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(20) 王子は人の心がわからない / カイゼル視点 3

 


「そしてメイアが留学した後も社交界で幅を利かせている貴族達にドゥーパント家はメイアの悪評を流していたようです。

 娘が社交界に出てきたら恥をかくように仕向けたかったのでしょう。勿論サロンメンバーも率先して学園の生徒達にヘンダーソン家、ピンデッド侯爵家、チェスター伯爵家の悪評を流していました」


 聞き覚えのある家名が出てきて驚いたがそれよりもサロンメンバーの所業にまた目眩がした。嘘、だろう?

 見たくないのに羅列された悪評の書類を手渡され、その厚さと醜悪さに破り捨てたくなった。どう考えても助かる術はないじゃないか。


 悪評くらいで厳罰に直結することはほとんどないが相手が悪すぎる。学園でも平等が許されるのは学業に関することまでで、それ以外は差別であり下位が上位を貶すなど自殺行為に等しい。

 普通に処罰されるということをあいつらは知らなかったのか??


 それに期間も最悪だ。メイアが在学中ということは俺と婚約している頃だ。王子の婚約者に対して、しかも俺はメイアに好意を示してきたのに悪評を流すなんて王家に不満ありと言っているようなものじゃないか。


 あのバカ共め。サロンで何を話してきたんだ!いくら俺をヘンダーソン侯爵家当主にしたいからと言ってもこれはやりすぎだ!


「聞けば彼らの無礼な行動も第三王子の友人だからと注意もされず罰せられることもなかったそうではないか。子供だから、学生だからと見逃してきた結果がこれだ。

 国王よ、先程の裁定は本当に正しいのか?それとも第三王子が言うように無罪とするのか?」


 カイゼルはしまった、と思った。

 悪意があったのは令嬢ら()()だが、サロンメンバーということで甘やかし過ぎてしまった。しかもあいつらのせいで俺のメイアの評価が最悪にまで落ちてしまった。

 しかも今更撤回もできない。全部あいつらのせいで!なんてことだ!!


 愚かなことをしたのは令嬢…今は夫人達だけだろうが、結婚してしまったせいでカイゼルと仲が良かった令息達までもが連座になってしまう可能性がある。

 いっそのこと離縁させたら男達だけでも助けられないだろうか。そんな愚かなことを考えた。


 ジュリアスディーンの言うように学園内だけなら社交界に出る前の勉強として()()()()流せるだろう。使える彼らが卒業してまでそんな愚かなことをするわけがない。

 一抹の望みだったが彼らを信じて進言すれば残念なものを見るような目で見られた。


 卒業した令息令嬢達が初めて参加する王家主催の晩餐会が先日行われたのだが、そこでサロンメンバーである令息令嬢どちらも悪し様にメイアを貶す噂をばら蒔いていたことが宰相の口から報告された。


 今日のパーティーでは参加資格のない家格の者達が堂々と道の真ん中を歩き、


『我々はカイゼル殿下と懇意にしているサロンメンバーだ。近々伯爵もしくは侯爵、なんなら公爵に陞爵する予定の者達ばかりだ。逆らうとためにならないぞ』

『この招待状では入れない?封蝋に王家の印があるのだからなにも問題ないはずだ!』

『カイゼル()下を支える次期大臣である我々にそんな紙切れなど必要ないだろう?

 通さぬというならカイゼル()下に報告するぞ?そうなればお前達は降格どころか首と胴体が離れるかもしれないな!ははははっ!』


 と警備兵や見知りの貴族に豪語していたと聞かされカイゼルは頭を抱えた。

 王家の封蝋はいくつか種類があり、国王が押すシーリングスタンプは模様が繊細で大きな鳥がモチーフになっている。母上のは薔薇だ。そんなの知っていて当然のことだろう?!

 それに公式の招待状は紙も上質でまわりは刺繍や透かしで彩られた豪華な逸品になっている。そんなの常識だろう?!なんで知らないんだ?!


 その上なんだ陞爵するから入れろって!バカなのか?!俺の国に必要な人材だがルールを曲げてまで招待などしないぞ!!


