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(23) 因縁の相手

【報告】21、22話はカイゼル視点で手直しした際に長くなったので2つに割りました。

大筋は変わっておりません。

 


 さめざめと泣く王妃をインサルスティマ王国の騎士が無理矢理立たせてソファに座らせた。その間誰も王妃を慰めずハンカチも渡さなかった。

 けれど、それでも彼女は王妃なのだ。すんでのところで助けに入るのだから。ならばこちらも徹底した態度を示そう。そう思いジュリアス様を見た。


「実はもう二名ほど処罰してもらいたい者達がいる。いいだろうか」


 聞いてはいるが逆らえない声色に国王は顔を強張らせながらも頷いた。

 ジュリアス様の視線だけで察したこちらの騎士がダスパラード王国の騎士を連れて部屋を出ていく。


 そして裁判官には父のヘンダーソン侯爵から分厚い書類が手渡され、宰相にも渡された。国王はその後に渡され、二人の王子達も読む。その内容に誰もが難しい顔をしていた。


 カイゼルと王妃には書類は渡されず、騎士の合図でドアが開けられ二人の令息が入ってくる。「え、なんで?」と真っ青な顔で呟くカイゼルの声が聞こえた。


 その二人の顔を確認して無意識に拳を作った。その手をジュリアス様に握られハッと我に返る。

 彼の頷く顔を見てメイアも頷き返す。小さく深呼吸してから国王陛下の前に立たされる二人を見つめた。



「あの、僕達はどうしてここに呼ばれたのですか?」

「カイゼル殿下。これはどういう」

「静かに!これから話すことはお前達二名のことだ。心して聞くように」


 動揺して何も言えないカイゼルに代わって宰相が黙らせた。厳しい口調と不穏な空気に令息達は首をすくめるように口を閉じた。

 しかし顔にはわけがわからないと書いてあり、彼らは会場でもなく裁かれた彼らとも同席せず別室で待たされていたことが伺えた。


「あなた方二名はドゥーパント伯爵令嬢他と同様、カイゼル殿下が主催するサロンに出入りをしていた、これに間違いないですね?

 あなた方サロンメンバーは家同士で結ばれた婚約を不服として自分が選んだ女性と結ばれるため婚約破棄を大々的に行った。

 並べた罪もあたかも本当にあったかのように捲し立て、衆人環視の中無罪の令嬢らを辱め傷つけた。

 また他の者達と違い、あなた方はチャールズ・ヘイマンを通して婚約破棄に関する書類を親のヘイマン司祭に作らせ安くはない報酬を支払った。

 権限もない司祭に書類を作らせ枢機卿や国王のサインを偽造したことは大罪である。

 効力はないと知りつつも偽造しただけで禁固十年、鞭打ち五十回が処せられる。これは未成年でも適用される。

 以上をもって令嬢方に突きつけた破棄を無効とし、あなた方有責で解消とする。陛下、それでよろしいでしょうか?」


「うむ。家同士が結んだ婚約を軽視し、徒に破棄を突きつけ令嬢達を辱めたこと。貴族として、紳士としてあるまじき行為である。

 それぞれの当主から追って沙汰が下されるゆえ貴人牢にて謹慎するがよい」


 裁判官が話した内容に令息達は驚いた。てっきりパーティー会場でのいざこざの証言を取る程度だろうと踏んでいたのにまったく違う話が出てきたのだ。

 しかもとっくに終わった話を突かれて軽く混乱した。


 しかし慌てて頭を回転させた学園でも成績トップらしい公爵令息が口を開く。このまま沙汰を受け入れていれば軽傷ですむのに、と王妃側の貴族を見遣れば一人の貴族が苦々しく令息を睨んでいた。


「お、お待ちください!僕はサロンでカイゼル殿下との政治的な話し合いに参加していただけで婚約破棄には加担しておりません。

 それに学生の間だけ自由にしてもいいとセシールから許可をもらっております。僕がセシールを裏切るなどとんでもない!どうかセシールと婚約続行をさせてください」


「お、俺もです。俺はカイゼル殿下の後ろに控えていただけです。それに俺は騎士団長になるべくハードな修行をこなさなくてはなりませんでした。

 婚約者のマディカと少し距離を置いただけなんです。それなのに不貞だのなんだのと騒ぎ立てて!

