参話:学園はるま譚 其伍
ー伍ー
「おー、ようやく来たね!遅いよ、はるま!遅刻だよ、ち・こ・くっ!!」
「遅くなったのは謝るけどさ、なんか機嫌良いね、みこと」
何故かハイテンションな尊命に出迎えられながら、僕は神奈ヶ山高校へと戻ってきた。
遅れたといっても数分程度なんだけどなぁ。
本来ならば今日は活動休みの日だが、朝に起こった「1-B集団ヒステリー事件」によって臨時活動を行うことになった。
僕も丁度あの事ーークラス内の霊能者の存在について報告しようと思っていた所だったので好都合だった。
下手に昼間の内に会話をすると、その霊能持ちにバレる可能性がある。
相手が味方かどうかは現状分からないのだ。
どうせなら、生徒のいない夜にやり取りした方が得策である。
「それで、紹介したい人って?」
僕はあの事を伝える前に尊命の用事を優先する事にした。
別にその後でも遅くないはずだ。
尊命は連絡サービスの【Root】にて内部調査の前に会わせたい人がいるとの連絡をしてきた。
しかし、校門近くには僕と尊命以外の誰もいない。
中で待っているのか?
「あぁ、ほら、そこにいるでしょ」
尊命が指差したのは二宮金次郎像付近。
だけど、やっぱり誰もいない。
「みこと、誰も居ないんだけど……」
「あー、伝え方が悪かったかな。正確には人じゃないんだよね」
「じゃあ怪異?でも、それにしたは気配が無さすぎでは……」
「怪異でも無いかな。もっと正確に言うと人じゃないけど人なんだよ」
……全然理解が出来ない。
人じゃないのに人ってどういう事だ?
「みこと……もう会話に加わってもいいか?」
突然何処かから渋めの声が聞こえてきた。
僕は周りを見渡すが、何処にも誰もいない。
一体誰が、何処に隠れているんだ?
「うん。もう動いていいよ!」
尊命の返答と共にある一点から霊気が溢れ出す。
その位置はさっき尊命が指差した、まさにその地点。
「よう、門廻幽真。初めまして……まー、わしからしたらお主はいつも顔を合わせてる仲のつもりなんだが……」
声を発していたのは……二宮金次郎像その人……そのものだった。
しかも、いつもの歩いている最中の状態から、胡坐をかいてこちらを見ている状態に変わっている!
「確かに……人じゃないけど……人、だな……」
驚きのあまり、僕は尊命の言葉を繰り返すNPCのようになってしまった。
そりゃあ当たり前だ、いつも前を通り過ぎていた銅像がさも当然の様に動き出したのだから。
「自己紹介する必要も無いとは思うが念の為。神奈ヶ山公立専門科高等学校の【七不思議】が三番、【夜な夜な独りでに動き出す奇怪な銅像】二宮金次郎とはわしの事よ!!改めて以後宜しく頼むぞ、門廻幽真!!」
銅像とは思えない程の滑らかな動きで、二宮さん(仮称)はジェスチャーを交えた自己紹介をする。
先日の帰り際、尊命が二宮金次郎像に一礼をしていたのはこれが理由だったのか。
二宮さんの自己紹介から一つ疑問が生じたので質問をする。
「すみません、【七不思議】と他の怪異の違いがいまいち分からないのですが……」
「んぬ?門廻幽真は霊能者だろう。ならば知っていて当然じゃあないか?」
「あー、はるまは霊能者では無いんですよ。協力関係にある祓い屋なんです」
「何ぃっ!!」
二宮さんは台座から飛び降りて尊命とコソコソ話を始める。
……降りれるのか、台座。
その上アクロバティックな動きだ。
通行人に見られたらどうするつもりなのだろうか?
