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(4) 人の結婚を祝えない時点で詰んでいる



「カイゼル!!お前こそ何を言っているんだ?!元はといえばお前が結婚式に勝手に侵入してきたからこんなことに」


「そのままお返ししますよ。俺は母上からこの聖堂に行くようにと指示されたから来たのです。

 ヘンダーソン侯爵がここにいるだろうから今後のことをじっくり話してくるといいと言われたんです。まさか義父上ではなくメイアがいるとは思っていませんでしたが。

 王妃である母上が許可したのですから引き止める方が無礼というものでしょう」


 もしかして母上はこうなることを予測していたのだろうか。もしくはメイアと母上がサプライズを考えてくれていたのか?

 ウエディングドレスを着て待ち構えているなんて気が利くこと考えられるのは母上くらいしかいないだろう。


 カイゼルはヘンダーソン侯爵に会えたらメイアが約束を破ったことに対しての謝罪と慰謝料の話をするつもりだった。あの件は俺の心をひどく傷つけたからだ。そう簡単に許せるわけがない。


 だが婚約の白紙は寝耳に水だった。どんなにメイアが我が儘を言っても最後は俺の伴侶になり目の前の姿で結婚するのだと信じていた。

 だから半年前もどんなに怒っても、周りから『不誠実な女なんてカイゼル殿下に相応しくない。即刻婚約破棄をするべきだ!』と諭されても婚約を続けた。


 それはメイアには俺しか愛せる男がいなくて、俺のことが誰よりも好きだと知っていたからだ。


「メイアもここで俺がお前と結婚式を挙げようと計画していたのを聞いたんだろう?だから先回りして俺を待っていた。お前もここで式を挙げることを楽しみにしていたもんな!

 あ、もしかして母上の入れ知恵か?メイアを使って俺を騙すなんて母上も人が悪い。そのドレス姿は大いに驚いたが俺以外の男と結婚など冗談でもつまらないぞ?

 サプライズならもう少し俺に寄り添うべきじゃないか?そもそも隣の男もなぜメイアの色をつけているんだ?不貞を疑われてもいいのか?」


「カイゼル!お前はもう黙れ!!」


 悲鳴混じりに第二王子が叫びカイゼルは疎ましそうに眉を寄せた。


「お言葉ですがこの式に王妃殿下は関係ありません。混乱を避けるために王家からの参列は第二王子殿下のみにしていただきました。

 第二王子殿下をご招待したのは婚約者がサリマーン帝国の第四王女様だからです。今後より良い関係を結ぶならサリマーン帝国は外せない国のひとつですの。

 お忙しい中時間を割いていただき誠にありがとうございました」


「とんでもない!こちらとしても願ったり叶ったりでした。()()()()()があり、王家の参列は難しいと思っていましたが参列する許しを得られ、ご結婚の祝いの言葉を伝えることができ心より感謝しております。

 国王である父や第一王子の兄、第一王子妃、そして私の婚約者もお二人のご成婚を祝福しております」


「「ありがとうございます」」


 そう言ってメイアは隣の男と二人で微笑んだ。それを見てますます困惑した。え、本当にメイアは俺ではない誰かと結婚するのか?

 本当の本当に婚約は白紙になっているのか?俺の許可なく??


 その表情に気づいたのかメイアがこちらを見て微笑んだ。その微笑みが美しいのに冷たく他人行儀に見えた。


「第三王子殿下と交流を()った理由をあえて申し上げますと、その勉強会のことが原因ではございません。それよりももっと重大なことがございました。……わたくしにとって、がつきますが。

 王家との婚約なので解消など天地がひっくり返ってもできないと思っておりましたが、父に相談しましたところわたくしの願いを聞き届けてくださり国王陛下に陳情してくださいました。

 そして陛下、王妃殿下、宰相閣下、教皇猊下の許可を得て婚約を白紙にしていただくことができましたの」


 にっこり微笑むメイアに無意識に唾を飲み込んだ。


「ですから第三王子殿下。どうか先程の発言を撤回していただけませんか?」

「え?」


「わたくしは、そしてヘンダーソン侯爵家は第三王子殿下になにひとつ無礼を働いてはおりません。また婚約白紙の件を隠していたわけでも騙していたわけでもありません。

 白紙となりましたのにあなた様に恋慕を抱くなどありえません。わたくしは潔白でございます」


 ピンと姿勢を正し見据える瞳の強さは高位貴族の威厳さえ垣間見えた。

 予想以上のメイアの拒絶にカイゼルは再び狼狽えた。


「……な、なぜ?なぜなんだ?!今になってなぜいきなりそんなことを言うんだ?!ヘンダーソン家の当主となるために研鑽してきた俺の努力はどうする?!

 俺達の時間は?俺はお前がここで結婚したいというから父上に許可を得ていたんだぞ?!

 お前が怒ったのだってアニーと二人きりで勉強したから、それを知って嫉妬したんだろう?お前は座学の成績は良かったみたいだからな。

 だがその分苦手分野を人に聞くことができないプライドの高さがあった。それが邪魔してアニーのように俺に勉強を教えてほしいと言えなかったんだろう?

