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他人行儀になった幼馴染美少女と何故か一緒に住むことになった件  作者: 戦告
第3章「中学と高校は雲泥の差」
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第92話「始まります」


 翔はマリアナ海溝よりも深いため息を吐いた。

 遂に、遂に始まってしまったのだ。

 体育祭ではないが、小さな体育祭のような学校行事が幕を開けたのはつい1時間ほど前だ。


 それから全校生徒はみんなで仲良く準備体操を終えたあと、しばしの休憩があり、今からリレーが開始されようとしていた。


 リレーは一年生から順番に走り、クラス対抗である。クラスで参加者を募っていたらしいが、翔は知らなかったので、翔が帰った後にしていたのだろう。


 そのせいか翔のクラスからの出場者は全員が運動部で、その中には須藤の姿も見受けられた。


 運動系のものの中心にいることに何の不思議も感じない。精々頑張ってくれ、と願うばかりであった。


「あまり面白くは無いですか?」

「桜花か」


 ただ漠然と空気がそこにあるように何も考えることなく須藤を見ていると桜花が話しかけてきた。


 表情のない顔がつまらなさそうに見えていたようだ。


「運動は好きじゃない。学校行事だから仕方ないけど早く終わって欲しいのが本望だ」

「翔くんらしいです」


 桜花はふふふ、と笑った。

 桜花も翔も当たり前だが、体操服を着ている。男女で着ている物に差はないが、制服よりも露出が多い分、目がそちらへと引かれてしまうのも仕方ない事だった。


 キメ細やかで、手入れの行き届いた桜花の白い肌は勿論のこと、制服で隠されていた艶かしい鎖骨のラインや太腿が顕にされる。


 特に桜花や蛍のような美人に対する視線は顕著で、隣にいる翔でさえ、異常な程の視線を感じた。


 殺意の若干混じっているのは翔に向けられたものだろう。


「須藤くんに見ていてくれ、と言われました」

「懲りない奴だな」

「同じクラスですし、応援はしますけど須藤くんに対する感情が変わることはありません」

「はっきり言うね。須藤が聞いたら泣くぞ」


 擁護の意味ではなく、推測の意味で言うと、桜花もそうかもしれません、と頬を弛めた。


「翔くんの近くなら他の人も来ないでしょうし」

「僕は蚊除けか何かなの?」

「人避け線香ですかね」

「嬉しくない」


 そう返しながらも、桜花だけは来てくれるのならそれはそれでいいかもしれないとふと思った。


 桜花と会話をしていると、ピストルの音が高らかに響いた。どうやら始まったようだ。


「二位に着けてるな」

「アンカーは蒼羽くんですから、最後に追い抜いてしまおうという作戦でしょう」

「カルマも出てるなんてきいてない」

「あ、蒼羽くんが私達に気付きましたよ」


 翔が目を懲らすとトラックの中でカルマがにこやかな笑みと共に大きく手を振っていた。流石に何もしない訳には行かなかったので翔は小さく手を振り返した。隣に視線を向けると桜花も翔と同じように小さく手を振っていた。


「緊張感ないな、カルマは」

「余裕そうですね」


 カルマは準備運動をする訳でもなく、闘志を燃やす訳でもなくて、ただただのんびりと自分の来る順番を待っていた。


 決して手を抜いているという訳では無いだろう。きっと、カルマと競り合える程の足の速さを持った人がいないのだろう。


 実力を持った人は相手の実力を計れるが、その逆はありえない。


 実力を持たない翔にはカルマと走る相手がどれ程までの足の速さを持っているのかが分からない。


「そういえば蛍さんは無事、誕生日プレゼントを渡せたようですよ」


 翔が一人、熟考していると、ふと思い出したように桜花が嬉しいことを教えてくれた。


「何あげても喜ばれただろうけど、ずっと悩んでいたよ」

「物ではなくて、その過程や渡してくれる人が大事なのです」

「深いなぁ」

「からかわないでください」


 少し茶化したように言ったが、深い、と思ったのは本心だった。


 選んだ物が絶対的一番に大事、という訳ではなく、その贈り物を何にしようか、何を贈れば喜んでくれるのだろうか、と思案する過程。贈る相手をどう思っているのか、という心から思っている人。


 それらが一番大切なのだ。


「あの二人はこのまま結婚しそうだな」

「……仲良しさんですからね」

「桜花?」


 声色が少し籠ったように聞こえたので、翔が名前を呼ぶと桜花はいつの間にか落ち着きが無くなった。


「け、結婚とかはっきり言わないでくださいっ」

「婚約でもいいけど……」


 少しニュアンスは変わるが、通じないことは無いだろう。


「婚約の方がダメです」

「何で?!」


 翔が訊ねると桜花はもじもじと身体を揺らしながら答えた。


「ロマンチックすぎてしまうとおかしくなってしまいます……」

「婚約の方がロマンがあるのか……」


 ひとつ賢くなった翔だった。

 恐らく少女マンガなどの影響だろうが、桜花がそのようなことを言うとは思えなくて堪らず、ふっと笑ってしまう。


「……むぅ」

「ごめんごめん」

「そろそろ終わりそうですね」


 桜花はまだ怒ったように話を変えた。きっと怒ったように見せているだけなので、翔はそれについても笑いそうになったが、笑ってしまえば本当に機嫌を損ねそうだったので何とか抑えた。


「勝ちましたね」

「堅実な試合運びでした」

「解説者の響谷翔くんです」

「どうもこんにちは……っておい」

「蒼羽くんとのやり取りを見て……つい」

「良い子は真似しないでね、ってやつだから真似しない方がいいぞ」


 その場の頭の回転は早くなりそうだが、会話の内容は頭の悪いものばかりだし、何よりこれまで培ってきた学校でのキャラクターが乱れてしまう。


 桜花にそれをさせる訳には行かない。


 翔は憧れてしまったもう一人の方、翔の親友へと視線を向けた。


 カルマは快走を見せ、にこやかなスマイルと共に歓声を浴びていた。流石は顔も整っている男。やることなすことが規格外だ。


 翔はそのカルマを傍目にしながら桜花の手を引き。障害物競走へと向かった。


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