背に腹は替えられぬ 【月夜譚No.204】
大人になったら、勉強なんてしなくて良いのだと思っていた。
しかし実際に社会に出てみれば、仕事を覚えなくてはいけないし、その場その場におけるマナーも必須。更には、免許や資格を取らなければならない場合もある。
小テストや定期試験など、学生時代には面倒だと思っていたが、今となってはあの頃が一番気楽だったのかもしれない。
学校の成績の為の勉強と、生きていく為にする勉強。同じ勉強でも、意味合いも必死さも違ってくるというものである。
通信講座のテキストを開いたまま机に放り投げた彼は、後ろに引っ繰り返ってクッションの上に頭を落とした。
勉強は昔から嫌いだった。今だって、決して好きではない。今も昔も、仕方がないからやっているだけだ。
自分のステップアップに繋がるから楽しいなんて言っている同僚も多いが、彼にとってはステップアップなど然程関心のない代物だ。だが、給料アップには興味津々である。
天井を見上げて溜め息を吹き上げた彼は、のっそりと起き上がって再びテキストを手に取った。
ともすれば脳味噌が拒否しかけるのを叱咤しながら、彼は文字の羅列を頭に叩き込むのだった。