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(22) 王子は人の心がわからない / カイゼル視点 5



 ジュリアスディーンが目配せをするとカイゼル達の後ろに控えていた強面の騎士が母上が座っているソファを蹴り、王妃をまた床に転ばせた。


 怒ろうと顔を上げた王妃の目の前にはジュリアスディーンがいて、彼女は顔色を青くした。


「王妃よ。君はいうに事欠き、いろんな場所で夫人達にこう広めていたそうだな?

 ヘンダーソン侯爵令嬢は隠しているが実は〝石女(うまずめ)〟で後継者を生めない体なのだと。

 だから第三王子の妻に相応しくないから引き取ってくれる貴族はいないかと次の嫁ぎ先を探してくれていたそうだな?」


「そ、そんな、こと……」


「知らないわけがないだろう。それをヘンダーソン侯爵夫人の前で言っていたのだからな」


 言い返せない者を見ながら嘲笑するのはさぞや楽しかっただろうな?と見下され母上がガタガタと震えた。

 俺はまったく知らなかったが父上達も知らなかったようでヘンダーソン侯爵が溜め息を吐いていた。


「いくら王妃様でも余計なお世話、とお答えしましょう」


 確かに後継者が生めないのは問題だ。俺の子供も生めないってことじゃないか。そこまで子供に興味ないが貴族として後継者は必要だからな。

 ならメイアにこだわらなくてもいいのか?ジュリアスディーンの中古品に成り下がったわけだし……。


 そうなるとジュリアスディーンの子供も生めないってことか?!そりゃ愉快だ!俺一筋だったメイアを奪い純潔を汚した屑だ。後継者が生まれないなんて相当な醜聞だろうな。クククッ。ざまぁみろ!


 メイアも後悔するだろうな。俺という立派な王子ではなくジュリアスディーンを選んだがゆえに恥晒しとインサルスティマ王国で笑い者になるのだからな!

 俺と結婚していれば子供が生めなくても妻として置いてやったのに。

 子供が生めないとわかったらジュリアスディーンは怒り狂って恥をかかせたなとメイアに暴力を振るうだろうな。

 その後は離縁されるか愛人に立場を乗っ取られ、メイアは粗末な物置小屋に押し込められて人生終わるんだろうな。あーあ。可哀想に。



 カイゼルは必死にジュリアスディーンに勝てるところを探し、蔑むことで心の平穏を保とうとした。

 すでにキャパオーバーで自分自身何を言っているか半分も理解していない。それくらい追い詰められていた。


 上辺すらもろくに知らないジュリアスディーンの対応はただの想像でしかなく、むしろカイゼルがしうる行動なのだと本人だけがわかっていなかった。



「義母上まで辱しめるなどほとほと呆れた屑だな。

 未婚の貴族令嬢に子が生めないというレッテルを貼ることがどれほど不名誉で大変な瑕疵か……それが第三王子の元婚約者にする仕打ちか?王妃のすることか?

 私の母上や現王妃である義姉上、インサルスティマ王国の女性が知れば間違いなく君は軽蔑され、ダスパラード王国では王妃以外の女性は貴族すら奴隷扱いをされるのだと警戒されるだろう。

 第二王子の結婚も危うい、いや白紙は免れぬだろうな」


 ?!?!

 そ、そう!その通りだ!それは俺も考えていた!


 とカイゼルは思ったが自動的に王妃に従うように思考を作られていたため、事前に告知してくれる王妃の方が正しいし良心的では?と考えていた。

 そこにはメイアへの想いはあれど貴族としての矜持の方が大事だし子を生めないメイアが悪いという考えがあった。


 それがすべて王妃とドゥーパント姉妹、そしてカイゼルがメイアとの婚約を望んだからという理由があったのにそこには思考は辿り着かなかった。


「そもそもとして誰かに相談もされていなければ医学書を広げ調べたわけでも、生還した別の者達から体験談を聞いたり確認もしていないのだろう?

