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(18) 王子は人の心がわからない / カイゼル視点 1

 


 今日はずっと混乱しっぱなしだった。

 メイアが毒殺されかけたなんてまったく知らなかったし、真実の確認を母上にしようとしたら先程の騒動の責任を俺のサロンメンバーが取ることになってしまい慌てた。


 彼らは何もしていなかったのに。それなのに罰せられるなんて酷すぎる。

 終わったら母上に陳情して彼らを無罪か罪を軽くしてもらわないと俺の未来に関わる。彼らは『俺が作る国』に必要な人材なのだ。


 だというのに裁定が終わらない。

 ジュリアスディーンがしゃしゃり出てきてズルズルと引き伸ばされる。こっちは友人の名誉がかかっているというのに!


 お茶会くらいいいじゃないか。父上にそこまで言われて逆らうほど母上だって我が儘じゃない。ただちょっと感情が豊か過ぎるだけだ。


 あんな痴態を晒したドゥーパント姉妹を呼ぶのはどうかと思うが王宮なら大人しくするだろう。

 だというのにジュリアスディーンが身勝手にも父上の言葉を拒否しメイアを差し出さなかった。


 メイアが茶会に出れば俺も同席して一緒に話せたかもしれないのに。

 そこでドゥーパント姉妹に謝罪をさせれば俺の株が上がり、ずっとメイアを愛しているのだと説明すれば俺の素晴らしさを思い出してくれるはずなんだ。

 ジュリアスディーンみたいな年の離れたおっさんよりも俺の方がずっとずっとメイアにお似合いの夫婦になれたのに!


 そんなことをぐるぐると考えていたらジュリアスディーンと父上がサロンメンバーの話をしだしたので我に返った。



「待ってください。彼らは俺のサロンメンバーです。先程の裁定を不当とし再考をお願いします。ただあそこにいただけなのに廃嫡なんて酷すぎます」

「カ、カイゼル?!何をいうの?!リリィちゃんやレッタちゃんがどうなってもいいの?!」

「俺の大切な友人達です。自分のしでかしたことを擦り付けるなんて母上らしくありませんよ。ちゃんと謝ればいいだけなんですからそれくらいしてください」


 次兄が『自分は謝らないのに王妃殿下には謝らせるのか?!王妃だぞ?!』みたいな顔をしたが俺の友人達に罪を擦り付けているのだから当然だろう?と見返した。


 それに言い方は悪いがなんでも話し合える令息達と違ってドゥーパント姉妹はただ頷くだけで役に立つ意見を言わないし、見ていないところではつまらなそうに欠伸をしたり髪や爪を弄ったり表情まで繕わなくなるのだ。


 悪い者達ではないと思っていたがさっきの話を聞いて俺のサロンにはもう必要ないと思った。


 まさか俺がそんなことを言うと思っていなかった母上はショックを受けた顔で泣き出した。


「あの子達はあなたにあんなに尽くしてきたのに」と言っていたが俺を想っているなら婚約者のメイアを毒殺しようなんてしなかったし、ジュリアスディーンの前でインサルスティマ王国を貶すなんてこともしなかったはずだ。


 俺はジュリアスディーンを尊敬していたんだ。今はメイアのことで格下げられたが政治手腕は見事だった。それを真似て『俺の国』でもできないかとサロンで話し合ってきたんだ。


 サロンに常にいたドゥーパント姉妹がそれを忘れるなんてありえない。

 それを忘れてジュリアスディーンを貶したというならそれは俺の言った言葉を聞いていなかったということだ。俺に逆らったということだ。

 そんな女なんてこっちから願い下げだ。


「あの姉妹はメイアに酷いことをしてきました。さっきのことだってそうだ。それを庇うのは俺の友人達ではありません。彼女達自身に罪を償わせるべきです」

「カイゼル……あなたはなんてことを!あの子達はあなたの伴侶になるべき」

「俺が伴侶にすると決めた相手はメイアだけです」


 さめざめと泣くが知ったことではない。母上が俺よりもあんな奴らを優先してメイアを亡き者にしようとしてしかも隠蔽したのが悪かったんだ。

 それに婚約解消したのも俺は納得していない。それなのにサインした母上を俺は許してないのだ。


「確かに今日の件だけで廃嫡、罰金刑は少々重いかもしれないな」

「でしょう?ですから彼らは無罪かもっと軽い刑に……」

「なら、学園時代の罪も追加して帳尻を合わせるのはどうかな?」


 は?何を言っているんだ?学園時代の罪??なんの話だ?


