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他人行儀になった幼馴染美少女と何故か一緒に住むことになった件  作者: 戦告
第3章「中学と高校は雲泥の差」
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第96話「おめでとう」

ギリギリ間に合った(*´∀`)


「……という訳だから」

『やっとだな。幸せにしろよ』

「言われなくとも」


 翔はカルマと電話で話していた。

 告白して承諾されてからまだ数時間しか経っていないのに、こうして電話をしているのは桜花に諭されたからだった。


 翔の背中を押してくれたり、色々な時に気を遣ってくれたりしたのはカルマであり、カルマがいなければこうも円滑には行かなかっただろうから、という翔にはよく分からない理由の上での事だった。


 カルマには翔も世話になったが、桜花の言い方からは翔の知らないところにも一枚噛んでいるように聞こえた。


『これで翔も彼女もちか。しかも相手は学校一の美人』

「カルマも負けず劣らずだろ」

『俺は蛍が一番可愛いと思ってる』

「その先は言わなくていいぞ」

『約束、覚えてるか?』

「あれか?ダブルデートしたいっていう」

『そそ。守れよな!』

「桜花に聞いてからな」

『いい報告を期待している』

「はっ!カルマ大佐」

『軍人だった?!』


 蛍の話になると我を忘れてしまうカルマを電話口で適当にあしらうと、こほん、と一つ、咳払いが聞こえてきた。


『今は何やってるんだ?』

「電話してるけど?」

『違う、翔じゃなくて』

「あぁ、桜花なら、自室か風呂にいると思うけど」


 そう返すとふむふむ、と悩んでいる声が聞こえる。何を考えているんだ、と訊ねようとしたその瞬間に小さな音だが、カルマでは無い声を拾った。


 拾えるか拾えないかぐらいの声量で何か言い合っている。


「もしもーし」

『翔、気をつけろよ』

「ちょっと待て、順序立てて説明を求む」

『かくかくしかじか』

「ふむふむ……。まったくわからん」


 かくかくしかじかで通じるのは創作された世界の中だけの話であり、翔が分かるはずがなかった。


 深く訊ねようとすると、電話口で「ちょっと代わって!」と女の子の声がしたかと思うと、


『もしもし』

「待って一緒に住んでるの?」


 可能性は低いと見ていたのだが、カルマに代わって蛍が出てきた。


 カルマと蛍は付き合っている。

 翔が言えたものでは無いが、付き合っているから一緒に居るのは何の不自然もない。だが、時計が指し示す時刻を見るとそれはもう遊ぶために一緒にいるというよりも、お泊まりするために一緒にいます、と言われた方が納得いく頃合いになっている。


『さぁ、どうかなぁ?』

「お泊まりだと思っておくことにする」

『せいかーい』

「ちゃんとしろよ」

『翔くんってば何を考えているのかな〜?』


 蛍は妙にテンションが上がっており、翔は小さくため息を吐いた。蛍自体は平気だが、こういったテンションの人は苦手だ。


 大方、カルマとのお泊まりが嬉しくてそうなっているのだろう。ならば、自分の話で、その大切な時間を奪うのは気が引ける。


 翔はそう思い、手短に済ませようとする。


「さぁな。ところで、気をつけろって何に?」

『翔くんは鈍いから。ちゃんと言ってあげないとダメかと思って』

「ちゃんと行ってないぞ」

『距離感』


 蛍はそれだけ言った。距離感、と。


 それだけで翔は蛍が何を言いたいのかを察した。


 要は翔と桜花のことを心配してくれているのだ。翔は一世一代の告白を決行し無事、完遂することができた。それについては自分で自分を褒めてやりたいし、よく頑張った、と褒められたい。


 だが、それだけではダメだぞ、と蛍達は言っているのだ。


 告白したあとは当たり前だが、彼女となる。今までのあやふやな関係から明確に近しい存在となった。それを文字からも態度からもひしひしと感じるようになる。


 どうすればいいのか分からない。


 そんな感情がない、といえば嘘になる。

 彼女となった桜花に自分は一体、今までの他に何をすればいいのか、何をすれば喜んでくれるのかが全くもって分からないのだ。


 今の翔を的確に射抜いた蛍に縋るような思いで、一つ、訊ねた。


「どうすればいい?」

『ちゃんと好意を伝える。何か小さなことでもちゃんと褒めたり、お礼を言ったりする。カルマくんはそういうことをちゃんとしてくれるから好き』


 最後の方は翔ではなく、カルマに言っていたような気がするが、こうして直に見本を見せてもらうとなるほど、と納得出来る。


 今の蛍達から伝わる雰囲気はとても甘いが、その場にいて安らぎが伺える。


「僕なりに頑張ってみるよ」

『桜花ちゃんを泣かしたら許さないからね』

「重々肝に命じておきます」

『分かればよろしい。じゃあね』


 翔のわざとらしい言葉に乗って蛍も返す。


 電話は切られ、翔は一人リビングのソファに腰を下ろした。


 思わずため息が出る。


 無理もなかった。精神への負担が半端ではない。ふと、桜花はどうなのだろうか、と考えた。


 風呂にいるのか部屋にいるのかは分からないが、何か翔のように感じているのだろうか。


 聞いてみたいという衝動と、返される言葉への不安が入り交じり、複雑な気持ちになる。


 翔はソファに全体重を掛けて、顔を上げた。


(ちょっとだけ……寝る)


 今日は疲れた。

 そう思って翔は目を閉じた。



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