第85話「久しぶりのカルマ」
「……何で付き合ってないの?」
「知らん」
「絶対告白すればOK貰えたはずだぞ」
「絶対なのか、はず、なのかどっちなんだよ……」
放課後に翔とカルマはゴールデンウィーク明けの「お久しぶり」や、ゴールデンウィーク中の事を話すために、とある近場のカフェに訪れていた。
桜花も桜花で蛍に呼ばれている。元はと言えば、蛍が桜花とお茶をする、ということで、溢れたふたりがこうして話しているのだった。
「俺達よりも甘酸っぱい日々を過ごしているじゃん」
「旅行行っただけだし」
「翔は当たり障りの無いことだけを言ったけど、少し読みを入れれば何かあったのか、なんて簡単に予想がつくぞ」
「え」
「冗談だ。でもその反応でわかったぞ」
「カマかけたな」
カルマは意地悪く笑った。
翔はゴールデンウィーク中に旅行に行ったこと。修斗と梓がアメリカに転勤して、今はふたりで暮らしていること。中間テストのテストが酷かったことを話した。
逆に、桜花が露天風呂に入ってきたことや、梓を二人きりで暮らしたいがために追い出した形になったこと。中間テストは桜花が気になって集中できなかったことや、一緒にお勉強することになったことは話していない。
「さっさと付き合っちまえ」
「うるさい」
「でも好きなんだろ?」
カルマの心を射抜く視線にはっと息を飲んだ。前に逃げてしまったことが思い返され、翔は渋々と言った感じで答えた。
「あぁ。好きだよ。でも僕如きの気持ちが届くと思う程、脳天気な訳じゃない」
「性格拗らせてるよなぁ」
「客観的事実だ。好きだが好かれているとは思っていない」
翔は言い切った時に、ちくりと胸に痛みが走った。自分が言ったことを再認識したから、というのもあっただろうが、一番始めに思い返したのは帰りの新幹線での桜花の言葉だ。
あれはきっと言葉の綾、というやつだろう。密着して生活していると、恋にも似た感情を感じてしまうこともあるだろう。
「ダメだこりゃ。……なら、好かれる努力をしてみろよ」
「好かれる努力?」
「そう。例えば、この伸びきってしまった前髪を整える、とか。切れば爽やかな感じにはなると思うぞ」
「髪切って爽やかとか、ハゲは爽快過ぎるだろ」
「俺ガイルネタぶっこむな」
結構真剣なんだぞ、と呟くカルマの言葉にごめんごめん、と軽く謝った。
「学校で少し社交的になってみるとか」
「僕は「うぇーい」で会話できないから無理だ」
「うぇーい、で会話する奴とか人間なのか?」
「目撃証言はあるから生命体であることは確かだな」
話がズレていくのを感じたのか、カルマがコホン、とわざとらしく咳払いをした。
「髪切って、明るくしてれば、気にしてくれるんじゃないのか?」
カルマの「気にしてくれるんじゃないのか?」が昨日の自分の発言と重なり、思考が真っ白に染った。
「僕がそれだけで変われると思うか?」
「多少なりともは変わるんじゃないか?翔は結構元の顔はいい方だと思うし」
「カルマがいうと嫌味にしか聞こえない」
「顔が良い奴からの褒め言葉だと受け取っとけ」
背中をべしっと叩かれ、翔はカルマの背中を思い切り叩いた。身体の作りが違うために、カルマは痛くも痒くもなさそうだったが、翔の背中が今頃、赤い紅葉が咲いていることだろう。
「それで変われば言ってみろ「抱きしめてもいいか」ってな」
「は?はぁああッ?!」
カルマはキメ顔でそう言った。
翔は思い付く限りの悲鳴をあげる。
「無理無理無理無理。それは彼女に言えよ!!僕が言ったらただの変態じゃないか!」
「信頼関係をしっかりと構築していれば大丈夫だろ」
「それは別だろ……」
「言ってみてから決めろよ」
翔は小さく抵抗していたが、やがてその威力が段々と小さくなっていく。
もしそれを言えば、桜花は受け入れてくれるのだろうか。
口を聞いてくれなくなるのではないだろうか。前に一度抱き締めたことはある。だが、その時と意味はまるで違う。
あの時は庇護、の意味が強かった。
今回は自分だけの好意だ。
悪い方向に思考が流れていき、不安に縛られる。何気ない一言が日頃から積上げてきた信頼をばらばらに壊すことになるのを翔は知っていた。
だからこそ、その可能性が高くなるようなことをしたくはなかったのだが、気にならないとも言いきれなかった。
親友とまで思っているカルマが言ったのだ。可能性は皆無では無いのではないか、と最小限の希望が出てくる。
「もし成功すれば、お付き合いを申し込んでも成功するぞ」
「本当かなぁ……」
「そしたら、ダブルデートしような」
「それが目的だろ」
「ばれたか」
笑顔爛々のカルマの申し出を適当に流し、翔は帰って、勇気が出れば聞いてみようか、と思った。




