私の正体
―ルーフェ視点―
キル・ベイフェルト様。
13歳にして、アルベト国の生産力だけでなく魔法技術の発展に貢献している天才児。将来は、王城での魔法技術研究所で働くことが決まっているお方。
そんな方に仕える事が出来て嬉しい反面、あの時のような失敗は許されないのだと繰り返す。
「おっはよう~」
「おはようございます、キル様」
天才児と周りから言われているが、本人は実に伸び伸びとしている。
明るく元気で、自ら屋敷の庭の世話までしていく。
「キル様、私どもがやります。ですので――」
「良いの良いの。早起きして畑の世話をして、日光を浴びると気持ちいよね? それに、昨日から足を庇ってるでしょ。ラルム、今すぐに医者に診せて貰って」
「分かりました。すぐに手配させて頂きます」
庭師の方が慌てた様子だったが、従者のラルムが問答無用で下がらせていく。
キル様の様子を観察しつつ、変わった方だというのが抱いた印象だ。そして、何故だかその矛先は自分へと向けられている。
「これ、新作のお菓子だよ。ラルムが気に入ってるし、狙ってるから気を付けて」
「人の物を奪うように見えてるんですか、俺は」
「え。だって、欲しそうにしてるし」
「してないです!!」
アルベド国にしかないお菓子。
苺のショートケーキ、クッキー、マカロンなど聞いた事がない名前ばかり。そしてそれらを専門的に扱うお店は、ベイフェルト家が管理している。貴族だけでなく、王族も満足しているという事からそれらのレシピは、キル様が所持しているのではと噂されている。
お土産の品として作られたマフィンや焼き菓子などは、瞬く間に他国へと広がりアルベト国へと足を運ぶ。国も潤うし、キル様の婚約者候補も殺到する事だろう。
働いて1年が経った。
だが、未だにキル様と従者のラルムから色んな誘いを受ける。一緒に食事をしないかとか、驚かせようしたりなどなど。
何故、そんなに私に構おうとするのか。
最初は不思議に思っていたが、2人のある会話を聞いてしまった。
「あの完璧を少しでも崩したい」のだと言っていた。
耳は異常に良い私だからこそ気付いた事。これは、ますます失敗する訳にはいかない。そう胸に刻み込み、仕事に集中することにした。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「3日程、休みが欲しい……?」
「はい。申し訳ないのですが」
「良いよー。あ、ちょっと待って!! だったら最後に、この新作食べてみて」
「えっ」
キル様が自家製の冷蔵庫なるものから出した物。ガラスの長細い器と思われる物に、緑色の液体が入っている。
なんだか、小さな泡が浮かんでは消えてを繰り返している。何とも不思議な見た目だと思っていると、最後にと言ったキル様が乗せたのはアイスクリームと呼ばれる冷たい食べ物だ。
「メロンは知ってるよね? これね、メロンソーダって言う飲み物なんだ。アイスを乗せれば、フロートって呼ばれるんだ。メロンソーダフロートの完成です♪」
「メ、メロンソーダ……フロート?」
甘くて美味しいよ、とキル様が言った瞬間。ガタン、と何かがぶつかる音が聞えた。
キル様もその音の正体に目で追うと――ラルムが膝を抑えながら、うずくまっている。
「そんなに食べたいなら、あとでまた用意するから。今はルーフェに譲って」
「は、い……。お恥ずかしい所を見せて、すみません……」
「あの」
「いえ、気になさらず……」
そんなに欲しいのならと私のをあげようとしたが、必死で断られてしまう。
その後も、チラチラと気にしているのでキル様が「扉の前で待機!!」と言い、無理矢理に退出させた。
「で、では……一口だけ」
何だか申し訳ない気分になりながらも頂く事にした。
口に含んだ瞬間、シュワシュワとした感じが広がり驚いてしまう。思わず咳き込んだが、不思議な感じに何度か挑戦していく。
味わった事がないからだろう。アイスクリームというのも、冷たくて美味しく口に溶けてなくなってしまった。一口だけと言いつつ、気付いたら中身がなくなっていたのだ。
それ位、夢中になってしまった。悟られる訳にはいかないからと、美味しかった事を告げて出て行こうとしたら――。
「え、尻尾……?」
「っ、失礼します!!」
キル様の一言に驚き、急いで出て行く。
「待って!!」と言う言葉が聞こえたがもう居られない。
今度は長続きが出来る穏やかな場所だと思ったのに……。私の正体を知られた。
私が、私が……半分獣人の血を持つ者だとバレてしまった。