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Toshidennsetu Kitan/トシデンセツキタン  作者: 影城 みゆき(怪奇作家)
都祠電説忌譚
7/27

弐話:みこと開き 其肆

夕日って神秘的ですよね。

夕焼けの空は雄大で、何処か現実離れして私の目に映ります。

そんな日々の風景に明日へのエールを感じるのって、私だけですかね?

作者 三毛猫

ー肆ー


 体感3分弱、何も出来ずに風圧に身を任せ、扉が次々と過ぎて行くのを眺めていると、不意に空気が変化した。

これは……地面に落ちる直前の感覚だ!

そう気づき、素早く受け身の体勢を取る。

ふさっ、予想外の感触がやってくる。

床がやたら柔らかい。

木の感触じゃなくてこれは……草?

 違和感の正体に気づき私は周りを見渡す。

そこには暗い廊下ではなく、背の高めな草原の広がる河原だった。

辺りは黄昏に包まれ、時折人が通る程度である。

風が吹いていないためか、水面には向こう岸の日常的な町並みの光が浮かび上がっている。

 「外に出れた……」

「いたた……確かにそうみたいだけど、此処はどこなので?」

 受け身を上手く取れなかったようで、幽真は腰の辺りを痛そうに抑えている。

 「【水街(みずまち)地区】の【石積河(いづみがわ)】周辺だと思う。入り口と出口は違うみたいだね、あの廻廊」

「僕達の要求を呑んだのか、はたまた危険視して追放したのか……どちらにせよ、またあの扉だらけの空間を彷徨かなくて済んだのは有難い限りだね」

 ようやく出られた、そんな喜びと安堵で私は草むらに仰向けに横たわった。

昼から夕方までぶっ通しで日光すらない暗い室内(?)に居たのである。

疲れないはずがない。

 「はぁ〜〜、疲れたぁ〜〜」

 大きめなため息をつく。

誰かに見られたら恥ずかしい姿であるが、人通りも少ないし別に気にしなくたっていいだろう。

そんな中、真横の雑草の中に微かな光を認めた。

 「ん?なんだろ、これ?」

 拾い上げたそれは3cm黒色の石だった。

ただ黒一色では無く、赤、青、緑と光の屈折に応じて異なる色が見受けられる、そんな不思議な石だった。

「へぇ、面白い石だね。誰かの落とし物かな?」

 先程まで夕焼けの河原の写真を取り続けていた幽真が近づいてきた。

誰かの落とし物、そう思うのは至極当然のことだった。

まず、これはネックレスに近いものである。

空いた穴を錆び付いたチェーンが通っている。

その上、この石には文字が掘ってあるのだ。

まぁ残念ながら外国語のようなので読めませんけど。

 「どうしよ……交番にでも届けようかな?」

「それでもいいし、置きっぱなしにしとくのもいいかもね。こんなところに立ち入って落とす物好きなんてそうそういないだろうし、敢えて置いてたのかも知れないよ。下手に持ち帰ったら……僕の二の前になるよ」

 そういえばそうでしたね。

私と幽真は元々()()を無くした人と拾った人の関係でしたね。

私が落とさなかったら、幽真が拾わなかったら、こんなに親密になることは無かっただろうからね。

 そんな風に会話をしていた時、ガサッっと草むらの中で物音がした。

普通なら小動物か何かだとして気にしない所だが、私達には気を付けなければならない相手が居る。

反射的にその方向を振り向く。

案の定、あの手が居た。

辺りの草を揺らしながら、五本の指を不気味に動かしながら、だんだんと近づいてくる。

 「はるま、手が……」

「分かってる、分かってるよ」

 幽真は私とは別の方向を見ていた。

手は一体だけなわけがない。

それは考えれば分かることだ。

私達は手の集団に既に囲まれているのだ。

 私達は草むらから抜け出して石の河原まで向かう。

あそこだと雑草が邪魔となって位置把握が厳しいから。

 「どうする?私戦えないけど」

「安心してくれ、僕はそもそも戦力外だから」

 人通りが少ないとはいえこんな見えやすいところで刀など出したら()()()()()になってしまう。

霊能者だからといってご都合主義な展開なんて存在するはずがない。

当然幽真も同じ……なんならそれ以下なので、この場で戦える人はいないということになる。

「ねぇ、みこと。それ渡してみたらどうかな?」

 まさに背水の陣の状況で幽真は私の持っている石を差し出す提案をした。

 「え?なんで?」

「それ、落ちてたとこが僕達の近くだった事を踏まえるとあいつの持ち物の可能性があるんじゃないかなって思ってさ。それにあいつはわざわざ手を差し向けずに扉を出現させた方が効率がいいだろう?そうしないってことは僕達を廻廊に入れたくないんだよ。それでも追いかけてきたのは落とし物を拾うためなんじゃないかな」

