動画を見て強化アイテムを手に入れる勇者の物語
「喰らえっ『最終奥義:勇気/』……どうだ、やったか!?」
俺の最終奥義。奮い立たせた勇気を力に変える。敵が強く、立ち向かおうとする勇気が強いほど攻撃力が増す、まさに奥義といえる技。
俺以外の仲間はすでに満身創痍。ここでやつを倒せなければもう、俺達に勝ち目はない……
もうもうと立ちこめる土煙が少しずつ晴れていく。
爆心地にあったのは、黒焦げになってうずくまっている敵の姿。
数秒間睨み付けるが、動く気配はない。
「はぁ……はぁ……どうにかなった。お前ら、これで街に帰れるぞ」
仲間達は倒れて動けないでいるが、命を失った者はいないはずだ。
神殿で祈りを捧げれば、数日間で回復するだろう。
そうだな……帰ったら、パーティーメンバーのアリシアに告白しよう。
今まではなんとなく言い出せなかったが、今日の戦いで思い知った。
当たり前に明日が来るとは限らない。もう、後悔はしたくない……
とりあえず、倒れている全員を一カ所に集め、俺はバッグから転移魔石を取り出した。
……これも安い物ではないが、さすがに四人を背負って街まで歩くことはできないだろうからな。
「転移魔石、起動! ……起動! 起動! 起動!」
なぜだ、なぜ起動しない!?
転移の魔術が埋め込まれたこの魔石は、使用者の魔力を消費せず、ただ起動するだけであらかじめ指定した街へ一瞬にして移動することができるはず。
まさか、故障? いや、そんなはずはない。
冒険者にとって命綱とも言える転移魔石は、他の魔石以上に故障には強くできている。
だとしたら……転移妨害? だがそんなことを一体誰が……まさか!?
倒したはずの敵にもう一度目を向けると……炭化した表皮に罅が入り、中から真新しい皮膚が姿を見せつつあった。
「よくも……よくもよくもよくも! この俺様にここまでの傷を与えてくれたな! 許さない! 生きて帰れると思うな!」
バリバリと殻を破って、一回り小さくなった敵が姿を現した。
やつは、俺の方に手の平を向け、魔力を固めた砲弾を射出する。
一発の砲弾は空中で無数の弾丸に分裂し、無数の弾丸はそれぞれが針のように細かい攻撃に分裂する。
あの一撃の一つ一つに、人の命を簡単に奪えるだけの威力が宿っている……やばいっ!
俺の後ろには、俺の仲間が倒れている。
ここで俺が避けたら、仲間達が攻撃の被害に遭ってしまう……すでに命の瀬戸際にいる仲間達がこんな追撃を受けたら……
「クソッ! 俺の仲間に、傷をつけるなぁああ!」
敵を倒すという、人類共通の目的を考えたなら、仲間を見捨てて俺はこの攻撃を避けるべきだったんだろう。
そうすれば、俺一人だけは生き残ることができる。
生き残って、敵を倒すことができたかも……だが俺は、アリシアを含む仲間達を犠牲にすることがどうしてもできなかった。
超高温に熱された針のような攻撃が、俺の体に直撃する。
攻撃を受けた場所の感覚がない。俺達は、こんな場所で死ぬのか……
<<動画を見て、全回復しますか?>>
<<はい>> <<いいえ>>
なんだこれは……全回復? 動画を見る? 一体何のことだ!?
わからない。走馬灯の話は聞いたことがあるが、こんなことは聞いたこともない。
だが……『全回復』の言葉は、それは今の俺達からしたら麻薬のような魅力がある。
「どうせ死ぬのなら、最後に試してみることにするか……」
藁にすがるというよりは、自暴自棄に近いような感覚で、心の中で「はい」と答える。
その瞬間、わけのわからないパズルゲームが脳内で再生される。
下手くそめ。
いや、そうはならんだろ……なんだこれは。
どういうことだ? これは、選択を誤った俺達に対する、神からの皮肉なのか……?
わけのわからない映像は、三十秒ほどで終わった。
このパズルゲームをやらないか? などとのんきに問うてくる。
だが今は、それどころではない。画面右上の『×』ボタンに意識を向けると謎の画面は突如消失した。
それと同時に、全身に力が漲ってくる。
「……まさかこれが、全回復?」
全身を見回すと、この戦いで負った大小の傷が完全に消滅している。
そしてそれだけではない。回復しているのは俺だけではない!?
仲間達も、俺と同じように傷が全て消えている。
装備の破損や衣服の汚れさえも完全に消え去って、戦いを始める前の状態にまで、完全に回復している……!?
「アリシア!?」
まるで居眠りでもしていたかのように優雅に起き上がるアリシアは、俺の姿を見て安心したような表情を浮かべ、続いて辺りを見渡して不思議そうな顔をした。
「私は……敵と戦っていたはず……何が起きたの?」
「わからない。『神の奇跡』が発生したのかもしれないが……」
アリシア以外の仲間達も、次々と起き上がる。
どうやら全員、何が起きたかすらよくわかっていないようだ。
かくいう俺にも状況を全く把握できていないわけだが……
敵に目を向けると、魔弾を射出した状態のまま動かない。木々の枝葉も全く揺れず、枯れ葉は空中に固定されている。
どうやら天から降り注ぐこの光の外側は、時間が静止しているようだが、この光りも少しずつ弱くなっていく……
「みんな、理由はわからないが、俺達は全回復したようだ。だが敵はまだ倒れていない……」
「そうだな! 神の奇跡に違いない。神は俺達に、敵を倒せと言っているんだ」
「やりましょう! 今の私たちなら、あの敵を倒すこともできるはずです!」
「しゃあない。いっちょ、やってやりますか!」
「ふむ。この老体に、神は『まだ死ぬな』と言うのか。仕方がない、最後にもう一仕事だけしてやろうかの……」
俺達全員が起き上がると同時に、天の光りは完全に消滅した。
世界が、時が、動き出す。
「フハハハハァ! この我に敵対しようなど、馬鹿なことを考えるから……おい貴様ら、なぜ起き上がっている?」
敵は、俺達を見て間抜けな顔をしている。
同情はするが……これ以上手加減はしない!
「行くぞ、みんな! 『最終究極奥義:勇気/・ユニゾン』!!!」