「おや知らないのかい?彼らはドゥーパント姉妹に同情してメイアの悪評を広めていたんだよ?」

「は?ま、まさか…」


 そんなはずない。メイアの悪評なんて聞いたことなかったぞ?!だというのに誰もが同意してくれず顔を背けた。どういうことだ?


 困惑していると「君には最初から説明しないといけないみたいだな」ジュリアスディーンが嘲笑を浮かべメイアを後ろに下げた。

 不快な話だから聞かなくていいと俺や母上達と目が合わないようにジュリアスディーンの背後に隠されその周りを騎士達が取り囲みスカートしか見えなくなってしまった。



 説明を始めたのは分厚い書類を持った宰相だった。ヘンダーソン侯爵が調べ上げた調査書らしい。

 そこで語られたことはとてつもなく陰惨で恐ろしい話だった。


 ドゥーパント家の夫人と姉妹はずっと前から王子妃の席を狙っていた。それを王妃であるカイゼルの母親が手伝ったことで悲劇が起こった。


 最初の衝撃はドゥーパント姉妹の年齢だった。

 年齢的には姉のリリローヌが第一王子、妹のエネレッタが第二王子と釣り合うというのだ。

 勢力バランスの関係で第一、第二王子の婚約者選抜で振り落とされた。ここでも母上が口を出し圧力をかけてきたが父上に直々にお叱りを受け、渋々諦めた。


 しかしその件のせいでカイゼルの婚約者になることが姉妹の最大目標になってしまった。


 カイゼルの妻の席に収まるためにドゥーパント姉妹は年齢を詐称し学園に再入園することになったのだ。


 事情を知らない側からしたら成績が悪かったとか教育のし直しとかいらぬ醜聞が広がるはずだったが、王妃やドゥーパント公爵家、ブランツ公爵家が目を光らせたお陰でほとんど噂にならなかったらしい。


 そこで姉妹が妙に()()()()()なと思った理由を初めて知った。長兄とは五歳、次兄とは三歳離れている。

 だからそんな感想を持ったのかと理解した。そして正直ないな、と思った。


 別に結婚する相手の年齢にこだわりはなかったが、騙されてまで相手に好意を抱くほど彼女達を愛せるとは思えない。

 だってあの二人は結婚する直前か死ぬその時まできっと本当の年齢のことを言わなかっただろう。それがなんだか裏切られてるみたいで嫌だと思った。


 更には姪が可愛い王妃が姉妹のためにカイゼルと接触する機会を増やし、他の候補者を邪険に扱うことで数を減らしていった。


 カイゼルはそれに気づけなかったが聞いて母上の所業に引いた。

 自分には自由にして気に入った令嬢と婚約すればいいと言っていたのに母上の中ではすでに相手が決まっていて、出来レースさせられていたのだ。


 子供の頃ならともかく今の自分が聞かされると子供扱い(バカに)されているようにしか見えなくて思わず顔をしかめた。


 三兄弟の中でカイゼルは一番王妃に懐いていたが自己主張も我の強さもカイゼルが一番強かった。

 これは王妃に甘やかされて育てられてきたためであり、思春期によくある母親に干渉されたくないという感情と相まって王妃の行動をより不快に感じた。


 ちなみに想像力があれば王妃に邪険に扱われた家が伯爵家以上でそれなりに権力を持っていて、野心もそこそこあることに気づけただろう。


 過剰な野心なら潰されるが王妃の許容範囲なら婚約者候補の候補として名前を売ることができ、カイゼルは自分だけを支えてくれる臣下に出会えていたかもしれない。


 しかしカイゼルは王妃が用意した心地よい言葉をくれる者しか置かず、臣下達に自分は王妃の傀儡だと知らしめ聡い者には王位簒奪の兆しありと看破され縁を切られていた。

 本人が知らぬうちに選択できるカードを自ら捨てていたのである。



「途中まではうまくいっていましたが肝心のカイゼル殿下がドゥーパント姉妹のどちらかではなく、候補者にも上がっていなかったインジュード公爵夫人……いえ、ここではヘンダーソン侯爵令嬢ですね。