 そういえば、あの怪異は首に何かを掛けていた気がする。

はっきりとは見えなかったけど、それがもしこの石だとしたら?

私達を襲っているのでは無く、この石を回収する為の可能性も高いか。

 「……確かに一理あるね。じゃあ私が渡してくるよ」

「無理するなってば。みことはあの手の影響で相当疲労してるだろうから僕が行ってくるよ」

 「大丈夫、もう疲れてないから。それに拾ったのは私だしね。」

 数体の手は私達の少し手前に固まっていた。

不規則に動く指はまるで石を早く渡すように催促しているようにも見える。

私が返そうと近づいた時、それが起こった。

「みこと!!何か飛んでくる!!」

 「えっ?うわっ!!」

 突然どこかから透明なガラスの小瓶が飛んできた。

咄嗟に後ろへと飛び退いたが、その必要はなかった。

標的は私ではなかったからだ。

 それは私の一番近くにあった手に当たり、その手を中に押し込んだ。

大きさ的に入るはずが無いのにである。

「モ〇スターボールってガラス製だったんだ……」

 後ろで幽真が雑にボケた。

……初めてこれ見た時は私もそう思ったけども。

そう、この霊能を使う人を私は知っている。

 「イッキュウさん、余計な事しないで下さいよ」

「余計なことて何の事ッスかね?俺はみことちゃんを助けよーって頑張ってるってのに、ほんと酷い話ッスよ、まったく」

 その人物は河原の上の道にしゃがんでいた。

あのチャラチャラした格好を見間違うはずがない。

「えっと、知り合い?」

 「うん。事務所の先輩のイッキュウさん」

「あー、はじめましてっ!これでも一様坊主やってるッス!えーと……はるま君だっけ?」

 自己紹介タイムの始まり始まり。

でも、今じゃなくたっていいんじゃないか?

この会話の間にもガラス瓶に閉じ込められた手を助けようと他の手が必死になっている。

ただ石を取りに来ただけなのだってのに、あの手たまったもんじゃないだろうな。

「今自己紹介しなくていいですから、早くこの手を……わっ!」

 私がガラス瓶を掴もうとしたその時、再び何かが飛んできた。

思わず避けるけど、当然私が狙いのはずがない。

ガラス瓶に群がる手は飛んできた赤い玉によって弾かれた。

「注意が不足しているようだな、尊命。その程度の洗脳にかかってたら霊能者はやっていけないだろうに」

 聞き覚えのある声と攻撃、ということは……。

 「……なんかすみません、朝霞(あさか)先輩」

 私は声の方を向いてとりあえず謝罪をする。

少し河原の木に寄りかかるようにして朝霞先輩は立っていた。

相変わらず季節の外れの厚着で。

「あの人いつの間に……」

「朝霞さんは気配隠しが上手いッスからねぇ」

 イッキュウさん、それ多分貴方に聞いてないと思いますよ?

幽真の独り言だと思いますよ。

思わずツッコミしかけたが、朝霞先輩に聞きたいことを思い出したので堪える。

 「あ、えと、その、さっきの洗脳って、どういうこと、ですか?」

 うーん、朝霞先輩と話すの何か緊張するなぁ。

「尊命、お前は何であれに『手を貸そう』としていた?詳しくは知らんがあれに襲われていたんだろう?普通は今まで襲ってきた相手にいきなり優しくなんてしないはずだ……精神影響を受けていない限りはな」