 本当なら見捨ててもいいんですが、これまで婚約者として付き合ってきた仲です。傷物では誰も相手にしないでしょう。

 なので俺もマディカとの婚約、いえ即婚姻を望みます」


 どちらも婚約破棄したことを責められたのだと気づき否定した。悪知恵は働くようだ。さすがは婚約破棄の書類を作らせただけはある。

 あの書類には婚約破棄を認めるという以外にも、やってもいない家の犯罪や覚えのない罪を認め婚約者の令息の家になぜか法外な慰謝料を払うことを約束する文章もあった。


 それを支払えば自分達の家は傾き最悪没落の憂き目に遭う。彼らはそんな大金を支払えないと見越した上で令嬢達に謝罪させ、屈辱を味わわせ、婚約を続行したければ自分達に服従しろと大勢の前で侮辱したかったのだろう。


 まがりなりにも婚約者で、ある程度信頼していた相手にそんなサインを強要させられた令嬢達の屈辱、苦しみ、悲しみはどれほどのものか。

 だというのにこの愚か者達は生意気な婚約者を懲らしめるためのゲームだったと嘯き、彼女達も面白がってサインしただのなんだのと並べ立てている。


 懲らしめられるのになんで面白がってサインするのよ。バカなの?政略結婚舐めてるの??扇子を持つ手が震え、扇子が悲鳴をあげた。


 話を止められないことをいいことに彼らは饒舌になった。

 今も婚約者なのにちょっと辱められたくらいでギャーギャー騒いでみっともない。そういうところが可愛げがなかったのだと呼び捨てで蔑み、自分達は無実だと訴えた。


「ゲームとわかった上で彼女達もサインしたのだから罪になんて問われないでしょう?彼女達は僕達に構ってほしいからそんな嘘を言ったのです」

「婚約者としての義務もなにひとつこなしてないのに、自分のことを敬えだの豪華なプレゼントを寄越せだのと我が儘が絶えなかったんです。

 そんな者をお仕置きするのも婚約者の務めだと俺は認識しております」


 堂々と嘘をつく二人に「彼女達からの陳情はないがなんの話をしている?」という宰相の問いに彼らは話している相手が誰だったかを思い出し気まずい顔で俯いた。


 彼らはカイゼルの側近でサロンのメンバーだった。そして国王に選ばれたカイゼルの友人でもある。

 最初は側近であり友人だったが学園に通うようになりサロンをカイゼルが主催するようになって人が増えると彼らも変化していった。


 彼らは総じてサロンを出入りしていることで自分もカイゼルのように偉くなったと勘違いし、サロンで話し合いを続けていくうちに国を変えるのは自分達だと履き違え、その延長で婚約破棄を思いついた。


 家同士親同士で結ばれた婚約よりも自分達が選んだ者の方が価値があるとし、縋る婚約者を手酷く振るのが相手への当然の報いだとしたのだ。

 自分達の愛が深まるためなら婚約者に冤罪をかけて断罪しても必要な犠牲として今も笑い話にしてるという。


 中でももっとも悪質な婚約破棄をしたのがこの二人で、この二人の婚約者はわたくしの大切な友人だった。


 だからこそこの場にいないわたくしの友人を彼らの都合でまた辱められ、侮辱されたことに怒り、目の前が真っ赤に染まりそうだった。



「発言してもよろしいでしょうか」


 一歩進み出たのは王妃側にいた公爵だ。助けてください、と縋るように見つめる礼儀がない息子を父公爵は無表情に青白い顔で見返した。


「父上……」

「愚か者が。なにが〝セシールから許可を得たから〟だ。ピンデッド嬢も婚約を結んだ両親に相談の上、と言っていたそうではないか。

 それを自分の都合で解釈しおって……貴様のせいで婚約破棄は成立している。書類にサインしたからではない。貴様の行いのせいでピンデッド嬢を失ったのだ。

 効力がなかったと知っていた?馬鹿め。そこに司祭と王族一人が同席すれば成立すると貴様が嬉々として調べていたことは邸の者達から確認が取れておるわ。

 だというのになんだ?先程の戯れ言は。何度令嬢とその家族、そして我々を裏切れば気が済むんだ。この恥晒しめ」


 続いてもう一人の令息の親が許可を貰い進み出た。騎士らしく隣の公爵よりも倍ほど体つきが違っていた。


「まったく誇大妄想もいいところだ。伴侶になるべき相手を守らずして何が騎士道精神だ。不貞を犯したのは貴様だということをこの場にいる全員が知っている。

 だというのに陛下の前で嘘を吐く貴様の言葉を聞かされる俺の気持ちがわかるか?

 愚息の貴様との婚約を快く受けてくださったチェスター伯爵になんと申し開きをしたらいい?

 妻がどれだけマディカ嬢が嫁いでくれることを楽しみにしていたか、まったく理解していないではないか。馬鹿者め」


 血走った目で睨まれ、騎士令息は勇敢だと自負し胸を張っていた姿勢を丸め涙目で父親を見上げた。だが彼の父親は許さない姿勢を崩さなかった。


 自分達の息子に恩情や言い訳をするために口を出したのかと思いきや切り捨てるためのものだったようだ。この一年で彼らも調べあげたらしい。


 まあ令息らが手に入れようとしていた相手は二人に対して一人しかおらず、しかも下位の令嬢だ。他の破棄をした家に比べてなんの利益もなくただただ純粋に真実の愛?を貫いていただけだった。


