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他人行儀になった幼馴染美少女と何故か一緒に住むことになった件  作者: 戦告
第3章「中学と高校は雲泥の差」
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第80話「桜花の気持ち」

旅行はこれで終わりです!


 帰りの新幹線で翔は人前に出た事による疲労感があったため、目を閉じてうつらうつらしていた。


 お土産も無事に買って、この旅行に思い残すことはもうない。桜花との思い出が詰まったいい旅行だったと言えるだろう。


 色々良くない事も起こったが、どうにかこうにかやり過ごし、傷一つなくここまで来ている。

 懸念することといえば、梓からの質問攻めを受け切るのは面倒だ、ということだ。元々外出、旅行自体が珍しい翔に加え、最近突如として、娘同然の子となった幼馴染で美少女の桜花がいるのだ。興奮しない方がおかしいというものだろう。


 翔が半分寝ている頭でそこまで考えていると、ぽすっと翔の頭が揺れて、柔らかいところに着地した。視界は目を閉じているので真っ暗だが、甘くていい匂いがするので、大方予想はついた。


 桜花にもたれかかっている状態になってしまっているのだろう。引っ張られたような感触があったので、翔が重力に逆らえず桜花の方へと倒れてしまったのか、桜花が引っ張ったのか、の二択であれば恐らく後者だろう。


 傍から見ていて寝にくそうな姿勢だったのだろうか。


 何となく目を開けることは躊躇われて、じっと様子を見守ることにした。


「翔くんもお疲れのようですね」


 しみじみと誰かに言い聞かせるでもなく呟くそれは翔が寝ているのかどうかを確認しているかのように聞こえた。


「翔くんは人前に出るような性格ではないはずなのに、ああして突拍子もないことをしてしまうので心配です」


 優しく囁かれる桜花の言葉は安心感を与えてくれる。


 突拍子もないこと、と言われて自分でも「確かに」と納得してしまった。冷静になって思い返したところで、翔が実際にやったこと以外の良い案は浮かばないが、あそこまでする必要もなかったかな、とも思う。


「複雑ですね……。楽しい時間が終わるのは」


 楽しい時間。

 桜花にとって、翔と過ごしたこの一泊二日の旅行は果たして楽しいと思えるものだったのだろうか。翔はそれがこの旅一番の懸念材料だったので、桜花から「楽しい時間」と聞いて、よかったな、と心底思った。


 髪が動いた。桜花が触っているのだろう。

 寝ているという体、なので、好きにさせる。


「髪を整えればもう少し周りの評価も変わると思うのですが……翔くんはなかなか聞いてくれませんよね」


 耳の痛い話だ。

 髪だけでそこまで変わるとは思えないので、頑として整える気はないのだが、今の状態で言われると、少しだけいじってみてもいいかな、という気になる。


「帰ったら日記に記さないといけません」


 意気込んだ口調の桜花に対して、翔はそもそも桜花が日記を書いていることさえ知らなかったので、驚きで溢れていた。


「一つ、考えたことがあります」


 桜花は一度、前置きをした。

 翔はこれから言うことが桜花の吐露したい一番のことなのだろうと確信する。


「翔くんは私のことを一体どう思っているのでしょうか」


 翔の頬をつんつんと突きながら桜花は呟く。


「私は時々わからなくなります。翔くんが私を幼馴染として見ているのか、友達としてみているのか、家族としてみているのか」


 桜花は続ける。


「鬱陶しく感じているのか、信頼に足る人物だと思ってくれているのか、あと……好ましく思ってくれているのか。私には分かりません」


 人の思いは分からない。

 翔は桜花も自分と同じように迷って悩んでいるのだと感じた。


「でも、それはきっと翔くんも同じだと思います。私と同じように、相手の気持ちが分からないのでしょう?」


 返答はない、とわかっていたとしても堪らず桜花は疑問を問いかけた。翔は人形のように首を勢いよく縦に振りたかったのだが、心の中だけに留めておいた。


「だから、迷って、悩んで、戸惑って、自分がダメだ、と思って。それでもその時の相手の言葉が心に染み渡って嬉しくなったり何かを伝えたくなったり」


 翔は寝たふりを危うくやめてしまいそうになった。それ程までに桜花の言葉は今までに聞いたことがなく本心を語っていて、語りかけてきていた。


「私は翔くんが好きです。幼馴染であるとか、一緒に暮らしているとか、それらは抜きにして翔くんのことが好きです」


 耳に熱がこもるのを感じた。寝ていると思っているからと言って、大胆な桜花に翔は何よりも先ず驚いた。


 そして素直に嬉しかった。

 今まで、全く予想もしていなかったが、桜花が翔に対してそういう心を抱いていた事が自分が全て報われたような気がして嬉しかった。


 だが……。


「翔くんはまた不釣り合いだから、なんて考えているかもしれませんけど、それは全く関係のないことです。他人の判断よりも、自分のですよ」


 まるでエスパーのように、翔が考えようとしたことを先回りして答える桜花に、よく性格を理解されてしまっているな、と心の中で苦笑した。


「翔くんに言いたかったけど面と向かっては言えなかったので、こうして言うことにしました。私の気持ちは翔くんには通じないけれど、口に出せて良かったです」


 桜花は自分にケジメをつけたようだ。

 翔はもう一度頭を撫でられ、完全に意識を手放した。



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