温かい場所
―ルーフェ視点―
ふと目が覚めると、自分が牢屋に入れられている事に気付く。
屋敷を飛び出して気付く。キル様のお父様には事情を説明をしていない。でも、もう戻れないと思いそのままにしてしまった。
私には妹が居る。
5つ年下の可愛らしい妹。でも、妹が7歳の時に変化が起きた。
「なに、これ……。お姉ちゃん、私……」
ある夜の事。
いつものように妹と一緒に寝ていた時だ。フサフサとした何かがあると思い、目を開けると妹の頭には大きな猫の耳があった。同時に私はおしりの所から白い尻尾が見え2人で訳が分からないという表情を浮かべ、両親の元へ行った。
「嘘……。そんな、まさか……」
「もしかして、この事なのか。夜に気を付けろって、そういう……」
当時の両親は、困惑しながらも私達が何であるかを理解していた。
お母さん、お父さんの遠縁にあたる人物が獣人だった場合。血を薄くすれば、後に生まれる私達の世代の子供は人間になる。
でも、例外もある。
私や妹がそれぞれ、獣人の特徴が出てしまった例だ。大昔には、獣人と人間は共に助け合っていた時代があったというがもう獣人の数自体が少ないらしい。
人間として生きる為に、私と妹は必死で耳を尻尾を隠す事を覚えていく。
でも、半獣人は今では珍しく希少価値が高い。人攫いに狙われたら最後、2度とは戻ってこれない。まだ子供の私達に、感情のコントロールが簡単に出来る筈もない。
妹がふとした時に耳を発現させる。
急いで隠したが、運悪く人攫いに見られ――妹は奪われた。そうなれば自然と、私も狙われる。両親に告げようと家に戻れば、血だまりになっている2人を見て悟った。
逃げられない――。
(……ようやく、妹の情報が掴めたのに。逆に捕まるなんてね)
「お目覚めかい?」
牢屋の外から声を掛けて来た人物を睨む。
奴は妹を攫い、両親を殺した。捕まりかけた私は、必死で逃げる事に集中した。その時、足に凄い力が入り気付いた時には跳躍していた。
そこからスルスルと高い所から降りるのが簡単になり驚いた。
たった1人の妹を探す為、異常に聞こえがよくなった耳も駆使して様々な国を渡り歩いてきた。アルベト国に向かえば、どんな人でも受け入れられると聞いた。
災害で居場所を失った難民を受け入れ、それを行えるだけの国力。
なによりベイフェルト家は、アルベト国の技術力を支えているだけでなく様々な情報網を持っている。上手く入り込めれば、妹の情報が掴めるかも知れないと思った。
半獣人は貴族に売るのが定石。
そう言う噂を聞き、一刻も早く妹を助けなければと思った。だが、幸いにも妹はまだ売られていない。正しくは私が揃うまでは大事にされて来たのだという。
「個別に売るより、姉妹で売った方が良い金になるからな。せいぜいそこで大人しくしてろよ」
「成程、ゲスな考えでいっそ清々しい。やれ、ラルム」
「は? げばっ!!」
情けない声と共に、檻が簡単に破られる。
まだ薬で意識がはっきりしずらい。それでも、私の名前を必死で呼ぶ声は……キル様?
「ルーフェ。ごめん、ゆっくりでいいから飲んで」
「うっ……?」
ゆっくりと流していく冷たい何か。
意識が徐々にはっきりし、ハッとした私は驚いて声がすぐには出なかった。
「迎えに来たよ、ルーフェ」
「キル、様……?」
「ん。酷い事されてない? 平気って言うのも、なんか違うか」
「キル様。アイツ、もう一発殴りますね」
「どうぞ、どうぞ」
「許可が出たので、容赦なく」
一応、加減してとキル様が言うもラルムは聞いている様子がない。
何故この場所が分かったのかと思っていると、キル様が「秘密」と言われある確認をしてきた。
「妹さんの名前は、シェリーで合ってる?」
「っ、何故それを」
「大丈夫、安心して。ラルム、あの子を連れて来て」
「あ、はい。早速、連れてきます」
一通り殴り終わったのか、キル様の命令に嬉しそうに去っていく。抱き抱えられている子を見て、すぐにでも駆け寄りたかった。
でも、ふら付く体に思う様に動けないでいる。キル様が隣で支え、妹で合っているかと確認をした。
「っ……。はい、シェリーです。たった1人の妹です……!!!」
見付けた。見付けられた……。
その嬉しさと2人揃って生きている実感に、ポロポロと涙を流す。キル様とラルムは黙って背中を擦ってくれた。
薬で眠らされているだけだが、念の為にも医者に診せる事になった。
結局、何で妹の事が分かったのか。あの場所をどうやって見付けたのかすら、分からないままだったがあとはキル様の旦那様と王族が取り締まるから大丈夫。
そうキル様が説明し、「さ、帰ろう」と言われ自然と出された手に、私はまた泣きそうになった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「申し訳ありませんでした。その、ご迷惑を」
「え、何の事」
ゆっくり体を休めるように。
そうキル様の旦那様と奥様に言われ、目が覚めた妹のシェリーと共に過ごし終えた5日後。改めてキル様に感謝と謝罪をするも、キョトンとされてしまい困惑した。
「3日程の休みをと言いましたが、私は――」
「妹さんを探していたんでしょ? 家族と離れ離れは嫌だもんね」
「あの、それと」
「あ、事情は妹さんから聞いたよ。人攫いに関わった組織もろとも、騎士団が処理したってね。もう安心だね」
「えっ……」
キル様の話を聞くと、私や妹のように捕らえられた半獣人は全てアルベト国で保護したのだという。
私達の両親は良い例だったが、中には半獣人の事を知らず子供を売ってしまう親が居るのだと言った。
あの人攫いの組織は、半獣人を扱うのに長けていた。
そして、一部の貴族も関係していたのだという。
「今まで捕まらなかった所を見ると、他国の貴族が幾つか介入してたんじゃないかって話。ウチの国の王子様、そう言うの嫌いだから徹底的に叩くんだって。おーこわっ」
「遊びに来たぞ、キル!!!」
「お帰り下さい、アル王子。今、大事な話をしているので」
「あははは、相変わらず厳しいな。だが、居る。居座るぞ」
「うわっ、迷惑……」
しれっと王子様が遊びに来る事にも驚いたが、返しが冷たいですねキル様。
アル王子は、気にした様子もなく妹のシェリーと仲良く遊んでいる。……あれ、いつの間にそんな仲に?
「ルーフェ。解雇なんてしないから安心して。妹さんも含めて、ここでいつも通りに働いて」
「え、でも」
「それに謝るのは私の方だ。知らなかったとはいえ、必死で隠しているルーフェに酷い事をした。ごめんなさい」
そう言って、キル様は頭を下げた。
従者のラルムも一緒に謝り、戸惑いを覚える。隠していたのは私の方なのに、この方達は……と思うと今まで気が張っていた分もあったのだろう。
ボロボロと泣いてしまった。
今までの我慢を、吐き出す位に。みっともなく……。