 メイアの体験は特殊だから過去の被験者もなく、調べたところですべてが予想にすぎない。

 だがメイアが熱で苦しんだことは義父上の報告で知っていた。だからもう子供はできないと思い込んだ」


「……っそ、そうよ!あんな欠陥品に子供なんてできるわけないわ!毒を飲んで死なないなんてそれこそおかしいのよ!!」


「残念だったな。高熱で生殖機能に支障が出るのは男の方だ。男の子種は熱に弱い。

 よって君は中途半端な知識をさも正しいと勘違いし嘘を撒き散らしたことになる。名誉毀損、侮辱罪……あげたらキリがないな。

 また暗殺未遂の一件で自ら箝口令を敷きドゥーパント家の不名誉な噂を悉く潰したそうじゃないか。だがメイアの悪い噂は潰すどころか率先して広めた。

 箝口令はメイアが主体であり加害者の姉妹や君を守るものではない。その勘違いを誰も指摘しないのは異常なことだぞ。

 そもそも君達は暗殺を企てた罪と連座で毒杯をあおらなくてはならなかったんだ。君達が無駄に生き永らえることができたのはメイアのお陰に他ならない。

 だというのに恩人のメイアをまだ貶めるなんて……貴様ら、はしゃぎ過ぎだぞ?」


 カツン、とジュリアスディーンの靴音が響く。その音に母上は肩をビクリと跳ねさせた。

 すでに母上は歯を鳴らすほど震えていて目の周りが真っ黒になるほど泣いている。あまりにも不憫な姿に突き放したはずのカイゼルも手を差し伸べたくなった。


 酷い奴だとジュリアスディーンを睨むがカイゼルの視線など気にもしていなかった。



「国王よ。ドゥーパント姉妹には追加で避妊手術をすることを要請したい」


 廃嫡に生涯領地から出られず、慰謝料のために生涯落ちぶれた男爵並に慎まし過ぎる生活をするのがわかっているのに避妊手術まで施すと言われ、父上は少し困惑した顔で見てきた。

 領地から出てこれないのだから避妊手術をしたところで意味はないだろうと。


 子供にまで罪はないのでは?と返したがジュリアスディーンは嘆息を吐きそんなこともわからないのかと嘆いた。


「この(王妃)は子が生めない女性が生きたまま死よりもつらい生活を強いられると知りながら、事実かどうかもわからないことをわざと名指しで流布していた。

 また瑕疵がついた女性の行き先が年老いた者の後妻や難有りの家の妻になるようわざと誘導していた形跡がある。

 ドゥーパント家の者達は自分達が打診するわけでもないのに難有りの家を探しだし王妃に報告しているのも調べがついている。王妃の命令でメイアにそいつらから釣書が送られていたのも確認した。

 それをわざわざ茶会で皆の前で義母上に確認しただろう?『どの男性でもきっとメイアさんを幸せにしてくれますよ』とな。

 その時同席し一緒になって嘲笑していた夫人らの名前も釣書を送ってきた貴族もわかっている。そこに並んでいる貴様達だ」


 名前と顔を覚えたぞ、と鋭く見るジュリアスディーンに王妃側の貴族達は悲鳴と共に腰を抜かしていた。


「今後この豚は人々の嗤い者にされ忘れ去られる存在だが、あの姉妹達から次の王族が生まれることを何よりも期待し楽しみにしている。それを今潰しておきたい。

 あの姉妹が『石女』になれば、少しは自分が発した言葉の意味も重さも理解するだろうからな」


「ヒィッ」


「また第三王子と婚約解消して一年も経つのにまだあの姉妹はメイアに取り憑いていた。不在の学園や社交界で悪評を流すほどの粘着だ。ここでちゃんと断ち切らなければ後々の火種となるだろう」


