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台所戦争

作者: Open

ここは第20宇宙レオパース。


この宇宙ではヤヌシと呼ばれる巨大生物が徘徊していた。


この宇宙に住まう者達はヤヌシの他にショク=ザイと呼ばれる民族が暮らしている。彼等はヤヌシの血肉となり、一体化するために日夜己を磨き、時には切り刻まれ、時には焼き討ちにされ、また時にはグラグラと煮立った熱湯の中に放り込まれるということまでされていた。


だが彼等の目的はヤヌシの一部となること。苦しみの後に自分たちの目標が達成できるのであれば本望であった。


この物語はヤヌシの血肉となるべく奮闘する住人達の物語である。







「伝令!伝令!ヤヌシが帰還した!総員第一戦闘配置!急げ!」


母艦レイゾウコの中で艦長である第68代目艦長であるベーコン提督が艦員達に指示をだし、それに従い艦員達はそれぞれの持ち場に着く。


「オペレータ、本日の献立予測はどうなっている。」


「はい、本日早朝、ヤヌシは冷凍休眠エリアから鶏モモ大尉を移動。また、昨日付で鶏モモ大尉の専用武装として唐揚げ粉が支給されたことから本日の献立は唐揚げとの予測が出ております。」


「よし、ならば鶏モモ大尉をカタパルトへ。唐揚げ粉装備だ!姉妹艦スイハンキの方は?」


「すでに白米20万粒の大部隊が準備完了とのこと!」


「いつにも増して随分と多いな……何か情報は?」


「不明です!」


オペレータからの報告に眉間に皺を寄せるベーコン提督。そして


「まさか……唐揚げと白米だけで夕食を終えるつもりか!いかん!このままではバランスの悪い夕飯となり、ヤヌシが倒れてしまう!キャベツの出撃はいけるか?!」


「駄目です!先日6代目が殉死して以降7代目が着任しておりません!」


「くっ……ならばレタスだ!レタス中佐を出撃させろ!」


「了解!」



・・・



『カタパルト接続。唐揚げ粉装備スタンバイ。保存状態良好。ハッチ開放。鶏モモ大尉発進どうぞ』


「鶏モモ大尉。行くぜ!」


鶏モモ大尉はヤヌシの身体の一部となるべく母艦レイゾウコから飛翔した。



・・・



ザクッ……ザク…・…


「ぐあああああああああ!!!」


カラカラカラカラ……


『うおおおおお!なんの……これしきいいいい!!!』


通信から高温の油の中でのたうち回る、細切れになり、唐揚げ粉を全身に塗布された鶏モモ大尉の絶叫が響き渡り、それを聞いた艦員達はそろって目を伏せ、中にはすすり泣く者までいる。


「鶏モモ大尉……いや、唐揚げ中佐……耐えろ……その先にはお前の目指していた物がある……!」


“俺は誰よりも美味しく食べられてヤヌシの身体の一部になるんだ!”


いつだったか鶏モモが語っていた彼の夢。それを思い出し、提督は目を伏せる。そして、鶏モモ大尉の絶叫が聞こえなくなり、唐揚げが完成した。その時だった。


ピーンポーン


艦内に警報が響き渡る。


「一体どうした!」


「た、大変です!あれは……隣宇宙に住むヤヌシからのサシイレ……!敵襲です!」


驚愕を浮かべながらモニター越しにレオパースと外宇宙を繋ぐゲンカンを見やるベーコン提督。そこには、この宇宙のヤヌシが隣宇宙のヤヌシから夕飯を裾分けしてもらっている光景が


艦員達は裾分けでヤヌシが受け取っていた物に釘付けとなっていた。そこにあったのは数時間コトコト煮込まれたであろうビーフシチューが小さな鍋に入っていた。


「な、なんということだ!圧倒的完成度……ええい!隣宇宙のヤヌシはバケモノか!」


「大変です!ヤヌシの食欲中枢が刺激されていきます!計測不能!!このままでは唐揚げ中佐が翌日の夕飯まで残る可能性大!」


「なんということだ……このままでは命を投げ打った鶏モモが浮かばれん……何か手は……」


美味しく食べられてヤヌシの身体の一部になるという彼の願い。それを叶えるために提督は必死で辺りを見渡す。


その時だった。ベーコン提督の目にレモン汁と缶ビールが映ったのは。


「オペレータ!すぐさまハッチ開放!缶ビールとレモン汁を射出せよ!必ずや唐揚げ中佐の元に届けるんだ!!」


「了解!」


母艦レイゾウコから缶ビールとレモン汁が射出される。その時には隣のヤヌシからもらったビーフシチューは空になっているのにもかかわらず、唐揚げのほうはほとんど手をつけられてはいなかった。


カシュッっという小気味よい音と共に缶ビールが開けられ、ヤヌシの喉を潤していく。


「頼む……頼むぞ……」


ベーコン提督は必死に祈る。そして……


「提督!ヤヌシがレモン汁を手に取り……唐揚げ中佐にかけました!一つ、また一つと唐揚げ中佐が家主の口の中へと消えていきます!」


みるみるうちに唐揚げ中佐の身体はヤヌシの身体の中へと消えていき……そして


「唐揚げ中佐!完食されました!!!!」


艦内には唐揚げ中佐を絶賛する歓喜と祝福の声。そして彼を偲び、すすり泣く声が響き渡る。そして、そんな喧噪の中、ベーコン提督は静かにモニターへと近づき


「これで……良かったんだな……鶏モモ……」


空になってしまった皿を見つめながら静かに涙を流した。


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