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他人行儀になった幼馴染美少女と何故か一緒に住むことになった件  作者: 戦告
第3章「中学と高校は雲泥の差」
98/300

第98話「耳掻きもしますよ」

レビューを頂きました(*´ω`*)(*´ω`*)


「よいしょ」


 可愛い声を聞きながら、頭が再び持ち上げられる感触がしたかと思うと、柔らかい桜花の腿へと着地した。


「本当にするとは思わなかった」

「やりますよ。翔くんも嬉しいでしょう?」


 殊勝に言ってくる桜花に堪らず白旗を上げた。翔はもうすっかり自分で閉じてしまっていた記憶を取り戻しており、桜花の事は大体分かっているつもりだったのだが、それよりも桜花は翔の事を知っているらしい。


 何もかも知られているということに気恥しさもあったが、同時に嬉しくもあった。


 相手に知られるというのがどれほど嬉しいことか、翔は身に染みて感じていた。


「痛くはないですからね」

「心配はしてないよ」


 もしも桜花に膝枕された挙句、耳掻きもしてもらった、とカルマに自慢するとどうなるだろうか、と考えた時に、からかわれたあと蛍へと擦り寄っていくのが容易に想像された。


 あの二人は高校で初めて会ったはずなのに今では翔達と負けず劣らず仲がいい。


 余程馬があうのか、それともカルマが途方もなく甘えん坊なのかは知る由もないが、時々羨ましいとすら思える時があるのは事実だった。


「ふーっ」


 ぞくりと耐え難い感触に見舞われる。無意識に反応してしまい、頭上から悪戯っ子のような声が掛かる。


「もしかして耳が弱いのですか?」

「さ、さぁ」


 慌てて言葉を取り繕うも、それは肯定しているのとほぼ変わりがなかった。

 桜花はそれはもう嬉しそうに笑みを浮かべると、執拗以上に耳に息を吹きかけてきた。


「タイム!!ストップ!!」


 翔が我慢できなくなり叫ぶ。このままでは力が抜けてふやけてしまいそうだった。

 これ以上溶かされては桜花がいないと生きてはいけない身体になってしまう。


「ごめんなさい。おふざけが過ぎました」

「ふーっ!ふーっ!」


 完全に息が上がってしまい、翔は日本語を話すことすらままならない。


「耳が弱いなんて知りませんでした」

「僕だって弱点が知られるとは思わなかったし、耳が弱いなんて思ってなかったよ」

「発見できましたよ」

「うん、全然嬉しくないや」


 弱点を発見して喜ぶのはMの人ぐらいだろう。翔は間違ってもその道には進まないので、嬉しくはない。むしろ、桜花に知られてしまったのに自分は桜花の弱点を知らないなんて!とまで思っていた。


「今日のところはもうしません」

「今日のところは?……明日以降はあるのか」

「どうでしょうね」


 そうそう、耳に息を吹きかけれるような場面が現れてくるとは思えない。強いて言うなら今だが、翔がこれから膝枕をしてもらわなければされることもないだろう。

 どうしてもして欲しい時は覚悟を決めなければならない、ということだろう。


「桜花の弱点は?」

「はい?」

「僕だけは不公平だろ。今日はしないけど、明日以降はする……かもしれない」


 少し理不尽のような気がしたが、押し通すしかないだろう。

 翔は下から桜花を見上げる。


「不思議な感じがします」

「ん?」

「いつもは翔くんの方が背が高いのでいつも見上げているのは私なのに、今日は翔くんが私を見上げていて」

「膝の上に乗ってるしな」


 わざと膝枕というのは躊躇われた。


「それはそうですけど。翔くんが幼く見えます」

「幼稚園児?」

「具体的な事は分かりませんけど、いつもよりもあどけなく見えます」

「褒めてる?」

「褒めてますよ。可愛いですね」

「う〜ん……。それは僕で遊んでない?」


 桜花が翔の頭を撫でる。

 随分とお気に入りのようでずっと撫でられているような気がする。

 それがまた絶妙な力加減で睡眠を誘発してくる。


「そういえば、カルマが今度ダブルデートをしたいって言ってた」

「前にも似たようなことがありましたよね」

「あれは僕達がまだ付き合ってなかったからノーカウントらしい」

「私は構いませんよ」

「分かった。伝えとく」


 翔にしては何気なく、聞くことが出来た。

 桜花の答えも予想していた通りのもので、内心、やった!と思いながらも平静を装った。

 翔もまだまだ捨てたものでは無いらしい。

 桜花の思考を読める。


「翔くん」

「ん?」


 しかし、その翔の結論はすぐに壊されることになった。

 桜花が翔の名前を呼んだかと思うと、腰を折り、翔に接近してきたのだ。元々桜花の上に乗っている形なので、桜花が腰を折れば近くなるのは当たり前なのだが、顔と顔が触れ合う寸前で止まった。


「このまま行くとどうなってしまうのでしょうか」

「それは……」


 キス。

 このまま目を閉じてしまえばその雰囲気へとなってしまうのかもしれない。あるいは翔が動かなければ桜花がそのまま重力に任せて覆い被さってくるかもしれない。


 翔が動けば今度は桜花が目を閉じるかもしれない。


 どれにしてもその未来しか見えてこなかったのに翔は次の言葉を出すことが出来なかった。


「それは?」

「……」

「冗談です」


 ふっ、と笑ったかと思うと遠ざかっていった。目をぱちくりとさせ、今起こったことを整理しようとするが、いつの間にか緊張していて、それが解けて脱力に見舞われて何もする気が起きなかった。


「さぁ、反対向いてください」


 反対を向くと、そこには桜花の身体が視界いっぱいにいて、慌てて目を閉じた。


 翔はやっぱり、桜花の考えている事は、分からない、と匙を投げた。



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