 王妃はなんの権限もないのに自分の采配でいろんな貴族の当主を入れ換えてきた。婚約中から後継者であるメイアの嫁ぎ先しかり、サロンメンバーの婚約しかり。

 ブランツ公爵家も当主代理を差し置いて好き勝手していたことを指摘され母上は唇を噛み締めた。


 すべて王妃にあって当然の権限だと思っていたものだった。ただしそれが国全体を考えたものではなく『わたくしの国』に相応しい姿にするために、だった。


「このまま放置し、あの姉妹に子供ができれば……それが王族に近い色なら誰の子であってもこの豚はこう言うだろう。

『これは正当な王族の子。王位継承権がある』

 とな。第三王子の部屋の近くに作ったという姉妹専用の部屋とやらもカモフラージュで第一、第二王子の寝室に忍び込むための中継地なのだろう?」


 お盛んなことだ、と嘲笑うジュリアスディーンにカイゼルは驚き兄達を見れば憎しみを込めた目で母上を睨みつけその通りだと返した。

 そんな。ドゥーパント姉妹は俺だけではなく兄達もまだ狙っていたのか?いや、今は結婚したからさすがに…。


「私には『結婚したから愛妾にしてほしい』とまだ妃に子が生まれていないのに明け透けに誘ってきました」

「私の場合は姫がまだあちらの国にいるということで『お慰めしたい』と私の寝室のベッドに侵入しておりました」


 どちらも母上の手引きで侵入したとのことで兄達から抗議を受けたそうだ。そんなの俺だってドン引きする。


 ますますドゥーパント姉妹が節操のない阿婆擦れに見えてしまう。それで兄達がダメだったらカイゼルでもいいというわけなのだ。気持ち悪すぎる。


「第三王子とも婚約できなかったというのに、結婚をしても王子達に取り憑き王位継承権を持つ子を生もうと画策している。これはもう子供の戯言ではすまされない。

 ドゥーパント家はブランツ家を巻き込み王位簒奪を狙っていると私なら捉えるだろう」


 そんな者達を放置しておけば必ず諍いが起きるだろう。子供の代、孫の代で血で血を洗う内乱を起こさせたいのか?二十年前に起こったという暗殺の横行を再び見たいのか?

 兄上達もジュリアスディーンと一緒になって訴えれば父上は母上を見て肩を落とした。


 王妃側の貴族から擁護する声は上がったが『なかったこと』にした際に接近禁止の他にもドゥーパント家はメイアの話題を出すこと自体が禁止されていたことが告げられた。


 これは良い話も悪い話も含まれていて、メイアが在学中は名前を出さず、けれどもメイアだとわかるように姉妹がサロンを誘導し悪評を流していた。

 在学中はそれで逃れられたが、卒業後は婚約解消したのだからもう関係ないとメイアの名前を出して悪評を広め、先程のパーティーでは交わした約束を悉く破ったため擁護する声はすべて無視された。



 結果、ドゥーパント姉妹はどちらも廃嫡(妹は夫が後継者)、生涯それぞれの領地に封じられ、離縁も愛人恋人も許されず、子ができないように不妊手術が施されることとなった。


 また暗殺未遂から更正が見られず悪化していたこと。王位簒奪を目論んでいたとしてドゥーパント伯爵家、センダース侯爵家はひとつずつ、ブランツ公爵家はふたつ降爵を言い渡された。

 ヘンダーソン侯爵への慰謝料は暗殺未遂の時に落とされた差額と合わせて三家と王家から支払われることとなった。


 またドゥーパント家は父方の親戚筋で経営に明るい者がつくとし、現ドゥーパント子爵は引き継ぎが終わり次第幽閉。

 夫人も教育不十分、犯罪幇助、国家転覆罪、未遂事件で特に反省もなくヘンダーソン侯爵家への態度を改めなかったとして貴族籍の抹消、娼館落ちとなった。


 娼館で働くよう命じられたのは母娘で作った借金がかなりの額だったためである。すべて返済できれば解放されるが二十年は固い金額だ。

 ちなみに娼婦のお勤めの最長年数は五、六年が平均なので年増の夫人が二十年も働き続けるのは困難だろう。


 それは誰もがわかっていたが使い潰すことが前提なので、途中で使い物にならなくなった場合は残りをブランツ家とドゥーパント家が支払うよう命じられた。


 夫人にも不妊手術が施されることが決まり、誠心誠意民草に奉仕するようにと本人不在のまま告げられた。


 それを聞いた母上は「なんて惨いことを。どの家も国を支えてきた名家なのに。せめて話し合いにして意見をあおぐべき」と嘆きさめざめと泣いたが、誰も同意しなかった。






読んでいただきありがとうございます。


手直ししたら長くなったのでふたつに割りました。

多少厚みというかネチネチが増えただけなので大筋は変わっておりません。

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