お姉ちゃんと一緒!!
―シェリー視点―
「起きなさい。こら、シェリー!!!」
大声で私の事を叩き起こすのは、ルーフェお姉ちゃん。
まだ眠い目をこすり、寝たいと思い2度寝をする。でも、体を揺さぶられそれが叶わない。
「キル様を起こす役目はシェリーなんだから、早く行きなさい!!!」
「はーい……」
うぅ、意地悪だ。
こうして朝日を浴びて、ゆっくりと寝られるのも何年ぶりか。急いで着替え、ベイフェルト家の長男であるキル様を起こしに行く。
「キル様、シェリーです。朝ですよー」
キル様は、私とお姉ちゃんを救ってくれた恩人。
半獣人だという私達を、何の苦も無く受け入れるだけでなく面倒を見るのだと言った。アル様はアルベト国の王子様。
最初は知らなくて、気の優しい人だと思っていた。
あとから従者のラルムさんから王子だと聞き、開いた口が塞がらなかったのを今でも覚えている。
結構な頻度で来てますが、良いんですね。
「入りまーす」
ラルムさんから鍵を受け取っていたので、キル様の部屋に入り寝室へ。
お姉ちゃんがやったように、閉められたカーテンを開き部屋の中を明るくする。日の光に気付いたのか、最初は目が覚めたキル様。
でも、反対側に寝返りを打たれて再び眠る。
「……キル様。キールー様?」
「むり……」
「お姉ちゃんに怒られちゃう」
「う、うーん……」
徐々に目を開け、ボーっとした様子で私を見る。
起きたかなと思ったら、手招きをしている。何だろうかと思い、近付くとそのままベッドに引きずり込まれた。
「むきゅ……」
「えへへ、シェリーちゃん温かい。もうちょっと寝ようか」
「えー」
「おやすみー」
「……」
本当に寝てしまった。
お姉ちゃんに怒られる事も考えて、最初はキル様を起こすんだけどダメだった。あんまりにも気持ち良さそうに寝るから、私もつられて……寝て……。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「いい訳はありますか、2人共」
「「ないです」」
ラルムさんに怒られてます。
キル様も一緒だったのが、ちょっと嬉しい。自分だけが悪いだけじゃないって分かるから。
「全く……。キル様もですが、シェリーも何をしてるの」
「あははは。従者に怒られる主なんて珍しいな♪」
説教を受けている私達を呆れた様子で見るお姉ちゃん。そして、アル様も一緒に見て笑ってます。うっ、足が痺れて来た。
「何でここに居るの。用事なんてないよね、アル様」
「用事がないと来ちゃいけないのか」
「いや、普通はそうでしょ」
「そうか。……キルの作る新作と新作と新作が食べたい」
「欲望に忠実な王子め」
アル様、それってお菓子が目的って事?
そう思って見つめていると、何故だか笑顔で返された。
「キル、分かってないな。私は新作を食べないと力が入らない病気なんだぞ」
「医者に診て貰え、ついでに騎士団長に訓練されて来い」
「待て、加減がない事で有名な騎士団長に、ワザワザ訓練を頼むバカがどこにいる」
「アル様がいるでしょ」
「え、嘘。死んで来いって?」
「たまの運動に良いって事。痛い目でも見ろ」
「よし、勝負だキル」
本物の剣じゃない模造された木の剣。
それをキル様に投げ付けたアル様は、外へ出るようにと促す。
私はそこで、キル様がニヤリとしているのを見た――。
「キル様の勝利。アル王子、3回目の負けです。まだまだキル様には、勝てないですね。……何十回、負ける気なのかとちょっとワクワクしてます」
「うぐっ、また負け……。従者もキルも、容赦なさ過ぎ」
ラルムさんの淡々とした声の中、バタリと倒れるアル王子。
そうなのです。私は薬で眠らされていて、全容も分からないけど……。キル様は物凄く強い。
王子様も強い。だって、2人の剣の速さに私は全然目で追えなかった。
でもお姉ちゃんは、なんとなくだけど目で追えている。多分、耳が良いからだよね。
「ふふん♪ ただの研究バカだと思ったか。油断したな」
「くっ、それだけの腕があるのに誘拐されるとかアホだ。絶対にワザとだろ」
「えぇ、アホな主です。それは当たってますよ、アル様」
普通は庇うだろうと怒るキル様。
しかし、ラルムさんは笑顔で「アホな主も可愛いですよ」と言い切る。
次の瞬間、キル様の蹴りを受け流すラルムさん。
サラリとアル様の木の剣を取り、そのまま打ち合い。一瞬の隙を突かれて、キル様が大きく宙を舞った。
投げ飛ばされた、と理解したのと「ぐえええっ」とキル様が呻き声を上げたのは同時だった。
「ホント、従者も謎だがキルも謎だ。何でめちゃくちゃに強いんだよ」
「でもでも、アル様。新作のマカロン? とても美味しいです」
「うむ、それは同感だ。シェリー、ここは楽しいか?」
マカロンをパクリと食べつつ、私にそう問うアル様。
チラリと見ると呆れ顔のキル様と、山のように積まれたマカロンを嬉しそうに頬張るラルムさん。
……流石に、私はあんなに食べられないです。
下らないと言いつつ、新作のホワイトストベリー味のマカロンを食べ進めているお姉ちゃん。言葉と裏腹に、尻尾が嬉しそうに揺れているのを私は見ている。
一緒にアル様も見ているし、キル様にも見られているから……多分、私を含めた全員にバレている。
言動と行動が伴ってないって。
「はい。凄く、凄く楽しいです……!!」
「そうかそうか。困った事があれば遠慮なく言って良いからな。仲間の半獣人達も、騎士団や王宮で働いている。アルベト国はもっと発展する。――アイツのお陰でだ」
イタズラ顔で見つめた先には、キル様とラルムさんがいる。
不思議な食べ物と技術発展の為に、アルベト国に尽力する恩人。なにより、会えないと思っていたお姉ちゃんに再会出来た。
それだけじゃなくて、こうして働ける場所もくれるしなにより温かい。
両親の死は、悲しいけどそれに負けない位に笑顔でいないと。
でも、結局分からない事がある。
今まで見付からずにいた組織を、壊滅に導いたとされるキル様とラルムさん。どこでその情報を掴んだのかは、その方法はアル様にも分からないんだって。
あとでキル様に聞いても「内緒。僕とラルムだけのね」と意地悪く言われてしまった。
それでも良いかと思う。命の恩人には変わらない、大好きな人だから――。




