1話 転移は思ったより物理的
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異世界、ネット民なら1度は夢見ているだろう。異世界小説を見ては自分ならこうするだろうと思考する。
誰も現実であるわけないと分かっているからこそ創造し、妄想して楽しむのだ。
俺もついさっきまではそう思っていた。
だがこの白い空間と、目の前に立つ全身白で統一された美少女を見たら少し信じて見ようかと思うのも無理はないと思う。
腰まで伸びた白い髪は汚れひとつ無いシルクを想像させ、どことは言わないが主張の激しい2つ山、それとは裏腹に折れてしまうのではないかと思うほど引き締まった腰、こんな完璧な造形の人間存在していいものなのか。
(天は二物を与えないと言うけど与えすぎじゃないか)
「天なんだから二物も何も無いのだけどね」
(心の声に反応した!なんてベタな反応はしないぞ……心の声が聞こえたと思ったらダメだ、きっと、みんな同じような反応するんだから……これはメンタリズム……これはモニ○リング……)
「騒がしい子ね、そもそも心も何も、体がないんだからそれで信じなさいよ」
(え……そう言えば手足の感覚が何もない……あれ、俺の手と足どこ行ったんだ……)
「やっと落ち着いた?それじゃあ本題に入るけど……」
(ぎゃぁぁぁ!!、今俺頭だけって事かよ!、何それ怖い!)
「体っていうのは物質体の事よ!あんた騒がしいって普段から言われない?」
呆れたようなどうでもいい様な表情で女はそう言った。
(魂だけの状態って事か?、お前もこの状態なら見た目と話し方が合ってないなんて落胆されなかっただろうに……)
「急に落ち着くのとサラッと悪口言うのムカつくんだけど……!貴方、今の自分の状況分かってる?」
女は悔しそうに拳を握るとそう言い放った。
(もしも、植物状態で神様と名乗る美少女が居たら、信じる?信じない?ですよね、ちゃんと分かってますって)
「なんでモニ○リングとしか思わないの!?そもそも人を植物状態にしてまでドッキリするとか怖すぎるからね?……それと訂正だけど」
女は少し疲れた表情でそう言い、片側の頭を抑え、話を続ける。
「私は1度も自分が神様だなんて言ってないわよ」
(白い部屋にいるのに?女神設定じゃないの?)
「設定でもなければ女神でもありません。私は異世界転移を担当している、言わゆる天使です」
(異世界転移を担当?どゆこと?)
「貴方達日本人は少し勘違いしてるのよ。神様が複数居てそれぞれの役割に従って動いてると思ってるでしょ?それ自体が間違いなの。」
そう言うと女はタブレットのような物をどこかから取り出して説明を始めた。
「神様は1人しか居ないの。ギリシア神話の影響なのか神々って認知されてるけど、実際は神様とその他天使達の集まりなのよ。」
(ん〜……簡単に言うと?)
「会社のようなイメージかしら?神様を社長として課や部なんかがある感じ」
(あ〜何となく分かった)
「本題に入るけど、貴方にはとある世界の調査を行って欲しいのよ」
(その前に1つ聞いていいか?)
「何?」
(俺いつ死んだんだ?トラックに轢かれた記憶とかないんだけど)
「あ〜、聞きたいなら止めはしないけど、聞かない方が良いわよ?」
(死んだ覚えがまるでないから聞いときたいんだ)
「じゃあ、時間もないし端的に言うけど、貴方しゃっくり止まらなくて色々やってたでしょ?」
(水飲んだり息止めたり、飴玉食べたりもしてたな)
「そう、それがいけなかったのよ。飴玉を食べてる時、運悪く喉に詰まらせてそのままポックリ行ってしまった……丁度100回のしゃっくりだったかしら」
(老人か!)
「まさか100回超えると死ぬのが本当だなんて思わなかったわ……こっちまで悲しくなっちゃう……それで、調査の内容なんだけど」
女天使はわざとらしく涙を拭くと、ケロッとした顔で話を続けた。
「普通に生活してもらうだけで良いわよ。こちらの世界の人間があっちでまともに生活出来るかどうか見るだけだから」
(生活してる所見て楽しむなんて……神様も変な趣味してるな)
「違うわよ!近々魔王が復活するらしいから勇者を呼ばれる可能性が高いのよ。それで念の為、様子見で貴方を転移させるのよ。貴方のデータをベースに今回の勇者のギフトを決めるわけ」
(なるほど……勇者とか魔王とかって事はやっぱ魔法バリバリのファンタジーな世界なのか?)
「そうよ、数百年前に送った勇者の文化が残ってるわよ。お米や味噌なんかもあるから運が良ければ食べられるかもね」
(お米があるのはありがたいな、余裕が出来たら探してみるか)
「ま、頑張ってください。そろそろ疲れてきましたし送りますね」
(ん?ちょっと待て、なんかしらのチートみたいなのは貰えないのか?)
「1度死んだ身を生き返らして憧れのファンタジーライフ送れるんだからもう充分貰ってるでしょ」
(一般の日本人を放り出して生きてけるわけないだろ?)
「それにチートはあげられないけど転移中通る次元の狭間って所でマナを吸収しながらあっちに適した身体に変化するから、一般人の数倍〜数十倍くらいの魔力量になるわよ。じゃ、またね」
女がそう言うと俺の真下に巨大な虹色の穴が開き、ダイソン顔負けの吸引力で俺を引っ張りだした。
(ちょ待て!!なんか吸い込まれてるぞ!まだこっちの話は終わってねぇんだ!)
「そのまま降りてけば異世界にご招待なのでさっさと降りてください」
さらに吸引力が増し、ついには完全に吸い込まれてしまった。
(せめて武器か金の交渉をさせやがれ!!)
まだ手を前に出せば届くであろう距離、全力で流れに逆らうように進もうとするとほんの少しであるが流れに逆らって動いた。
(生身1つでゼロからなんてやってられるかぁ!)
《イレギュラー、空間魔法への抵抗を確認しました。(うるせぇ黙ってろ!こっちは今忙しいんだよ!)しました》
耐えれば耐えるほど吸引力が強まっていき、少しずつ後ろに下がって来ているらしく、穴がどんどん遠くになっていき、その空間から完全に消えてしまった。
「なんなのよあいつ……次元の狭間であんなに耐えるなんて、恐ろしいくらいの執念ね……」
白く何も無い部屋で、天使のため息が木霊していた。
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