 忘れていた、あの手の霊能は()()()()()()系統のものだった。

幽真は恐怖心の増幅と考察していたが、他にも効果を持っていてもおかしくはない。

それこそ一度術にかかった私の行動心理を動かす程度なら簡単だろうに。

 私自身の情けなさとあの手に対する怒りで振り向くが、そこには小瓶一つしか残されていなかった。

 「あれ?手の集団は?」

「さっき逃げていったよ。あの人……朝霞さんの攻撃を危険視したんじゃないかな?」

「なるほどねぇ、こりゃあ厄介な相手ッスね。本体から離れたところに手を自在に発生させる、そんな能力ってとこッスかね?まー、一体確保出来たんで、こいつ分析に回しちゃいまスね、朝霞さん」

 下に降りてきたイッキュウさんはガラス瓶を手に取ってそう言う。

中に入れられた青白い手は必死にあがいているけど、残念無念、無駄無駄無駄。

開封は使用者、イッキュウさん以外には決して出来ないんだから。

 「あれ?二人は何で此処が分かったんですか?ていうか私達が襲われてるって知ってるんですか?」

「定期連絡が途絶えていたからな。何かがあったのだろうとなって捜索隊が組まれた。此処でお前達を見つけたのは偶然だ。水辺には怪異が集まりやすい。当然此処も例外じゃないというわけだ。捜索に訪れるのは必須だろう」

 朝霞さんは夕日の沈む方向を見ながらそう回答する。

……こういうとこがかっこいいんだよね。

「にしてもみことちゃん無事で良かったッスよぉ。ホトちゃんなんか凄い心配してたんスからね!まだ一人行動させるのは早すぎたって嘆いてたッスよ!」

 「あはは……いやぁ、ほんと心配かけちゃってすみません」

 今度正式に事務所入りする時にでもお詫びのケーキでも持って行こっかな。

ホトさん、喜ぶだろうなぁ。

「……えと、僕はどうしたらいいですかね?」

 身内の話題で気まずくなったらしく、幽真がそう問いかける。

知らない人が二人もいるんだし、居づらいのも当然だよね。

「君は一様事情聴取中だ。だからこのまま話を聞こうと思う。尊命、幽真、あの怪異に襲われるまでの経緯を教えてくれ」

 「分かりました。まず始めに……」

 私はイッキュウさんとの会話を中断して説明を始める。

イッキュウさんの顔が少し悲しそうに見えたけど気のせいだろう。

気のせいじゃなくても気にしちゃ駄目だ。

 そうして私と幽真が交互に説明を続けたのであった。


「……なるほど、手と扉の怪異か。興味深いな。廻廊を使えるとはそいつは相当の才を持っているようだ。霊能も特殊なもので危険だな。捕縛は必須だろうな」

 私と幽真による怪異事件の詳細説明は終わり、朝霞先輩が口を開く。

先輩の言うようにあの怪異は危険な存在だ。

あらゆるところに顕現する手と扉、その奥に広がる廻廊、精神的な効果を扱う正体不明の怪異。

目的も定かではなく、何をするか検討すらつかないのである。

 「とりあえず警戒体制を取るべきですよね」

「ああ、そうだな。所長に他の霊能者への注意喚起と恐山への報告を頼んでおく。後は恐山の方から本部へ伝えてくれるだろう」

 そう言って、朝霞先輩は電話ーーおそらく金田一さんへーーを始めた。

そんな中、イッキュウさんが絡んできた。

「にしても見てみたかったスね、みことちゃんのネガティブモード!」

 イッキュウさんは私を見てニヤニヤと笑みを浮かべている。

 「むぅ、そんなイジらないで下さいよ!あと変なネーミング付けないで下さい!!」

「中々面白かったですよ、みことのネガティブモード。急に落ち込んだり、やたら僕の貶しを会話に交えたり、めちゃめちゃかまってちゃんムーブかましてましたよ」

 「ちょっとはるま!?止めてよ、恥ずかしい!!」

「『ちょっとはるま』って『ちょっとタンマ』感あって使いやすそうだねー」

 「話題変えて誤魔化そうとしないでくれない?」

「ごめんってば。面白くてつい、ね」

 「ぐぬぬぅ……許さないぞぉ、門廻幽真ぁ〜!!」

「今にも丑の刻参りしそうな顔で僕を見ないでくれよ」

 「ふははは!!今に見てろ!!お前は家のテレビに突然写った井戸の中から現れる白装束の女によって呪い殺されてしまうだろう!!」

「それは丑の刻参りじゃなくて和名が指輪な映画なんだよなぁ」

 「ちなみにビデオ見たら絶対死にます、回避方法ありません」

「現代社会だとそれ地獄なんだが?」

 いつまでも終わらないコントに終止符を打ったのはイッキュウさんだった。

「……二人ってまだ会ったばかりなんスよね?」

「あ、はい。昨日ラブコメあるある展開を回避したことで知り合いました」

 「ちゃんと会話したのは今日が初めてですけどね」

 今スルーしたけど、ラブコメあるある展開とはなんぞや?