 愚か過ぎるサロンメンバー達に俺は招待していないと必死に言い繕えばすぐに信用してもらえた。

 下位のサロンメンバーに招待状を送ったのは母上についている女官で、申請したのはドゥーパント姉妹、監視役にゲイルが指名されていたらしい。

 だからカイゼルに直接的な責任はないがサロンメンバーの発言内容は断じて許されるものではなく、カイゼルはただただ震えた。初めて見る兄達の睨みの強さに命の危険を感じた。


 父上も俺のことを苦々しく睨み、宰相や裁判官と話してからジュリアスディーンとヘンダーソン侯爵、そしてメイアに向かって告げた。


 裁定は変わらず家を継いだ者は廃嫡、罰金刑となった。本来なら処刑されてもおかしくなかったがジュリアスディーンから恩赦を与えられたことで命だけは助かった。

 しかし国家転覆を画策、外交問題に加担したことは重いとして下位貴族のメンバーは舌を切り落とされ、夫婦共々生涯領地に封じられた。

 伯爵位以上の者達も喉を潰したのち五年間領地に封じられ、社交界には十年出入りが禁止されることとなった。


 カイゼルは翼を折られたような絶望感を味わった。

 折角高め合える仲間ができたのに。

 下位でも才能があれば重用して取り立てようと思っていたのに。

 五年以上も政治から離れてしまったら話についてこれなくなるじゃないか。


 彼らはもう終わりだ。メイアにしたことは許されないが、戦友をなくしたような喪失感に泣きそうになってしまった。


 しかもあいつらは別件で婚約破棄をしていてサロンメンバー内で婚約を組み直していた。その結婚に不服ありと相手の元婚約者達から集団訴訟を起こされたらしい。


 婚約は破棄したが共同事業は続けろとサロンメンバーに有利な書類にサインさせたり爵位で圧力をかけ破棄を受け入れさせたりした。

 それを母上やドゥーパント伯爵家が後押ししていたというのだから頭が痛い。


 ダメ元で離縁させて噂をばら蒔いた諸悪の根元の女性達だけ罰せばいいのでは?と進言してみたが兄達に書類をよく読めと睨まれた。

 そこには率先して悪評を流していたのは令嬢達だけではなく令息達もで、侯爵家を叩けるとあって喜び勇んで話していたという記述と、その悪評となった酷い言葉の羅列が記載されていた。


 それはまるでカイゼルのことも見下してるように見えてしまい、血の気が引くと同時に手が震えた。


 なんだこれ。これをあいつらが言っていたのか?爵位も忘れて呼び捨てにしてまでメイアを罵っていたのか?第三王子の婚約者と知っていて?俺がメイアに好意を持っていると知っていて??


 中にはカイゼルがメイアを悪く言っていたと取られるような言い回しの悪口に、怒りがわくと共にあいつらを助けるのはもうやめた、と思った。


 下位貴族がここまでして助かるなんてありえない。俺の法律なら絶対に処刑していた。命があるだけでも奇跡だろう。

 メイアも悔しいと思っているかもしれない。きっとそうだ。恩赦を与えたことでジュリアスディーンは嫌われればいい。

 あいつが嫌われれば俺にも可能性があるんだ。メイアは俺を好きなんだからジュリアスディーンとなんて離縁してしまえばいい。



「では次にドゥーパント伯爵家の姉妹についてですが」

「待ちなさい!あの子達は本来なら公爵令嬢なのよ?!もっと敬った態度をしめしなさい!あの子達は何もしていな」

「今は伯爵家だ。しかもインジュード公爵夫人を毒殺しようとした罪で余が降爵させた。余が決めたことをそなたは気に入らぬと申すのか?」


「くっ……で、ですが!わたくしの姪ですわ!ならば情状酌量の余地があるはず、」

「母上。それを言うならメイアは俺の婚約者です。王子の婚約者を暗殺しようとしたらどうなるか、母上ならおわかりになるはずだ」

「カイゼル?!あなたまでなんてことを言うの?!」


 父上と俺に詰め寄られて母上は悲鳴混じりに叫んだ。勝手に婚約解消のサインをしておいて、暗殺しようとしたことも黙っていて、まだ俺が味方でいると思いますか?


 俺は怒っているんだ、と睨みつければ母上は崩れ落ちおいおいと泣き出した。


 もしかして言い過ぎたかも、と良心が痛んだがあまりの声の大きさに耳を塞ぎたくなった。

 貴族夫人はこんな大声で泣くものなのか?と思ったが単に場を荒らして邪魔をしたかっただけらしい。


 強面のインサルスティマ王国の騎士がダン!と大きく足を踏み鳴らすと母上の大声はピタリと止まり、無理矢理ソファに座らせられたのに涙の跡は一切なかった。



「もうドゥーパント家なんていらないんじゃないか?王子の婚約者を暗殺しようとした上に学園での悪行の数々、そして命令を破って国賓がいるパーティーに潜入した。

 それに飽き足らず私達に無礼を働いた。それだけで死罪確定ではないか」


「なっ何を言っているの?!ドゥーパント公爵家は長年国を支えてきた由緒ある家柄なのよ?!そして王妃を輩出したブランツ公爵家の血縁でもあるわ!そんな高明な家を他国ごときに命令される謂れはなくてよ!!」


