第54話「誘導尋問ですよ、それ」
桜花からの衝撃の宣言に出鼻を壮大にへし折られた翔だったが、ゲームは楽しく進行していた。
マスごとに誰が出題するのかも指定されているため、下手をすると偏りが生まれるのだが、翔は今のところ集中砲火をまだ浴びていなかった。
「ふぇ……。まただよぉ」
「3問ですね、出題者は蒼羽くんです」
三連続で蛍が捕まっていた。
蛍がこれまで救いの目を見せていたはずのカルマが出題者なので、おろおろと挙動不審になっていた。
カップルなので、激甘な問題なのだろう、と勝手に予測する。
桜花はゲームマスターと参加者をしていて、疲れないのか、とちらりと見るも楽しいそうに笑っていた。
「第1問!俺の一番苦手な教科は?」
「国語!……だった気がする」
「ファイナルアンサー?」
「ふぁ、ファイナルアンサー」
どこか懐かしい文言だなぁ。
翔は昔見ていたあるテレビ番組を思い返していた。
勢いよく答えるまでは良かったのだが、急に自信がなくなったようで、語尾があやふやになった。
「正解」
「ふぅ、危ない」
「よく知ってたな」
「カルマくんは国語の授業だけは「訳分からん」って口癖みたいに言ってるから」
なら悩む必要はなかったのでは……?
何はともあれ、どうやら記憶は正しかったようで、カルマはぐっ、と親指を突き上げた。もしかしたら、違う教科だったとしても正解、と言っていたかもしれない。
「第2問!俺の好きな事は?」
「好きな事ぉ?!」
うっかり叫んだのは翔だ。
付き合って数日の人が分かるものなのだろうか。もし、桜花の好きな事を翔が答えるようになっていたとすれば何も答えられない未来が容易に想像ついた。
俺の○○シリーズで全てを終わらせてしまうような勢いだ。翔もカルマの全てを知っている訳では無いので、いちゃもんをつけることは出来ない。
うまい手ではあるが真似したくはない。
翔が冷静に分析をしていると、蛍が顔を赤らめてもじもじし始めた。
「……でーとすること?」
小さく紡がれたその言葉に何の関係もないはずの翔でさえ、どきっとしてしまった。
自然と顔が赤らんで行くのが分かる。
隣に仲間はいないかと見ると、桜花も驚いた表情で頬を染めていた。
「せ、正解」
「やった!」
これには流石に正解と言わざるを得ないだろう。当たって嬉しいのか、カルマはデートをするのが好きだ、と解釈して喜んでいるのか分からなかったが、この空気の中で純粋に喜べるのは蛍だけだった。
「ら、ラストです」
「どうして桜花まで落ち着きが無くなるんだよ……」
「う、うるさいです」
小声で言い合っていると、その間に悩んでいたらしいカルマが、最後の質問を発表した。
「第3問!今、俺が考えている事は?」
そんなもん、えっちしかないだろ。
と、翔は思ったが、寸前で声に出すのを止めた。高校生男子が考えている事は性的な事か世界平和ぐらいしかない。
女子が深く考える程遠く離れていくし、答えを聞いて「やっぱり男子ってバカね」となる。
第2問の強烈なカウンターでカルマの心の余裕はなくなったらしい。
翔も、あのような公開処刑されると心が持たないなぁ、と他人事のように思った。
「それは簡単だね!どうやったらもっと楽しくなるか、だよ!」
「大正解」
茶番のような気もしたが、カルマも蛍も桜花も翔も楽しいと感じているので、いいだろう。楽しければ何でもありだ。
「次は桜花だな」
「行きます」
悲壮な面持ちでサイコロを振る桜花。
どうした、何があった?
桜花の出したマスは「5」。暫定トップに躍り出た。
「5問で出題者は蛍さんです」
「え、また私?!ちょっと出番多いよぉ」
蛍が叫ぶと見かねたカルマがよしよしと頭を撫でた。少し機嫌が直ったのか、怒りながらも甘えている。
借りて来た猫のように大人しくなった蛍。
多くの男子が頭の中で妄想していたであろう光景が目の前に広がっていた。
「カルマくんみたいにしようかな……」
「あぁ、それなら」
蛍が呟くと、他にいい案を思い浮かんだのか、カルマが蛍に耳打ちする。
要所要所で聞こえてくる単語には「男の子」や「付き合い」と言ったものが聞こえてきた。
「翔くん」
「どうした?」
「長いです」
「まぁ、4人でやってるから仕方ないよ。パーティゲーム的な感じで」
「そちらはそうですが……。蛍さんの問題の方です」
「即答する気満々だな」
「このまま一番を頂きます」
意気込む桜花に微笑むとむっと唇をきつく結ばれた。
「何ですか」
「いや、何でもないよ」
闘志を燃やしている桜花も瞳が澄んでいて綺麗だ、とは言えなかった。そして、翔の見立てでは中々に桜花が答えずらい質問を出してくるだろうと思っている。
一番をストレートで取れるとは思えなかった。
カルマと視線が合い、瞬時にアイコンタクトが発動する。
(余計な事を……)
これ程までに気が合う人間はなかなかいないだろうな、と頭の片隅で思いながらも内容が内容なだけに、あまり嬉しくはなかった。
「桜花ちゃん」
「はい」
「全部ちゃんと答えてね?」
「望むところです」
お互いの宿す瞳の中のそれは友情やゲームを楽しもう、なんてものではなく、狩るか狩られるか、殺るか殺られるか、の闘志が透けて見えていた。
こうなった原因を睨みつけると、不敵に笑って流されてしまった。
どうか変な質問ではありませんように!と翔は願うしか無かった。




