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他人行儀になった幼馴染美少女と何故か一緒に住むことになった件  作者: 戦告
第3章「中学と高校は雲泥の差」
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第91話「ご褒美を設けましょう」


「期末テストが近づいてきました」

「え、あと一週間以上あるよ?」

「早めのテスト勉強です」


 明日に控えた学校行事に少々鬱だった翔は唐突な勉強を聞かされて更に気持ちが落ち込んだ。


 桜花としては中間テストの成績が悪かった分も考慮して、万全の体制でテストに望みたいのだろう。それはとてもありがたいと思うし、感謝しかないのだが、あまり気乗りはしない。


 元々勉強が好きな訳では無い翔が、自発的に勉強するのは余程追い込まれた時か、他に何もすることが無くなった時だけだ。


 その乗る気ではない翔の目を見て何を考えているのかを薄々察した桜花が翔の腕をぺしっと宥めるように叩いた。


「中間テスト」

「……あ〜もう分かった。わかったから掘り返すな」

「道具を持ってきてください」


 桜花が重く掘り返し、翔は項垂れながら了承する。


 そして、始まったテスト勉強ではあるのだが、全くやる気が出ない。


 それもそのはず、桜花に言われて気張っては見たものの、苦手教科の古典はすっかり拗らせてしまって手を付けたくないし、逆に自分で進めてしまっている数学に限っては先々行き過ぎてテスト範囲になるであろうところは問題文を見れば簡単に理解できるほどにはやり込んでいた。


 桜花は桜花で自分の勉強をしていて、話しかけにくく、一応はペンを持ってやっている風には見せてはいるが、全く頭は働いていなかった。


「集中ですよ」

「集中しないといけないのは分かってるけど、どうしても集中できない」

「教えましょうか?」

「桜花は自分の勉強してるだろ」

「私はいつでも出来ますから大丈夫ですよ」


 そうは言うが、もし翔に教えている時間のせいで、今回の期末テストが悪かったら申し訳ない。

 教えてくれ、と一言いえば桜花はきっと教えてくれるだろうが、こういう理由で桜花の学年トップの座を揺るがしたくはなかった。できれば、翔が自己研鑽で培った学力でそうさせてみたい。


「わからないところを聞くことはするけど、今はそれ以前の問題だからなぁ」

「そうですね。……ご褒美があれば頑張れますか?」

「ご褒美?」

「そうです」


 桜花から提案されたのは直ぐには理解し難いものだった。ご褒美というのはあのご褒美でいいのだろうか。


 幼少期によくあった、何かをすれば欲しいものが手に入るという、交換条件。

 無意識に生唾を呑む。

 思春期高校生の性か、一瞬で良からぬ妄想が何十通りと浮かんだ。


「……ご褒美の中身は?」


 悟られないように気を使いつつ、気になったことを訊ねる。


「食いつきましたね」

「気になっただけだ」


 翔が見透かされ照れたように言うと、桜花はくすくすと可笑しそうに笑った。

 桜花はそうですね、と前置きしたあと続けた。


「今回の期末テストで苦手教科は平均点以上で、順位が上位五十人の中に入っていれば……」

「思ったよりハードだな……」


 苦手教科で平均点以上ということは翔自身は苦手だと思っていても他の人から見ればそこまで苦手ではないように見える、と言ったところだろうか。


 それは幸いにも時間があるので今から詰めれば恐らくクリアできるだろうが、次の条件が厳しい。


 上位五十人はまぐれの点数で入れる程、簡単には入れない。その50人の頂点に立つ桜花の勉強量を間近で見てきたからこそわかる。

 たかが数学が人よりも多少できるほどの学力の翔が入れるのだろうか。


「翔くん自身が厳しいと感じるほどでなければ伸びませんからね」

「うぅ……。鬼教官」

「これからご褒美の内容を発表しますから鬼教官はやめてください」


 ぷくぅ、と可愛らしく頬を膨らませ、そっぽを向く桜花に翔はごめんごめんとからかったことを謝った。


 一体何のご褒美なのだろうか。


 これだけ厳しいノルマなので、それ相応のご褒美が貰えるといいな、と思っていた。

 だが、桜花の口から聞かされた言葉そんな軽い思いで済むようなものではなく、時間を忘れて呆ける程には充分すぎる衝撃だった。


「……ぎゅってしてあげます」

「……はい?」

「よく頑張りましたって……ぎゅっとしてあげます」


 一体どれほどの時を虚無で費やしたのだろうか。


 気が付けば、桜花が翔の額に手を当てて検温していた。


「何を……?」

「翔くんが急に何も喋らなくなったので熱でも出たのかな、と思いまして」


 ばっと、勢いよく離れ熱を持つ頬を手で隠す。


「ご褒美はそれでいいですか?」

「……わざわざ聞くなよ」


 桜花が聞こえないように小声で呟き、こくりと素直に頷く。


「これでお勉強が捗ればいいのですが」

「捗るよ。これで捗らないなら人じゃない」

「そこまででは無いと思いますけど。やる気を出してくれたみたいでよかったです」


 翔はご褒美を獲得する為にペンをとった。


 その頭と心は先程までとは打って変わってやる気に満ち溢れて何時間でも集中できるような気がした。


 明日は障害物競走があったが、その鬱は既に忘れていた。



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