張りつめた空気に貴族達は固唾を呑む。

 国王はそれ以上に焦り、嫌な汗を吹き出させた。


「いや、まさかそんな!ヘンダーソン嬢の結婚の報告を娘のように喜んだ余が、インサルスティマ王国で文武共に最強と謳われたインジュード公爵の機嫌を損ねるようなことなどするわけがないではないか!」

「そうか。ならば話は早い。この賊の処罰をどうする?」

「…ぞ、賊…?」


 国王は内心なんでドゥーパント姉妹を入れたのだと悪態をついた。


 ドゥーパント家は元は公爵家で王妃の親戚だ。国内の貴族ならば威光も残っていたしなあなあですませられたが、ジュリアス様(他国)はそうはいかない。


 今日のパーティーは国王がジュリアス様やメイアのため、そして王家がインサルスティマ王国と友好関係を結んだとしらしめるものだ。

 どちらが有益で守られるべき相手か、火を見るより明らかである。

 だが王妃やドゥーパント姉妹を蔑ろにするわけにもいかないだろう。見ていた貴族達もそんな顔で国王を窺った。


「そうだ。正式に招待されていない者達が国賓がいるエリアに土足で足を踏み入れたのだ。しかもこの二人は絶対に呼ぶなと弾かれた者達だ。賊で間違いないだろう?」

「無礼者!その二人はわたくしの姪よ!王妃の親族を賊などと侮辱するなんて許さないわ!

 陛下!他国の田舎小国に敬意を払う必要などありませんわ!即刻あの者達を捕らえるべきです!!」

「黙れ!そなたに発言を許してないわ!!」


 ジュリアス様の発言に王妃は激怒し感情の赴くままに叫んだ。あの方、前よりも直情的になっていないかしら?お会いしていた頃の方がもう少し我慢ができていたと思うけど。


 しかも王妃はインサルスティマ王国を『田舎小国』と罵った。それがどれだけ国の寿命を縮めているのか理解していない。

 姉妹が昔の気分で奔放にしているのもあるけれど、なんの躊躇もなく話しかけてきたのは王妃の刷り込みのせいだろうなと理解した。


「ならば田舎小国の化物貴族らしく、気に入らぬ者をこの場で虐殺すれば理解するのかな?」


 やはり先程の会話が聞こえていたらしく姉妹と国王が真っ白になった。

 本来なら国賓がこんな過激なことを口にしたりしない。ジュリアス様だってそれくらいはわかっている。それだけダスパラード王国の対応に怒っているのだ。



「……こ、この者達を貴人牢に入れておけ」


 そう言うしかありませんよね。

 ジュリアス様は田舎小国でも化物貴族でもありませんし気分で人の命を取ることもしませんが、姉妹を退場させるための強い言葉なのでわたくしは大人しく泣き崩れる姉妹を眺めていました。


読んでいただきありがとうございます。

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