「……つまりは話しても問題無いと?」
「……ええ。はるまは信用出来ますから」
「承知した……さて、門廻幽真。お主にわしらの役割を教えてやろう。【七不思議】とは学校を管理する怪異七体を指す言葉だ。学校という施設は怪異の溜まり場になりやすい。子供心から成る感情、それらが豊富にある学校は、怪異を生み出し、怪異を引き付ける、そんな地点なのだ……ここまでは理解出来たか?」
「それは知ってます。それで、学校の管理って具体的には?」
「そう急かすな。順繰りに説明していくからな。それでだ、当然のように学校は霊能者の見回り区域に含まれることになるが、一つ問題がある。門廻幽真、お主なら答えられるだろう?」
「……部外者は内部まで入れない事ですね」
「そのとおり。近年では教育体制の見直しが行われ、学校への霊能者の侵入調査が難しくなってしまったのだ。そこで、わしらの出番というわけだ。各学校で信頼に値する怪異等に【七不思議】の称号を与え管理職に任命させる、【霊峰院】はそのようにして対策を取ったわけだ」
「ということは、【七不思議】になる事には何かメリットがあるって事ですか?」
「さよう。【七不思議】の称号を持っているモノは永続的な霊力供給が保証される。その代価として、わしらは学校内での怪異管理、外部からの怪異の立ち入り規制、異常事態の報告等を行うのだ。この学校にはわしの他に6の任命者が存在している。一番【四階女子トイレの幻の四番個室】、二番【踊り場に現れる存在しない大鏡】、四番【校庭を駆ける見えざる落ち武者】、五番【立入禁止の屋上の白ワンピースの女の子】、六番【音楽室で鳴り響く古ピアノの音色】、そして七番【知ってはいけない七番目の怪】……それぞれが担当区域を分け、学校内の管理を行っているのだ」
「私はまだ全員と会ってはいないんだけど、多分皆良い人だと思うよ。これから幽真も関わっていく事になると思うけど、安心して関われば良いよ」
「多分、とはなんだ?わしは良い人だろう……人ではないが」
「あはは、二宮さんは良い人、ですよ……人じゃないけど」
いまいち実感が沸かない。
各学校に【七不思議】が居るなんて到底思えない。
居るとしたら、何故僕の霊能探知で今まで発見出来ていないんだ?
「うぬ?腑に落ちん顔をしているな……あぁ、そうか。例の霊能探知能力の事か」
「え?何で知ってるんですか?」
「イッキュウの奴が言っておったからな。で、お主の疑問への答えだが……わしらはそれぞれが【廻廊】を持っているのだ」
「えっ!!【廻廊】使えるんですか!?」
【廻廊】は相当に高度な技術、個人で主有するのは極めて困難なものだ。
使い手は大抵、前回の扉の怪のような精神に異常を持つもの、想像力に優れたもの、霊能テクニックの極地に達したものである。
それを各学校に居るという【七不思議】全てが所有している等、到底あり得ない事なのだ。
「あぁ、そうだ。まぁ、わしらの【廻廊】は正確には【霊峰院】から譲り受けたものだがな。簡易的な仕組みの【疑似廻廊】とでもいうべきか。その中にいる間はお主のような探知能力持ちにバレないようになっておる」
「はぁ、なるほど……でも、二宮さん、いつもそこに立ってるじゃないですか」
二宮金次郎像は常に校門付近に佇んでいる。
当然その間は【廻廊】に入っているはずがないだろう。
「だから、二宮さんは怪異じゃないんだよ。はるまは【付喪神】って知ってる?」
「……名前だけは。確か、物に魂が宿って怪異化したモノだよね?」
「うーん、ちょっと違うね。付喪神は怪異より【霊体】に近い存在なの」
「あれ?霊体って怪異の一種なんじゃ……」
「お主、全然霊界の基本すら知らないな。仕方が無い、わしが教えてやろう。【霊峰院】の定めた法則によると、感情という【概念】が形を成し、【魂】と仮の【肉体】が生成された存在を怪異という。一方、死した生命より流れ出た【魂】、強い感情による【概念】、もしくはその両方が明確な肉体を持たずに彷徨っている状態、それを【霊体】という。【付喪神】は本来尊大が不安定な【霊体】が【魂】を持たないモノに憑着し、【肉体】を得た状態をいう。その逆として、【魂】を持つ【肉体】に【霊体】が【憑依】する例もある。まぁ、大まかに見ればどれも同じようなモノだがな」
「二宮さんが付喪神である事は理解しましたが、それとさっきの話に何の関係があるのですか?」
「実に単純な事だ。【肉体】であるこの像から【魂】であるわし本体を分離させたのだ。そうすれば、【廻廊】の出入り等容易い事よ」
そんな器用な事が出来るのか……。
にしても怪異と霊体にそのような違いがあるだなんて知らなかった。
……尾尻は一つも教えてくれなかったわけだけど、僕の事を信用していなかったのか?
