日付変更線
「〈さびしい〉と〈きれい〉は似ている」
そんなことを誰かが言ってたっけ。
飛行機が離陸して数時間。
機内の照明が落とされ、天井に埋め込まれた小さなライトが、ところどころに点っている。隣の乗客は小さな寝息を立てているが、どうにも眠れずにいた。
海を、太平洋を、越えていく。
日付変更線を越えて。あるようでない、ないようである、境目を越えていく。
飛行機の小さな窓に、細かい氷の結晶がはりついていた。窓から見えるのは、ふるえる翼と、宇宙のグラデーション。
くらい雲海から天空へ向かって、焦れるような朱色から橙色へ、ほのぼのとした黄色から水色へ、そして濃紺から黒へ。夜と宇宙が繋がっている。
今日から昨日へ、夜から朝へ、逃げていく。
夜明けまで、もうすぐ。
2021年5月4日 改訂