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他人行儀になった幼馴染美少女と何故か一緒に住むことになった件  作者: 戦告
第1章「幼馴染も進化する」
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第7話「重いと思い」

今日は1話だけ更新です。

ごめんなさい

 

「辛くないか?」

「辛くはないのですか?」


 同じタイミングで同じ事を聞いたのは、翔が桜花の荷物を持ち、一言も会話することなく電車へと乗り込み、乗客が少なくなってきた時だった。


 話したくても話すことが出来なかったのが、お互いにバレてしまい、翔も桜花も顔を見合わせて、苦笑した。


 目を合わせて譲り合う。

 初めに口を開いたのは桜花の方だった。


「辛くはないのですか?」

「全く同じ言い方だな。まるで巻き戻したみたいに」

「返答に困ること言わないでください。私は蒼羽くんとは違います」


 先程までのカルマとの流れを持ってきてしまっていたようだ。

 翔は頭を切り替えて、桜花の質問に答えた。


「僕は平気だ。これでも男だからな」

「教科書を持って貰っていることではありません。勿論、その事は感謝していますが」

「教室のことか?」

「もう少し詳しくいえば須藤くんの事です」


 あまり人がいない電車の中でとはいえ、この話題は翔にとって誰かに聞かれているかもしれないという状況で話したくは無い会話だった。


「あれはもう不幸だって諦めてるよ」

「もし暴力を振るわれるようになったらどうするつもりなのですか!」


 純粋に心配してくれているのが伝わってきた。

 まだ1日も経っていないのにどれだけお人好しなのかと思ったが、隣でカルマとの会話を少なからず耳に入れてしまっていたのなら仕方の無い事なのかとも思う。


 暴力がものを言う世界に踏み入れたことの無い翔や桜花には、須藤龍司という男の経歴に事実以上の恐怖を抱いてしまう。


 確率が極端に低くても、殴られるかもしれないという1%以上の可能性があるため安心できない。


 翔も怖くないといえば嘘になるが、何よりも先に桜花を宥めようとする。自分への暗示は寝る前でも充分だ。


「いいさ。初めてじゃないし」

「それはどう言う……」

「ここで言うつもりは無い」


 深く訊き返そうと踏み込んだ桜花だったが、翔に気圧され押し黙った。


 安易に触れてく欲しくはない部分だろうが、それでも簡単に聞き流すことは出来ない問題だった。


「一息ついたら教えてくれますか?」

「一息つけるか分からないぞ?まぁ、勿体ぶる話でもないし聞きたいなら話すけど」


 先へと引き延ばしたところで桜花が諦めてくれるとは思わなかったので、約束を交わす。今の翔にとってそれは嫌な思い出ではなく、教訓となっている。


 だから、話すことに躊躇いはないし、傷つくことも無い。だが、聞き手は話し手より時として深く感情的になってしまうので、翔もあまり話したがらないのだ。


「逆に僕が聞くぞ?辛くないのか?」

「響谷くんとの会話ですか?」

「そこは思ってもいなかった。辛いならやめるが」

「冗談です。唯一教室内で話せますからね」

「どうして壁を作る」

「私のせいでトラブルが起こるのが分かるからです。今日だって隣の席と言うだけで起きてしまいました」

「それは双葉が悪いんじゃなくて皆が悪いんだろ?」

「否定はしません。ですが、それを言ってしまったところで何も変わりはしません」


 何の感情もなくただ淡白に言葉を並べていく桜花に、翔は学校生活を始めるようになってからの経験を語られているように聞こえた。


「双葉としては友達とか欲しいとは思わないのか?」

「思いますよ。逆に思わない人がいるのですか?」

「う〜ん……。「人間強度が下がるから」って言ってる人は見たことがある」


 活字でだが。

 桜花はまさかそんな人がいるとは思っていなかったようで、目を丸くさせていた。


「その人は除いてください」

「そうする」


 さよなら。

 あらららぎさん。

 わざとだ。


「意固地だな」

「そうですか?」

「他人には優しいが自分にはめちゃくちゃ厳しいタイプだな」

「……ともかく。私の学校生活は今までもああだったので辛くはありません」

「逃げたな」


 桜花はそう言い切ったが、まだ会って間もない翔でさえ、強がりだということはすぐに分かった。


「響谷くんの言葉に便乗して更に逃げることにします。昼食は何がいいですか?」

「急だな……。考えてもいなかった。何でもいいや、というより作ってくれるのか?」

「あくまでも教科書を持ってくれているお礼です。……それともお母さんが何か作られますか?」


 桜花の「お母さん」が「お義母さん」に聞こえかけたのは不思議だった。


 桜花の心配は杞憂に終わりそうだと翔は確信する。

 母親はこういう大事な時に限って、帰ってくると買い物に出かけていたり、食事に出かけていたりと、家にいないことがほとんどなのだ。


 例に漏れず、今回も当て嵌めることが出来るのなら帰ったとしても母親はいないだろう。

 その事を桜花に話すと、


「そうですか」


 と、何とも味気のない返事が返ってきた。

 教科書を2人分運ぶのは本音を吐けばとても辛かったので、電車の中でギブアップを宣言するつもりだったが、昼食を作ってくれると聞きやる気が出てきたので、弱音は吐かないことにした。


「ありがとうな」


 代わりにお礼を言うと、


「こちらこそありがとうございます」


 と返され、くすぐったい感情に襲われた。

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