そうだとすると、なかなか悲しくなるな。
「あれ?【七不思議】の方々がいるなら、僕らが活動する必要無いのでは?」
「それがなぁ……今この学校に集まっている怪異は外部から来たものではなく、内部から生まれたもののようでな。新しい施設である為、これ程怪異が集まるのは異常で、その上原因も不明なのだから、霊能者に調査を依頼するのは当たり前だろう」
「だけど、例の如く敷地内への立ち入り権利は学校が持っている……だから私達が内部調査を行ってるの」
「にしても何故【霊峰院】は調査許可のような手間の掛かる作業をお主らのような事務所にやさせるのか……どうせならあちら側が手続きをしてくれれば、ある程度の無理は通るのにな」
「きっといろんな理由があるんですよ。それにあちらが何もしてないわけじゃないみたいですよ。【霊峰院】の方々だって、給料やら保険やらを設けてくれてるらしいので……」
「えっと、割り込む形になるんだけど、さっきから話題に上がる【霊峰院】って何?」
尊命、二宮さんの両方が僕の発言に目を丸くする。
直後に二人揃って呆れたような溜息を吐く。
「え……はるま、【霊峰院】も知らないの?」
「……【霊峰院】は霊能界を取り仕切る総本部、霊能界における法律や方針、それらは全て【霊峰院】によって定められている。まさか、門廻幽真がそこまで世間知らずだったとは。『驚き桃の木山椒の木』だな」
「あの、二宮さん。それ、死語です」
「むむ、そうなのか。時代というのも過ぎ去るのが早いものだな。これが『ぴえん』というやつか」
「二宮さん、それは死語では無いですが、あなたが使うべき言葉じゃないです」
なんかさっきからハブられてる感があって嫌だな……。
その上、僕は質問しかしていない。
どうにかこの流れを変えたいが、やはり気になる事は聞き切ってしまわないと。
「何度も質問して申し訳ないのですが……」
「門廻幽真、お主は本当にせっかちじゃな。聞きたい事を聞かずにはいられない、そういう性分といったところか。その内心は分からなくもないが、あまり物事に焦るのは良くないことだ。一度に多くの事を学んで、お主はそれを全て覚えていられるか?何事にも順序は大切だ。学ぶのも、ただ聞くだけでなく、見て、体験して、その積み重ねが形と成っていく。お主の聞きたい事もこれからの活動の中で分かってくるだろうから、一旦は長々とした説明会はお開きにしよう。わしもそれなりに体力を使うものでな。それに……尺を使いすぎだ」
途中まで良い事っぽい事を言っていたのに、最後の最後でこの人ネタに走っちゃったよ。
少し前のメタい系のギャグ漫画で頻繁に使われていたやつを現実でやっちゃってるよ。
ついでに明後日の方向を見て極め顔をしているようだ。
二宮さんって、時代遅れ気味なのかな?
「まぁ、そうですね、うん。とりあえずは話題、変えましょう、かね?」
「あーあ、二宮さんが変なネタ入れてくるから、はるま引いてるじゃないですか。ほんと、恥ずかしいので止めてくださいよ」
精一杯の作り声を出したが、尊命には心情を読まれてしまったようだ。
「うぬぬ、中々場の和ませは上手くは上手くいかないものだな」
「そうですね、なんなら冷え冷えですもんね」
「それ以上弄ると、わし、泣くぞ?……ごほん、それではいい加減本題に入らせてもらおう」
「本題……尊命が僕に二宮さんを紹介した理由ですね」
「うん、そうだね。結論から言うと、例の『集団ヒステリー事件』の元凶の怪異の正体について語り合おうって事」
「大体予想は付いてたけど、やっぱその通りだったか」
霊能知識に乏しい僕でも確実に理解をしている事がある。
それは、正体不明の恐ろしさだ。
怪異には沢山のタイプがいるが、その中でも正体の分からない事象は危険である。
たとえ怪異自体が低級だったとしても、正体不明に対する恐怖心はその存在を大きく歪ませる結果となる。
「今まで対象が一人から数人だったその怪異が、今朝の事件では対象が一クラスほぼ全体になった。すなわち、その例が示すのは怪異の存在が歪んだ事だろうな。ほぼほぼそれで確定だろう」
「問題は正体が分からなければ、私の剣技も上手く作用しない事。だから、この場で犯人の正体を暴いちゃおうって事なの」