 アニーは己の不出来さを隠さず貶めず勇気を持って俺に聞きにきたんだ!その姿に感銘して何が悪い?!これのどこに邪なものがある?!そう見えるならそれはそいつの目が曇っているだけだ!!」


 喋るうちにどんどん言葉が荒れていき、苛立ちが募った。俺はこれだけ努力し、メイアを思い続けてきたのになぜメイアは謝罪のひとつもしないんだと憤った。


 俺をこんなにも苛立たせているのになぜ自分は潔白だと言い張るのか。俺に嫌われたらお前は二度と結婚なんかできないし、社交界での居場所もなくなるというのに。

 どうすればメイアは従順に俺に従ってくれるのか、そんなことを考えながら睨み付けた。


 カイゼルの怒りが伝わったのか、メイアの顔が強張り視線を逸らされた。俺は王子なんだぞ。これくらいで許すと思っているのか?

 逃がさないぞ、と更に睨み付けていると隣の男が壁になるように立ちはだかった。


「おい、お前邪魔だぞ」

「カイゼル!よさないか!!この方は」

「……先程から気になっていたのですが、誰かとお間違いではありませんか?」


「「は??」」

「わたくし、あなた様にこちらの聖堂で式を挙げたいなどとただの一度も言ったことはございませんが」

「はあ?そ、そんなわけないだろう?確かに言ったぞ!」


「バージンロードを歩きたいというお話はしたかもしれませんが聖堂がいいとは一度も話しておりません。

 むしろわたくしは父と母が式をあげた領地の教会で結婚するのが夢でした。こちらの聖堂より大分小さいですがあちらの方が道幅も長さも光が差し込む加減も全てが理想通りなのです。

 殿下にそのようにお話した際は『田舎で式を挙げても誰も見ないだろう。王子の俺が結婚するのだから王都で挙げるべきだ』と仰いましたが聖堂の名前が出た記憶はございません」


「え?いや、そんな、そんなはずは……」


 そう思っていたがアニーの名前をずっと出していたせいかとある記憶が甦った。


 そうだ。アニーと二人で歩いていた時に聖堂の前で『アタシここで結婚式したいなぁ』と俺を見ながら言っていたのだ。

 その時は結婚する時は王子権限で優先して使えるようにしてやるよ、と言っていたのだがメイアもこういうところで結婚したいと言うだろうか?と考えていたため記憶が混ざったらしい。


 しまった、と思ったが今更なかったことにするなどできなかった。



「……発言の撤回もなく、おわかりにもならないのならこれ以上わたくしから申し上げることはございません」


 スン、と表情を消したメイアにいよいよ体が震えた。体は何かしらの危険や恐怖を感じていたが頭ではまだ何もわかっていなかった。

 これだけ美しく着飾っているメイアが俺のためにいるのではない、という言葉が理解できなかった。


「ダメだダメだダメだ!俺は許さないぞ!メイア、お前は俺と結婚するんだ!それが王家とヘンダーソン侯爵家が結んだ婚約だ!王命なんだぞ!お前ごとき令嬢の我が儘で解消などできるはずがない!!

 父上だって俺になんの相談もなく婚約解消など許すものか!俺はこの国でもっとも期待されている有望な王子なんだぞ!この俺が認めてやってるのに捨てるバカなんてこの世にいないはずだ!

それに俺と結婚しなければお前は罰されそれどころかヘンダーソン侯爵家も没落するかもしれないんだぞ!!それでもいいのか?!」


 俺は第三王子だぞ!王族がコケにされて許されるものか!相手の男の家も潰してもいいんだぞ!と思うがままに脅せば第二王子は頭を抱え、ジュリアスという男がズイッとカイゼルの前へ進み出た。


 その男が屈むようにカイゼルを見下ろしてきてぎょっとした。

 メイアに夢中で見えてるようで見えていなかったがジュリアスという男はとても背が高く平均身長より高いはずのカイゼルよりも頭ひとつ分くらい彼の方が高かった。


 それに神経質そうな顔をしているが妙に貫禄があり審判されているような錯覚を覚えた。自分に自信があるカイゼルでも萎縮させられる雰囲気に思わず顔を背けた。しまった。逃げてしまった。



「……その様子だと私の顔を知らないらしいな」


 啖呵を切ったわりには弱腰の反応に嘲笑われるかと思ったがジュリアスは自意識過剰な言葉を吐いた。


 確かに顔は整っていて十人中九人の女性は振り返り、内四人は恋愛感情を持ちそうなくらい麗しいが俺は百人中百人が振り返り、そのほとんどが俺に恋愛感情を抱くだろう。間違いなく俺の勝ちである。


 だからメイアもそんなとるにたらない、家格で言ったら俺の足下にも及ばないであろう木っ端に懸想するなどあってはならないのだ。


 ああそうか。俺に捨てられたと思って自棄になり平民の役者に芝居させたのか。俺の愛を量るために。

 はあ。メイア・ヘンダーソンともあろう者が随分と俗世にまみれたものだ。浅はかすぎて俺の恋心も冷めてしまいそうだよ。

これは徹底的に誰が夫で、誰に服従しなければならないのか教えなくてはならないな。


 王子でありヘンダーソン侯爵家()()になる俺と結婚できることがどれだけメイアのためになり幸せになれるか思い知らせなくては。



読んでいただきありがとうございます。

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