前世持ちという共通点
―キル視点―
転生した、と気付いたのは8歳の頃。
いや、自覚したのはというのが正しいのか。なんせ、このアルベト国とは違う建物の数々。
なにより、驚いたのは日中の人の多さ。
お祭り騒ぎなのかと思う位の人混み。珍しい品を扱う商人が見せる時よりも更に多いからな。
そういった断片的な記憶を、夢なんだと思って何度も見ていた。だが、流石に何かにぶつけられて人が倒れたものを見たときは――気付いた。
あぁ、その倒れた奴は前世の自分だなと。
何かにというのは、前世に居た世界では珍しくもない車。青信号だから渡ったのに、無視するは酷いドライバーだな。
(自覚してきた途端に、ポンポンと前世の言葉が出てくるな。ま、この国でそれを言っても通じないか)
そう思いながら、ボーッと外を見る。
そんな僕に従者を付けた父。5歳年上で、名前はラルム。元々物を作る事に興味はあった。そして、ここは自分の居た世界じゃない異世界だ。
そして、自分に魔力が宿っているのも分かった上に憧れもあった。
試しに自分の屋敷の庭で、前世で食していた果物を作ってみる事にした。
アルベト国の天候は穏やかで、嵐に見舞われる事もない夢のような場所。だからなのか、嵐に見舞われた時や砂嵐によって難民達がこの国を訪れる。
難民を受け入れるだけの施設はあるし、この国の王族は差別を嫌う。
住む場所を無くした者の手厚い保護だけでなく、暮らせるように手配する手腕。外交にも力を入れているこの国は、とても居心地のいい所だ。
「俺の前世は暗殺者です。あ、今は本当にただの従者なのでご安心を」
そんなある日。
従者のラルムの衝撃発言……というか、僕もちょっとだけ前世での話をしてしまったんだが。
前世での僕には妹と弟が居た。
両親が共働きだった事もあり、自然と2人の世話をする事に。暴れ回る2人を黙らわせるのに使った方法がお菓子作り。
甘いものでも食べて大人しくしろ!!
そう思って初めて作ったクッキー。
少々の焦げもありつつ、ワクワクした感じで食べてくれた2人。そこから、せがまれては作るというのを繰り返していく。ネットで調べて、シフォンケーキやら誕生日ケーキとかも作る様になり――気付けば、お菓子作りが趣味となっていた。
この異世界で、自分の前世で食べていた果物が奇跡的に作れた。中々の再現力だと思いつつ、前世での知識を使い魔法で似たような事をしていく日々。家族にバレないようにながらだったので、自然と夜にこっそりと屋敷を抜け出しては庭で試作品の苺を食す。
そんな行動をしている僕を、ラルムはいつから見ていたのだろうか。
気配を感じさせないのが怖いと思いつつ、苺を食べてふと言ってしまった。
「前世で食べた味に大分、近付いてきたな……。あとは――」
「キル様も、前世を覚えてるんですね。驚きました」
「っ!?」
心臓が止まり掛けるとはこんな感じか。
そして同じ前世を持っているという共通点が分かってから、ラルムは言ったのだ。自分の前世は暗殺者だったのだと。
◇◇◇◇◇◇◇
「あの、何故ショートケーキが2つもあるんです?」
「ん? あぁ、生クリームの甘さが控えめなのとそうじゃない奴。せっかくなら2つの違いを食べて欲しいなぁと」
「……成程。2つも頂けるんですね!!」
「何でそう捉えるだろう。いや、当たってると言えばそうだけど……。なんか釈然としない」
キル様、早く!!! と、既にプリンを食べ終えている状態で待機している。
ラルムが優秀なのも知ってるし、頼りにしてるのも事実。僕の所為で甘いもの好きになっているようで申し訳ない。
まるで忠犬が待てをしている感じに、ほっこりしつつショートケーキを用意。
既に新しく紅茶を淹れている辺り、本当に仕事は出来る子。それが前世では暗殺者であったのだというのだから驚きだ。
……こういうのをギャップ萌えと言うのだろう。
「しかし、キル様の前世での話を聞くと技術がかなり発達した所だというのがよく分かります。クリームの甘さを控える理由があるんですか?」
「人によっては、その甘さが耐えられないって言うのもあるからね。だから、少しでも抑えて色んな人に楽しんでもらおうという目的もあるかな」
甘いお菓子のカロリーはとてつもないけど、ここでそれを言ってもね。
前世で食べたケーキよりは、小さくしてるから厳密に気にする事でもない。チラッとラルムを見れば幸せそうに食べているから、僕はこういうのが好きなんだとつくづく思う。
「また2人でコソコソと……。今度は何をしてるんです?」
僕とラルムは同時にビクリとなり、危うくケーキを落としかけた。声を掛けて来た人物は最近、屋敷に入った使用人のルーフェ。
怒っているようにも見えるが、彼女から言わせれば「そういう顔です」と先に言われてしまった。ラルムがちょっと抜けている部分もあるのだが、ルーフェは完璧に仕事をこなす。
完璧すぎて近寄りがたいと思うが、僕もラルムもどうにか崩せないかと試行錯誤している。