……まぁ、いっか。

「それにしてはさ、何か二人の距離近くないスか?」

 「そうですかね?普通じゃないですか?」

「確かにちょっと馴染みが早いかもしれませんが、言うほど近くないと思いますよ」

「いや、俺には熟練夫婦並に思えたんスよねぇ」

 そしてイッキュウさんは幽真に近づいてコソコソ話を始めた。

「はるま君さ、もしかして……みことちゃんに恋心抱いてる?」

「いや、全く。ただの女友達ですよ」

「え?いや、そんなこと言っっちゃってさぁ。恥ずかしがってるだけなんじゃないんスか?」

「全然恥ずかしがってないですよ。僕が愛してるのは妹ただ一人です」

「ふぅん、はるま君はシスコンなんスねぇ。やっぱみことちゃんは恋愛対象じゃないッスよね!明るい性格で顔立ちもいいけど、全体的に我がつよつよでおしとやかさが全く無いッスもんね!!」

 「おい、そこ!聞こえてますよ!!ちょっと会話内容が私に対して失礼なんだが?」

 するとイッキュウさんは私の方に近づいてきた。

「みことちゃんははるま君の事どう思ってるんスか?」

 「普通に仲良く成り立ての友人ですね。」

「いやいやまさかぁ〜。多少はそっち系の抱いたりしてるッスよね?」

 「はぁ、イッキュウさんも思ってるような感情は持ってませんから。というか失礼ですよ、女の子にそんな事聞くの」

 私の回答を聞き、イッキュウさんはどこか期待外れのように軽くため息を付いた。

そのタイミングで電話を済ませた朝霞先輩が戻ってくる。

「おい、所長のお呼びだ。帰るぞ、イッキュウ」

 「えっと、朝霞先輩、私も付いていった方がいいですか?」

「いや、今日は来なくてもいいらしい。後日時間がある時で問題ない……当然門廻も連れてな」

「僕も、ですか……」

「ああ、聞きたいことが山ほどある。それにーー」

 朝霞先輩の話を遮るようにしてイッキュウさんが朝霞先輩に詰め寄る。

「朝霞さん、聞いてくださいよ!あの二人あんな親し気な雰囲気醸し出してるのに全然恋愛意識無いんスよ!薄暗い廻廊内で何時間も二人っきりの探索してたってのに、そんなことありえるはず無いッスよねぇ!!吊り橋効果が裏切るはずが無いッス!!」

 まだこの話を続けるつもりらしい。

朝霞先輩は呆れた様子で返答する。

「イッキュウお前はまた色物話で盛り上がってるのか。尊命も門廻もまだ子供だ。それにお前の言ってる……吊り橋効果?ってやつは必ず起こるものじゃないだろ」

「なんてことだ、この場でまともなのは俺だけだってことッスか……普通青春ってのは恋愛が付き物でしょうがぁぁぁっ!!!」

 イッキュウさんは夕暮れ時の河の方面へ走っていき、大声で叫んだ。

人通りが少なめだからといっても住宅街の外れ、犬の散歩をする人やランニングする人がいるわけである。

イッキュウさんはそんな人々の異様なものを見る目を一斉に浴びることとなった。

「……イッキュウさんって面白い人だね」

 「……うん、面白くていい人だよ。少しおかしいけど」

「……悪目立ちするから止めて欲しいものだな。指摘した所で治らんと思うが」

 私達も同様に太陽に吠えるイッキュウさんを異様なものを見る目で見つめていた。

そこでふと手に持ち続けていた物質について思い出す。

 「あ、これどうしよ」

「それは……例の石か」

 「はい。結局あの手に渡す事が出来なかったのでどうしたらいいものかと思いまして」

「尊命が持っておけばいいだろう」

 「え?私がですか?」

「ああ。尊命、あの手が狙っていたのはお前だ。理由は分からないが今後近づいて来ないとは限らないだろう。もしまた奴が現れたら渡してやればいい。その前に奴が捕まったら渡しに行けばいい」