「だったらそのブランツ家とかいうやつもいらないな。王妃を輩出したというが貴族を私物化し自分の都合のいいように振り回しているだけじゃないか。

 告知前でも国王の息子の婚約者を亡き者にするため手助けをしたのだ。たとえ未遂でも連座で処刑されるのは当然だぞ。それとも君達は準王族よりも公爵家の方が権利は上だと言うのかな?」


 指摘され王妃側の貴族達がハッとした顔になった。


 母である『王妃』の言葉には絶対に従わなくてはならない、という刷り込みがあったが、王妃の親戚であり公爵だからドゥーパント家にも従わなくてはならない、という思い込みがあった。


 だがドゥーパント家は王妃の親戚なだけで王家ではない。王妃を輩出したブランツ公爵家でもない。それなのに伯爵に落ちてからも公爵家のように敬わなければならなかった。

 だがそれも国王以上に従う必要などなかった。ましてや国賓であるインジュード公爵夫妻よりも優先する理由がまったくなかった。


 それに気づかされ王妃側の貴族達は崩れるように膝をついた。


 傘下の貴族達が悉く心を折られたのを見た王妃は焦った。このままではドゥーパント姉妹が化物貴族に汚されてしまうと。

 もしかしたらブランツ公爵家にも影響があるかもしれない。


 そんなの絶対に許さないと奮い立った母上はブランツ公爵代理の兄…カイゼルにとっては伯父を指名した。彼になんとしてもこの場を切り抜けろ。姉妹を救えと命令した。


 のっそり出てきたのは陰湿そうでいつも不機嫌顔のブランツ公爵令息で、ああはなりたくないと思っていた親戚だった。

 昔から苦手でほとんど話したことがなかったが母上と仲が悪いので接触しなくても問題なかった。


 数年前から体調を崩し領地で療養している祖父の代わりに来た伯父は母上の意に反してドゥーパント家なんてどうでもいい。降爵でも死刑でも好きにしてくれと投げやりに答えた。

 その言葉に母上は激怒。伯父としての労る心も公爵代理としての矜持もないのか!と責め立てた。



「ええ。なにぶん私はうだつの上がらない役立たずなもので。父が死んでも家督を継げない穀潰しでして、矜持なんてものは持ち合わせておりません」


 へらりと口は嗤ったが目はどす黒く闇に満ちていて、カイゼルは恐ろしくて直視することがほとんどできなかった。

 ドゥーパント伯爵を呼びたかったが彼は国王の命に従い領地に戻っている。夫人は姉妹を守るから離れないと要請に応じようとせずここにはいない。


 カイゼルは知らないが毒殺未遂で降爵された時ドゥーパント伯爵は髪を真っ白くさせるほどショックを受けそれまで前向きだった性格が一変して夫人や娘達の傀儡になっていた。

 傀儡だが国王の言葉は絶対だったので自分は領地に帰ったが、女性陣に関しては特に引き留めることもなく放置している。



 手札がなくなった王妃は悔しそうに顔を歪めた。


 逆に上機嫌になったのは父上だ。彼は手摺をポンと叩き声に出して笑うと伯父に先程の言葉に相違ないかと問い、ないと返した。

 それに母上が噛みつこうとしたが父上に手で制された。


「そうかそうか。ブランツ家はまだ代替わりしていなかったな。早ければいいというわけではないが遅すぎてもスヴォラ殿の力を発揮できる機会が失われてしまう。

 ブランツ公爵も老齢だ。いい加減息子に跡を継がせて肩の荷を下ろした方がよかろう」


「お待ちください陛下!兄はまだ爵位を継ぐに相応しい者になっておりません!」

「…そなたよりも年上だというのにまだ爵位を継ぐに相応しくないのか?」

「まだ早いと、お父様が……」


「スヴォラ殿は余と同期だ。成績も優秀で代理で務めている領地もうまく回していると聞いている。

 本来なら彼はとっくに爵位を継ぎ、結婚してカイゼルと同じ年頃の子がいてもおかしくない年齢なのだぞ?

 それをブランツ公爵の一存で飼い殺すかのように独身のまま領地を駆けずり回らされて……実の妹として兄が不憫だとは思わなかったのか?それでも血の繋がった兄妹か?」


 伯父が結婚しなかったのは気位が高く選り好みしていたため婚期を逃したのだと母上が嘲笑混じりに話していたが、よくよく考えれば伯父が選り好みしても祖父上が強制して結婚させればすむ話だった。


 ブランツ公爵は自分の権力を維持するために自分の息子すら容赦なく冷遇していて、王妃となったカイゼルの母親をとても可愛がったのだ。

 その歪な愛情で伯父はブランツ公爵家がどうなろうとどうでもいい、と投げやりになっていた。


 可愛がられてきた王妃はブランツ家を守りたかったが公爵代理の方が効力が強く、国王は隠しきれずにニヤリと嗤った。



読んでいただきありがとうございます。

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