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(15) 裁定は独断と偏見で決められました

(報告)14話の内容を弄ったらニュアンスが多少変わりました。

 


 準備ができたというので案内のもと別室に入ると、国王を含めた錚々たるメンバーが集結していた。


 舞踏会場よりは手狭だが声は届きやすい部屋だ。壁には歴代の王様の肖像画が飾られ、内装は落ち着いたデザインになっている。


 この部屋は国王や重鎮が集まり会議をする間だった。天井が他の部屋よりも高いのは人が多くても息苦しくならないように。女神様が描かれた天井画は冷静さとこの国の民であることを忘れないために。


 謁見の間ほど豪奢ではないが玉座がありそこに国王陛下が座り、少し離れた場所に用意されたソファには王妃が座る。

 王子達は先程と同じように国王の斜め後ろに第一王子、その隣に第二王子、顔色の悪い第三王子は王妃の後ろについていた。


 国王の近くには宰相と枢機卿、裁判官が並び、両側の壁際には召集された貴族が並んだ。


 メイア達は王妃がいる反対側に並び、近くには父のヘンダーソン侯爵も立っている。王妃側に多く貴族が並んでいるのはご愛嬌だ。



「これよりインサルスティマ王国王弟インジュード公爵、及びインジュード公爵夫人に無礼を働いた者達の裁定を行う」


 どうやら先程の騒ぎでわたくし達を不快にした者達を裁くらしい。その割には王妃は余裕の顔で扇子を開いているが。どういうつもりかしら、と聞いているとドアが開いた。


 入ってきた者達は先程見た顔だった。彼らは誰もが動揺を隠せず目を泳がせ怯えている。まるでここに連れてこられた理由を理解できていないみたいだ。


 裁判官が淡々と罪状を述べ国王が承認し彼らの親である貴族が頭を下げ、若い夫婦を部屋の外へと連れ出す。

 部屋を出るところで何かわかった者が必死の形相で助けを求めた。しかしカイゼルは下を向いたまま彼らを見ようともしない。


 嘆きは罵声に変わり、女性は悲鳴に変わって部屋を閉め出された。


 審議はすでに終わっているのか拘束された若い貴族達がどんなに騒いでも決定は覆らず、それを何回か繰り返し七組十四名ほど裁定が下された。


「これにて裁定を終わります。この度はご不快な想いをさせてしまい申し訳ありませんでした」


 宰相がこちらに向かって頭を下げると王妃側の貴族達も倣って頭を下げた。随分と手の込んだ茶番ね。ジュリアス様もそう思ったのかとてもつまらなそうな顔で国王を見遣った。


「さしずめ彼らを生け贄にして自分達の罪を帳消しにしてもらおうという判断かな?国王にしては随分稚拙なことをするじゃないか。誰の入れ知恵かな?」


 笑みは浮かべているが心の中まで見透かす強い瞳に国王はビクリと動揺して王妃を見てしまった。情けない国王だわ。後ろの二人の王子は顔を真っ青にしても誰が犯人かなんて示さなかったのに。


「我が国がこれだけの犠牲を払ったのですからインサルスティマもこれで収めるべきではなくて?もう十分でしょう?

 くだらない茶番に付き合わされて、わたくしは疲れましたわ」


「裁定といっても当主のすげ替えと多少の罰金だろう?しかも懐が痛いのはその家であって王家ではない」

「当然ですわ。わたくし達は()()()()()()()もの。なぜ罰金など支払わなくてはならないの?」


 臣下の責任を上の者がとるのは当然の話なのに逆をするなんて圧政と同じだわ。国王達も彼らに尻拭いさせることで帳尻合わせをしたかったんでしょうけど王妃の態度と言葉で台無しよ。


 国王がぎょっとして王妃を窘めるが優しすぎて彼女には伝わらない。ある意味王妃は貴族らしい貴族の思考だ。カイゼルの友人達を必要ないとあっさり切り捨てるのだから。


 確かに彼らは侯爵令嬢時代に不快な噂をばら蒔いた者達だけど今日は特に何もしていない。ドゥーパント姉妹に連れられて一緒に嘲笑っていたくらいだ。

 後ろで笑っていただけの彼女達が裁かれてあの姉妹にはお咎めなしなんて都合がよすぎないかしら。


「わたくしに無礼を働いたドゥーパント伯爵家の姉妹が先程裁かれた中にいませんでしたがこれはなんの裁定ですの?」

「そ、それは」


「頭が悪い娘ね!我が国が未来ある若い貴族をあんなに差し出してやったのよ?!