【霊能】、それは認識に大きく作用される。
先日の【廻廊】内にて尊命が手の怪異を払い除ける事しか出来なかったのも同様の理由だ。
分からないものには有効打を打つ事が出来ない、だからこそ僕らは調査を行い、それを基として対処を行うのだ。
「じゃあ、まずは事件の概要をおさらいしとこっか」
「最初の事件は確か……冬休み明けに起こったんだよね」
事件の発端は前年度の1月の末、今から3ヶ月ほど前に起こった。
現在三年生の先輩が最初の被害者になった……と思われる。
というのも、その当時はまだ影響が小さく、通常の体調不良との判別がつかないからだ。
少し吐き気や目眩がする、その程度だったのである。
その後にも数件の似た事例が、一週間から二週間おきぐらいの感覚で連続したらしいが、今となっては判別がつかないので飛ばさせてもらう。
そして、明確な事件は3月の中旬、終業式の前日に起こった。
「当時一年生だった生徒が教室内で突然倒れ、病院に運ばれる事になった。その他数名がこれまでと同じような体調不良を訴えたという。結果として教室内の酸素不足による呼吸困難とされたそうだが、症状的にも無理があるだろう。つまりは学校側、病院側、その両方がお手上げ状態になった、そういうことだ。ちなみにその生徒はその日のうちに体調が回復したそうだ」
「後は……春休みの休校中に、点検の職員が被害に合ってるのと、警備員の方が倒れた事かな。そして、今朝の事件の前、入学式の後にも同じ事が起こったね」
「ちょうど僕らが校内を一通り探索し終えた頃だったかな。二年E組の生徒二名が被害にあった。放課後、空き教室で休憩をしてたら体調が悪化したらしいね。それで教室から友人に運び出されて、暫くしたら回復した。僕が確かめた時は、教室内にまだ霊力の残り香が漂っていたけど……残念ながら本体の発見には至らなかったんだよね」
そして今日に至る。
どの事件も人によって症状がまちまちだが、一つ明確な共通点がある。
「……全てが教室内で起きている」
「そうだな。しかし、それでは怪異の正体の検討すらつかない。教室内で体調不良を起こす怪異という情報のみでその本質を読み解くのは用意ではない。他に何か特徴はないものか……」
「そういえば、この学校って元々沼のあった地点に建ってるそうですね。一部では地盤沈下による揺れが原因だと言われてるそうなので、もしかしたらそれに関係する怪異なのかも……例えば学校を覆うような、そんな規模の怪異とか」
「それは無いんじゃないかな。学校全体で体調不良を起こせるならまだしも、一教室単体しか起こせない理由にはならないよ。それにそんな巨大な怪異なら、僕の検知を逃れられるはずがない……恐らくは低級怪異が歪んだものなんだと思う」
「むぐぐぅ……そっかぁ、そうだよなぁ」
「……補足するとこの新校舎は沼の上に建っていない。それは旧校舎ーー【神奈ヶ山高等学校】校舎と校庭の一部の事だ。だから地盤沈下説もありえないだろう」
「うあー、全然分かんないよぉー!手詰まりだぁー!!」
「そうだね……せめて僕が見つけられれば良かったんだけど……」
他の霊気なら判別が可能なのに、例の怪異を何故か僕は追うことが出来ない。
その原因さえ分かれば良いのだが……。
「一旦話題を切り替えよう。時間が経てば新しい答えが見つかるかもしれないからな……さて、九院坂尊命、お主に例のものを返してもいいか?」
「あ、読み終わったんですね!どうでした?」
「そうだな……おっと、門廻幽真が居る此処でネタバレは止めておこう。お主らの今後盛り上がるかもしれない話題を潰してしまうのは良くないからな……よっこらせっと。面白かったぞ、また次巻を楽しみにしている。これで足りているか?」
別にそんな気遣いしなくたっていいんだけどなぁ。
二宮さんは土台の中央を開け、中から漫画を取り出す。
……そこ、開くんだ。
しかも少し古いぞ、この漫画。
「ちなみにこれがわしの【廻廊】だ」
「【廻廊】の中に漫画入れちゃってるんですね」
「案外読み心地は良いものだぞ!お主も中で読んでみるか?」
「いえ、結構です……」
そもそもそんな狭いとこに入れませんからね、普通の人間は。
そんな会話をしていると、リュックに受け取った漫画をしまっていた尊命が、二宮さんに冷たい眼差しを投げかける。