 彼女に一目惚れをしてしまい計画が狂ってしまった。

 王妃様やドゥーパント家はヘンダーソン家がカイゼル殿下に何かしたのでは?と裁判を起こそうとしたという記述があります」


「そんなことないわ。わたくしはちゃんと喜びましたよ。ねぇ、カイゼル?」

「え、えぇ……」


 表情を気取られないように扇子で隠し、少し圧を込めて同意を求めてきた母上に反射的に頷いたものの、自分の行動にも不快感を感じ、思い出したことにも混乱した。


 学園に上がる前。伯爵以上の令息令嬢を集めたお茶会を催したのだが、そこにメイアも来ていたのだ。


 名目は学園に上がるカイゼルの友人と側近を決めるものだったのだが学友の顔見せの会でもあった。そこでカイゼルはメイアと出逢い一目惚れをした。


 ふわふわとした髪の毛もヒラヒラとしたスカートもとても可憐で微笑んだ笑顔が暖かい春の日差しのようにカイゼルを照らしたのだ。

 挨拶だけでは足りず、もっと知りたいと思うのは当然のことだった。


 一番に母上にそのことを報告した時のことは今でも覚えてる。

 心も体もポカポカした温かさだったのがいきなり冷水を浴びせられたような、冬になってしまったような凍てつく空気に全身が凍ったこと。

 母上の目が鋭くつり上がり、後で何度も何度も何度も『ドゥーパント姉妹のどちらかではなくあのヘンダーソン侯爵令嬢でいいのか?』と聞かれたことを思い出した。


 その時のカイゼルは王妃に睨まれた衝撃よりもメイアとの出逢いの方が大きく、睨まれたのも一瞬だけだったのでコロリと忘れていた。

 もしくはあの恐ろしい目を自分に向けられたと思いたくなくて意図的に記憶から消去していた。


 あの時にちゃんと対処をしていればメイアが毒殺未遂されることもメイアとの関係に溝ができることもなかったが、王妃が大好きだったカイゼルが気づくことはなかった。


 そして今になって王妃があの時からメイアを目の敵にしていたのだと知った。だからメイアとの婚約解消の時もカイゼルに確認もせず勝手に承認してサインもしたのだ。


 さらにはさっきのパーティーでメイアではなくドゥーパント姉妹の肩を持ち、逆に辱めようと詰った。


 ドゥーパント姉妹を助けるためだとしても王妃としてはやってはいけないことだった。だってメイアはもうインサルスティマ王国の公爵夫人なのだ。


 そう考えて胸が締め付けられるように痛くなる。俺はメイアが本当に好きだったんだ。いや、今も愛している。


 なのになんでこんな目に遭わなくてはならないんだ。

 俺はただメイアと結婚したかっただけなのに。


 純粋にメイアを想うカイゼルの想いを踏みにじるかのように王妃は行動を起こしていた。



 王妃はドゥーパント家と共謀してメイアを婚約者から引きずりおろす計画を練り実行したのだ。

 たとえメイアを殺しても王妃が揉み消すと約束したという手紙が出された時は体が凍ったように芯から冷えた。なんてことを、と母上を睨んだが頭しか見えなかった。


 母上が言っていた実行犯の侍女もメイアとはなんの因縁も怨恨もなく、元はただの平民で事情も知らないまま利用されたらしい。


 しかもその侍女はお茶会の前日までメイドだった。そのメイドの立場も一週間前にブランツ家からの紹介で連れてこられただけだったという。


 公爵家の使用人は防犯上の理由で紹介状と、貴族身分かある程度のマナーが必要とされる。その平民はどちらもなく紹介状すら口頭のみで物的証拠となる書類もなかったようだ。


 本来ならそれで公爵家に入れるわけないのだが無知な新人を利用することでメイア殺し容疑を容易に擦りつけられると思って雇ったのだろう。

 お茶会でも緊張で付け焼き刃の給仕をしてメイアに粗相をしていたのかもしれない。それをあの姉妹は笑っていたのだろう。


 自分達が招待した茶会で嫌いな相手に嫌がらせする方法を彼女達はよくサロンで武勇伝のように語っていた。

 それが仲良くなる通過儀礼なのだとか言っていたが毒殺することが仲良くなれる通過儀礼と思っているならそれは傲慢な話だろう。

 死人に口無しなのだからいくらでも言える。そう考え背筋が震えた。姉妹の知能はすべて胸に吸収されたのだろう。乳だけは大きかったからな。






読んでいただきありがとうございます。

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