 それで手を打ちなさいと言っているのにどうしていつもいつも頭の悪い返答しかできないのよ!!あの子達はすぐ理解してくれるのに!!

 あなたが嫌いだった者達も入れてやったのだから感謝してほしいくらいだわ!」

「王妃!!」


 しどろもどろに返す国王を遮って王妃が喚くとそのまま出て行こうとした。


「これ!まだ終わっていないぞ!」

「宰相が終わったと申したではありませんか!カイゼルも行きますわよ。わたくしの部屋であの子達とお茶を飲みましょうね。

 そうだわ陛下。まさか本当にあの子達を牢に入れていないでしょうね?あの子達は本来公爵家の血筋ですのよ?しかも王妃であるわたくしの姪です。

 それをたかだか同格で元侯爵程度の娘のご機嫌取りにあの子達を牢に入れるなどたとえ嘘でも許されることではありませんわ!

 このことは実家のブランツ公爵家に報告いたしますから覚悟なさいまし!」


「んなっ!!」


「あーやだやだ。田舎小国に嫁いだくらいでわたくしと同等に話せると思っているなんて。前々から気に食わなかったけれど本当不愉快だわ。

 なんであんな小娘に気を遣わなきゃならないのよ。しかも王弟は公爵に()()()化物貴族じゃない。そんな下々の話を王妃であるわたくしが聞く必要なんてあるのかしら?あーやだやだ……」


 都合が悪くなると逃げる癖でもあるのか王妃は止める国王の言葉など聞かず、こちらに聞こえるように大きな独り言と一緒に外に出ようとした。


「そこの者!リリィちゃんとレッタちゃんを今すぐわたくしの部屋に連れてきてちょうだい。

 怖い目に遭ったから傷ついているでしょうね。はぁ、可哀想に。元気づけるためにもドレスやアクセサリーを買ってあげないといけないわね。仕立て屋も後で呼ぶのよ。

 あとはあの子達のために湯浴みの準備もしてちょうだい。……誰かのせいで泣いていたものね」


 あー、可哀想に。チラチラこちらを見ながらぼやく。わたくし達が悪者のようだ。


「そうだわ!わたくしが愛用している蜂蜜を用意しなさい!マッサージできる者もよ!……誰があの子達のお気に入りだったかしら?」

「そうだわ!湯船には薔薇を敷き詰めるように浮かべるのよ。色は多ければ多いほど良いわ。ただし庭園にあるわたくしの薔薇には手をつけないでちょうだい。もし切ったらお前の首を落とすわよ」

「そうそう。着替えはあの子達の部屋から持ってきなさい。あそこには公爵家のあの子達に相応しい服がたくさん用意してあるわ」


 だからいちいちこっちを見て勝ち誇った顔をしないでください。


「部屋はカイゼルの部屋に一番近い、女性らしい扉がそうよ。

 本当は従者と侍女の部屋だったのだけど使用人に住まわせるには広すぎたのよ。どうでもいい使用人なんて物置小屋で十分よね?

 改築と増築してあの子達に似合う部屋にしてあげたわ。あの子達のどちらかがカイゼルの妻になってくれると思っていたから結婚後も使えるように張り切って作らせたのにまだ数回しか使われていないのよ?ひどいと思わない?」


 どの辺がひどいのかまったく理解できない。聞かれた従者も戸惑い言葉を選んでいるようだ。


 姉妹を優遇しているのは知っていたけど、カイゼルの部屋に程近い場所に彼女達の部屋が用意されてるとは知らなかった。

 道理で王妃教育で王宮に赴いた時によく遭遇するなと思ったわ。てっきりストーカーされてると思っていたけど部屋があったからだったのね。

 というか、臣籍降下する王子の妻になるらしい他人の部屋を王妃の権限で作るってどれだけの暴挙かわかっているのかしら?