「二宮さん?これ、何ですか?」
尊命の手にはあまり言葉にするべきものではない本ーー所謂薄いヤツが握られていた。
二宮さんは見るからに顔が青ざめていく……銅像なんで色は変わらないけども。
「い、いやー、間違えて渡してしまったようだな」
「これ、誰から貰ったんですか?」
「残念だが、プライバシーは守らなくてはーー」
「誰ですか?」
「……イッキュウから渡されました、はい」
二宮さんは尊命の圧に押されてイッキュウさんの名を挙げた。
うん、まあ、そうでしょうね。
「はぁ、昨日敷地内に入って来たのはそのせいか……後で金田一さんに報告しよっと」
グッバイ、イッキュウさん。
どんまい、イッキュウさん。
さて、話も一段落付いたようだし、そろそろクラス内の霊能者の件を言い出すか。
「あのさ、尊命。少し話をしてもいいか?」
「ん?どしたの?」
「今朝、気づいた事があってさ……実はーー」
まさに僕が言い出そうとしたその瞬間、学校から不穏な霊気を感知する。
しかも、この霊気……。
「実は、の続きは?」
「それどころじゃなさそうだよ……見つけたよ、例の事件の元凶を」
「なぬっ!?つまりは奴等の霊気を感じたということなのか?」
「はるま、凄いじゃん!……けどさ、今まで霊気を感じなかったんでしょ?じゃあ何で今感知できたの?」
そう、そこなのだ。
確かにこの気配はあの怪異で間違いないのだが、一体どうして……。
いや、一つだけ可能性がある。
「尊命の言ってたのはある意味正しかったのかもしれない」
「私の言ったこと?」
「学校を覆うほどの怪異、僕はその考えを巨大な怪異として認知したけど、そうではなく沢山の同一の怪異が学校中に散らばっていたとしたら?」
「なるほど!怪異にも曲がりなりにも種類がある。同じ系統が学校中に散らばっていたから、気配察知が難しくなっていた、そういうことか」
「ちょっと違いますね。それならば少なからず霊能探知自体は出来るはずです。僕が言いたいのは……集団で一つの怪異だという事です。そして、それは学校全体に宿っているんですよ」
僕自身が感じていたじゃないか、常に神経に負担がかかっていると。
それは磐戸に居るせいだと考えてきたが、違ったのだ。
僕は初日からこの怪異を探し、神経を尖らせていた。
学校そのものに宿る怪異群なのであれば、学校を探索するだけで疲れるに決まっている。
「そうなると相手は相当低級の怪異達……話が通じない可能性があるね」
「多分だけど、話通じないとかそんなレベルの問題じゃないかも」
「え?それはどういう……」
「一箇所で強力な霊力を感じたから、確実に存在が歪んでると思う。それと……」
あまり考えたくない展開だが、恐らくは……。
「1−Cに目標は居るよ。それも多分、誰かを襲ってる」
僕の言葉が終わる前に尊命は走り出していた。
僕も尊命の後を追いかける。
「わしは何も出来ないが、お主らの活躍を応援しとるからな」
背後で二宮さんがそのように言った。
あー、存在忘れてて、挨拶一つ無しに飛び出しちゃったよ。
まぁ、帰りに挨拶すればいいか。
僕らはすっかり闇に包み込まれた校内へと入っていくのであった。
「……お主は追いかけなくてもよいのかな?」
わしこと二宮金次郎は校門前の影に語りかけた。
わしらが会話をしている時から影は居た。
そして影の正体は見知った人物だ。
「……」
「傍観か……お主が向かえば百人力だろうに。」
「……」
「わしか?わしは傍観等していない……いや、これも一種の傍観か。あながちお主も間違っていないのかもしれないな」
「……」
「……そうか。それがお主の選択か。ふっ、わしは何も言わんからな。人の選択にケチつけるほどに愚か者ではないわ……その上、お主はある意味大先輩だからな」
「……」
影は最後の言葉を残して姿を消す。
一瞬、辺りを舞う布の端がその影の翼に思えた。
「まるで天使のようだな……いや、ここは敢えて死神、と表現すべきかもな」
夜の帳はいよいよ幕を下ろす。
あの二人の夜明けは一体いつになるのか。
影の主とどのようにして運命が絡み合っていくのか。
わしは独り、漫画でも読みながら傍観しておこう。
その【縁】と【ゆかり】の物語を。