 「はぁ、なるほど……でもあの手の所縁の手掛かりになるかも知れませんし、先輩が持ってた方がいい気もーー」

「おい、イッキュウ。いい加減事務所に戻るぞ」

 私の疑問はその一声で掻き消されてしまった。

ブツブツと何か文句らしきものを唱えながらイッキュウさんは戻ってくる。

そして朝霞先輩に小瓶を渡しつつ、二人で階段を登って行った。

「何で石受け取らなかったんだろうね?」

 二人の姿が見えなくなった後、幽真が話しかけてきた。

 「さぁ?でも朝霞先輩の事だから何か目的があるんだよ」

「みことを囮に使うとか?」

 「それはないない。朝霞先輩はそんな人じゃないよ。一見冷たいように見えるけど根は凄い良い人だから」

 そんなやり取りをしつつ、何気なく河辺に近づいてみる。

さっきまでイッキュウさんが騒いでいた辺りに風車があったので理由もなく引き抜いてみる。

「綺麗な場所だね。昔住んでた時とは違う場所に感じるよ」

 「そりゃ磐戸は綺麗な場所だよ。そこに住んでる限りは分からなくても、離れてみれば分かるようになることなんていくらでもあるさ」

 橙からより暗くなりつつある河を眺めながら、私ながら良さげな事を言ってみる。

うん、これは間違いなく名言集に載るね。

 「あ……」

 その時、幽真に今まで言い忘れていた事を思い出した。

「ん?どうした?」

 私は言葉の続きを、伝えなきゃいけない事を言おうとした……が寸前で言葉を堪える。

そっか、今言わなくたっていいんだ。

そんなごく普通の事を伝えなくたっていいんだ。

その気持ちさえあれば十分なんだ。

 「……はるまってさ、自分勝手なとこあるよね」

 出しかけた言葉を引っ込め、誤魔化しの話題に移る。

丁度風が強くなり、手に持った風車が音を立てて廻る。

「意地っ張りの次は自分勝手ときたか……で、どんなとこか聞かせてもらおうか」

 「何故に上から目線なのか分からないけどいいや。どんなとこって決まってるでしょ。ほら、私に散々『ありがとう』はあまり言わない方がいいとか言ってたのに自分ではふつーに言ってたじゃん」

「うぐっ、中々急所突くね、相変わらず。で、でもさ、あの時は特別な時だから、ねぇ?別に許容範囲内だよ」

 「流石意地っ張りのはるまさん、中々非を認めませんねぇ!」

「渾身の一撃をもろ食らったな。脇腹が痛みまくりだよ」

 「ははっ、もっと褒めてくれてもいいのだよっ!!」

「別に褒めてないんだけどなぁ」

 誤魔化しから始まった漫才も区切りが付いたので、そろそろ幽真との一日は終わりを迎えることになるだろう。

あの子が待っている、私は帰らなくてはならない。

 後ろを振り向いて幽真と向き合う。

背後からの夕焼けが幽真の姿を照らし出す。

……思ったより小さいんだな、幽真って。

 「さてさて、改めましてよろしくね、はるまっ!」

「え?どうしたいきなり。まだ精神影響継続中?」

 「この後用事があってね。お別れの挨拶しようと思いましてね」

「なるほど……遂に煽りにもかまってくれなくなってしまったか」

 「あの、ほんと急ぎなんですけども。もう十分でしょ、コントは」

「はいはい、分かってる分かってる。こちらこそよろしく!次は学校で会おうな、みこと!!」

 幽真が左手を差し出してくる……のは分かりきっている事だったので、先に私が右手を出す。

「……予測されてたか」

 「一日もあれば行動パターン読み取るくらいは余裕のよっちゃんイカさ」

 お互いけらけらと笑いあい、そしてお互いの手を握りあった。

雲の向こうに沈みゆく夕日をバックに。

もう一話でようやく弐話が終わります。

楽しみに待っていて下さい。

作者 三毛猫

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