 あら、そうなると王妃はわたくしと婚約していた頃から不貞をしろとカイゼルを誘導していたことになるわね。

 国王が治める国で国王が決めた婚約なのにそれをすべて不服と言っていたわけだ。さすが王妃殿下だわ。


 チラリとカイゼルを見ればお約束のように彼も驚いていた。自室の周りの変化や侍女、従者が近くにいないことに気づかないなんてことありえるのかしら。



 ちなみにわたくしに用意された部屋はない。ヘンダーソン家を継ぐのだから当然だけどドゥーパント姉妹の片方も家を継がなくてはいけなかったはずだ。臣下に部屋などあるわけがない。


 また王妃から優しい言葉を貰ったこともなければドレスやアクセサリーのプレゼントもされたことがない。婚約者だからと厚遇してもらったこともなかった。


 湯船に薔薇を浮かべたらとても綺麗でしょうけど毎日やっているのかしらね?そんなことをしたら庭で咲く薔薇がすぐになくなってしまいそうだわ。


 ダスパラード王国では薔薇は貴族の庭で育てていることが多いけど今はシーズン前だからかき集めても敷き詰められるほどない気がする。お店にもないでしょうし。

 庭園の薔薇を使えばすぐに解決するのにわざわざ脅すなんてあの従者も可哀想に。



 だけどカイゼルから贈られる物よりもドゥーパント姉妹が身に着けている品々のランクの方が何故高いのかを理解してしまった。


 王妃は姉妹の元婚約者が贈るドレスよりもメイアが着るドレスよりもグレードの高い、公爵家の者が着るようなものを用意していたようだ。


 見れば一目でわかるような高級品を毎回身に着けていたからずっと不思議に思っていたのだ。王妃が買い与えていたなら納得だわ。

 てっきりカイゼルの浮気か王妃に言われて姉妹に高価なドレスを用意していたんだと思っていたもの。


 カイゼルは政治や紳士が嗜むもの以外極端に興味がないので自分が選んで贈ったドレスならわたくしはなんでも喜ぶと思っていた。

 センスはそこまで悪くはないが、夜会でもないのに胸元が広すぎるドレスを贈られてきて気持ち悪いと思っていた。

 だってお前はドゥーパント姉妹と同等だと言われてるみたいだったのだもの。


 そのドレスは姉妹がよく着ているデザインのドレスをメイアのサイズにしたものだったのだ。不平不満や気味が悪いと思っても仕方ないだろう。


 胸元だけアレンジしてお茶会に行ったり、未成年の服装の基準を切々と語り教育係とマナー講師(女性)と一緒に訴えれば、『成人したら贈っていいのか』という解釈で一応は納得してくれた。

 恥をかくかもしれなかったのだからまずは謝ってほしかったが。


 最低限必要な贈り物は贈られていたがドレス一式がドレスのみになり、アクセサリーなどの小物が花束になり、花束も好きだなんて一言も言ったことない水仙(ナルシスト)だけを毎回贈ってくるのでキレそうだった。


 水仙の花言葉は『自己愛』に『うぬぼれ』、『報われぬ恋』よ?!バカにしてるの?!と何度思ったことか。

 そしてドレスのグレードもどんどん落ちていき、お茶会の数も減っていった。


 姉妹なり男爵令嬢なりお気に入りの令嬢に貢いで婚約者には出涸らしのようなプレゼントをしているのだと思っていたけれどそういうわけでもなかったらしい。

 なら毎日のように開いているサロンに婚約者に使う予算(交遊費)を回していたということかしら?


 ……どちらにしても見下げ果てた婚約者でしたわね。婚約解消できて本当によかったわ。



 思ってもみない王妃の告白にメイア達は呆れ果て、国王達からは嘆きのような呻き声が聞こえた。

 気にしないつもりだったけどここまで極端な差別を受けていたなんて知らなかったし、ちょっと傷ついたわ。


 とんでもない爆弾を落として去ろうとする王妃だったが、このまま退出させるわけにはいかない。

 誰かが王妃を追うように走り出したがドアを開く前にドアが全開に開けられ、入ってきた者達にぶつかった王妃はそのまま近くの壁に激突した。


「はっ母上!!」

「痛い!何をするの?!ぎゃあ!」


 カイゼルが叫んだが助けに入ることはできず、王妃は屈強な騎士団に乱暴に掴まれ引き戻された。

 ソファに座らされた王妃は緩い胸元が崩れ、髪型は暴れたせいで爆発している。

 自由で緩いドレスは肥満が気になる王妃のために作られた『肥満隠し』だったがあの姉妹達と違い、王妃は胸元が寂しい方だったので豊胸パッドがポロポロ零れ落ちた。


 そこでまた王妃の悲鳴があがりカイゼルは悲鳴を止めることもパッドを隠すために拾うこともできず固まっていた。








読んでいただきありがとうございます。

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