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(2) 経緯

 ◇◇◇



 メイア・ヘンダーソンは侯爵家の一人娘だった。両親に愛され、使用人や友人達とも良好な関係を築いてきた。交遊関係も幅広く貴賤問わず接する優しさに誰もが惹かれ人気も高かった。


 そんなメイアの婚約は誰もが注目する大きなイベントだった。両親は政略結婚だが恋愛結婚と言っても過言ではないほど仲睦まじく、メイアは両親のような結婚に憧れた。


 両親は娘のために家格は気にしなくていいと自由にさせている。婿を迎えるとあってメイアとの相性と能力を重視してくれていた。

 可憐で美しい令嬢を射止めようと令息達は鼻息を荒くし、我先にと争った。


 送られてきた釣書の相手と代わる代わるお見合いをし、学園にあがる前にとうとうメイアが婚約に至った。


 お相手はこの国の第三王子であるカイゼル殿下だった。

 メイアとは年代が近くカイゼル殿下が『結婚するならメイアがいい』と零したのが決め手だった。


 賢王と謳われた国王に文武両道で人格も素晴らしいと噂の第一王子、語学が堪能で文学に秀でている第二王子、そんな優秀な彼らの弟であるカイゼル第三王子は兄二人よりも才能があり天才だと言われてきた。


 見目も天使が降り立ったかのような愛らしさで王宮の者達を魅了し、成人した暁には国内の女性を虜にする美貌を持つ男性に育つだろうと周りの期待も大きかった。


 そんな完璧な王子とでは他など月とすっぽん。たとえできレースでも文句を言う者はなく、メイアと第三王子との婚約は大勢の人々が祝福した。


 メイアもカイゼルと結婚できる日を楽しみに一日一日を大切に過ごしてきた。

 侯爵家の跡取りとしては勿論のこと、カイゼルに見合う淑女になるべく己を磨き難易度の高い王子妃教育にも望み、忙しい学生時代を謳歌した。



 一方でカイゼルは道半ばでミスを犯してしまった。うっかり友人の女子生徒とたまたま二人きりで、しかも人の目が少ない自習室で一緒に勉強をしてしまったのだ。


 カイゼルの言い分はその勉強はほんの十分程度のことで、その前後は側近や友人の男子生徒も一緒だったという。

 その一回のミスでメイアは激怒しカイゼルとの交流の一切を拒否した。そんなことくらいで絶交するほど怒るとは思わず当時のカイゼルは困惑した。


 弁解しようにも交流を断ったメイアとまったく会えない。人を使っても会えず邸に行っても会わせてもらえなかった。これでは婚約解消したのも同じである。


 慌てたカイゼルは手紙を送り必死に弁解した。あの日二人きりになってしまった彼女はただの友人で、俺の唯一はメイアだけだと何度も送り続けた。


 そして愛する人のためにカイゼルは名誉挽回しようと努力を重ねた。聖堂前の広場での宣言はこの時期にあたる。


 天才には必要なかった復習や試験勉強を見える場所でするようになり、通常授業も今まで以上に真剣に取り組むようになった。


 剣の鍛練も前以上に頑張り、剣術大会も初出場で当然のように優勝をかっさらった。日頃本気にならず怠惰に過ごしてきたのはやる気を出してしまえば簡単にトップを総ナメにしてしまうからだ。


 そんなことをして他の生徒達が『何をやってもカイゼル王子には敵わない』とやる気をなくしてしまったら今後に関わる。

 中途半端でもカイゼルの能力の高さがバレてしまうため、極力力を示さず必要最低限にとどめ他者に気を遣っていたのだ。



 メイアだからこそカイゼルはわかってくれているものと思っていた。王族としての悩み、天才としての苦悩を幾度となく話し頷いてくれていたから理解しているのだと信じていた。


 だがこうなってみてメイアも自分とは違う『普通の人間』だったのだと知り寂しく笑った。


 それからも側近達や学友達と意見交換の場を設け精力的に国の未来を話し合った。天才と謳われたカイゼルの才能は今も陰ることなく更に鋭さと輝きを増したと誰もが尊敬の眼差しを送った。


 周りから臣下に降りてしまうなんてもったいない、と囁かれたがその度にカイゼルは『兄上達を支えていきたい』と言って臣下として支える姿勢を崩さなかった。


 そしてミスをし、メイアに宣言してから毎日欠かさず花束を送り続けた。メイアが好きだと言っていた花はなかなか手に入り難かったが伝手を使い、切らさぬように王宮の庭園でも育てるようになった。


 メッセージカードには、『約束の日まであと二ヶ月だ。俺には君しかいない』、『メイアが好きな花を見て君を想う』、『愛している。君も同じ気持ちになってくれる日が来ることを願う』と添えた。


 献身的に尽くし一途にメイアを想い続けるカイゼルに学友達は感動の涙を流した。

 話を聞いた女子生徒達は『カイゼル様にこんなにも愛されてるなんて……メイア様が羨ましいわ』とうっとり溜め息を零した。


 あの日カイゼルが犯した()()()()()()()は若気の至りなのだと誰もが思うようになった。

 カイゼルと結婚すればメイアは必ず幸せになれると、理想のおしどり夫婦になると誰もが羨み結婚する二人を祝福した。


『おいおい、気が早くないか?祝ってくれるのは嬉しいがメイアには秘密にしておいてくれよ。

 ヘンダーソン侯爵には認めてられているが、誰もが認める立派な俺になって改めてメイアにプロポーズしたいんだ』


 もう十分なほど認められているカイゼルはメイアのために更に頑張ると意気込み、研鑽を重ねていった。







読んでいただきありがとうございます。

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