 公爵家ならまだ受け入れる余裕があるだろうが素行調査でもしたのだろう。令息の意見を真っ向からこき下ろしている。

 彼らがゲームだと言い張るのも親達が新しい婚約だか結婚を許さないから別の角度から攻めることにした表れだろう。

 騎士家の方にも情報共有されているだろうから、彼らの親達が真実の愛で結ばれた彼女を受け入れることは絶対にないのだろう。


 父親が味方ではないとわかった彼らは泣きそうな顔で震えた。学園では正義感に溢れ、クールで格好いいなどと噂されていたが、真逆のような情けない姿だった。

 信頼できる彼らに期待していたカイゼルはさぞやショックだろう。みすぼらしく佇む側近二人を呆然と見ていた。



「国王よ。守るべき令嬢達の名誉に傷をつけたというのに、この者達は納得できていないようだぞ?元婚約者達の現状を教えていないのか?

 そんなだからこの愚か者達は平然とした顔で卒業式に出て、その後のパーティーにも婚約者でもない令嬢にドレスを贈ったのではないか?

 元婚約者が学園にいないことにすら気づいていなかったのによくもまあ婚約続行だの婚姻するだのと傲慢なことが言えたものだ。

 あまりにも自分に都合がよすぎて私はとても不愉快だ」


 ジュリアス様が口を挟み不機嫌を露にすると国王達が青い顔で慌てた。婚約破棄の話し合いは家同士でさせていたため概要しか知らなかったのだ。

 家の恥、ひいては国の恥をジュリアス様に喋られた国王は令息らを睨み恥晒しめと心の中で罵った。


 令息達はそこでやっとジュリアス様とメイアがいること、そして乱れた姿で力なく座り込む王妃に気がつき異様な空気に顔を強張らせた。



「では、説明をさせていただきます。まずはチェスター伯爵令嬢ですが、講堂で婚約を破棄された後、家にお戻りになりその後すぐに学園を退学しております」

「え?!」


 騎士令息はマディカ様が退学されたことを知らなかったようだ。

 令息本人は気にも止めていなかったが学園ではあの婚約破棄が原因だと誰もが噂していた。なので少しでも気にかけていればすぐに知ることができたはずだ。


 この一年間学園にも、卒業式にも姿がなかったことを一度も気にしてなかったことが露呈してしまい、チェスター伯爵家と交流を持っている貴族から侮蔑を含んだ目で見られた。


「現在は修道院で毎日神に祈りを捧げているそうです。この修道院は生涯神に仕えるための厳粛な場所です。

 よって第三者が懐柔しようとどれだけ金を積んだとしても、チェスター伯爵家の誰かを傷つけ最悪命を落としてもご令嬢が還俗することはありません」


「え…そんな…」


 令息は絶望し床を殴った。その行為は何に対してのものだろうか?ふと疑問に思う。

 苦痛に顔を歪めているがそもそもとして彼が不貞を働かなければ、マディカ様を辱めなければ、政略結婚を正しく理解し相手を思いやれれば起こらなかったことだ。


 仮にマディカ様のことを本当に心配していたとしても、彼の今までの愚行を思い返せば拳を赤くしてもただ滑稽な姿にしか見えなかった。



「ピンデッド侯爵令嬢も婚約を破棄された後、家にお戻りになり退学。その後は領地に移られたそうですが心を病み自殺未遂をはかったそうです。

 現在は記憶の混濁もあって貴族令嬢として普通の生活はできないとのことです」


「はあ?!…え?え?待ってくれ!なんで?!なんでそうなる?!セシールはそんなか弱い令嬢ではないはずだ!気位が高くて強情で、可愛げなんてなかった!

 アニーの方が何倍も可愛くて愛嬌もあって守ってあげたくて……じ、自殺未遂なんて、そんな!!嘘だろう?!」


 彼はセシール様を『傲慢で気位が高いだけの凡庸な地味女』と罵り、

『香水をつけても隠せない臭い女と僕が釣り合うわけがない!そんな獣染みた臭い人ですらない女など公爵夫人、いや貴族界に居場所などない!!』

 と彼女が気にしていた体の悩みを講堂で暴露し辱めました。


 それくらいで?なんで自殺未遂なんか、と彼は驚いていましたが、女性にとっては体の悩みは致命傷になるほどの攻撃だったことを理解していませんでした。


 嘲笑されたことで部屋を出ることができなくなり自殺を考えてしまうセシール様は心優しく繊細な方なのです。

 決して強情でも可愛げがないわけでもありません。気位が高いように見えるのだって爵位が高い貴族令嬢なら当然の姿です。むしろ下の者に侮られる方が問題なのですから。


 それをわざわざあげつらい、下位と比べて婚約者をこき下ろすなど紳士の風上ににも置けない下衆な所業ということをまったく理解していません。


 人目を憚らず大口を開けて笑い、爵位を鑑みず媚びるような目で男性にしなだれかかる彼女の方が貴族としてあるまじき姿だったのに。






読んでいただきありがとうございます。

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