第53話「お付き合い」
「お二人さんは付き合ってるのか?」
「いや、付き合ってない」
「はい、付き合ってません」
カルマに訊かれ直ぐに否定する。「いや」と「はい」で、全く逆の言葉だったがその次に続けられた言葉は同じだった。
カルマからは複雑な表情を向けられた。
翔はカルマ程の胆力を持ち合わせていないので、そんな風に見られても何も出来やしない。
カルマは力が強く、おまけに洞察力まで鋭い。そんな、力を持つカルマだから綾瀬蛍という人間は惚れたのだし、告白が成功したのだ。
高スペックなのだ。
翔は違うので、同じ高スペックである桜花と付き合う、ということを考えるだけでも烏滸がましいというものだ。
「一緒に住んでるなら付き合ってしまえばいいのに」
「俺達も一緒に住みたいな」
「むぅ……。……こ、今度ね」
歯に浮つくような言葉を素で吐いたカルマも大概だが、蛍がいい返事をするとは想像していなかった。
精々、翔達がいるところでは曖昧に返して電話でより深く話し込むのだろうと勝手に思い込んでいた。
あとで、電話でどのような話をしたのか聞こう。
「翔くん、口の中が甘いです」
「大丈夫、僕もだ」
心做しか口内でじゃりっと音がしたような気がした。……砂糖を生成してしまったようだ。
「ま、時間の問題だな」
カルマは一人で納得していた。
何故かとてもイラッときた。
「何かするか?」
「えぇ!げーむなんてどうでしょう?!」
翔の言葉に追随して桜花が提案する。妙に落ち着きがなくそわそわしているような気がしたが、それについては訊ねなかった。
「ゲーム?何がある?」
「ボドゲから何でもござれ」
「範囲指定は無いのな」
普通は○○から、✕✕まで、と答えるぞ、とカルマが苦笑していた。しかしゲームには乗る気なようで、ふむふむと悩んでいる。
「翔が折角、ボドゲを推してくれたからボドゲにするか」
「双六?」
「人生ゲームも一応あるぞ」
一応、なのは先日、ゲーマーズを見てしまっていたからだ。カップルが袂を別れて桜花や、翔と結婚するようになるかもしれない。
その可能性は結構高そうなので、あまり率先して人生ゲームは選びたくなかった。
「お勉強双六はどうでしょうか?」
「「お勉強双六ぅ?」」
桜花は初耳であろうカップルからオウム返しに返され少し気圧されていた。
翔は「お勉強双六」と聞いて、苦虫を噛み潰したような顔を浮かべた。
翔が桜花と初めてそれを行った時はこれでもか、という程にぼこぼこにされた。
その時点で既に桜花は翔では到底及ばない程に勉強で得た知識を自分のものにしていたわけで、翔に勝ち目はほとんどなかった訳だが。
この「お勉強双六」のルールは簡単。
止まったマスで教科問わずの問題を指定された問題数答えるだけのシンプルなものだ。
これは一人で行う勉強に直ぐに飽きてしまう翔のために桜花が考案した休憩兼勉強兼遊びだ。
勝負事が嫌いではない翔はまんまと乗せられてしまい、これで身に付いた知識は数知れない。
「やるんですか……」
「自信がないのですか……。なら、仕方ないですね」
「自信ならあるぞ!今日こそは一番に上がってやる!」
カルマと蛍にも桜花が簡略的に説明し、早速始めることにした。
サイコロを振り、開始する順番を決める。
初手はカルマ、次手は蛍で桜花、翔と続いた。
「問題数はマスごとに書いてあります。一問につき制限時間は10秒です」
「答えられなかったら自分で「一回休み」か「次回の制限時間縮小」かのどちらかを選ぶ」
焦っていたとしてもしっかりと正解を導き出す、という訓練らしい。
翔には遊ばれているようにしか感じないが、真面目な顔でテストのためです、と言われると何も言い返せない。
「カルマ、いっきまーす!!」
「ガンダムかよ?!」
カルマが出した目は「6」。
カルマを表すボーリングのピンが小さくなったような赤色のそれが桜花によって、六マス進められた。
「5問です。出題者は一つ前の人ですから……翔くんです」
「おっ。なら行くぞ」
このゲームは答える方よりも出題する方が頭を使う。
いくらでも難しくしようとすればできるのだが、そうするとゲームは進行しないし、何よりじっくりと考えていられない。
唯一の救いは「どのジャンルでも良い事」だ。
「オセロや将棋などの対人戦ボードゲームの総称」
「えっと……二人零和有限確定完全情報ゲーム」
「異能力者になった文豪の物語」
「文豪ストレイドッグス」
「植物にはあって動物にはないもの」
「……葉緑体、液胞……」
「壁だよ」
小さく蛍が囁いた。
それで思い出したのか、カルマの口調が急に元気に戻る。
「細胞壁!」
「人類の進化を述べよ」
「猿人原人旧人新人!」
「その日、人類が思い出すものは?」
「……」
最後の質問に対して、カルマはぐっと言葉に詰まった。確かに記憶にはあるがそれが詳しくは思い出せない、といった印象が見受けられた。
「5秒……6秒……」
桜花の秒読みが思考を焦らせていく。
ぎりっと奥歯を噛み締め、カルマは恐る恐る答えた。
「支配されていた恐怖と、鳥籠の中に囚われていた屈辱」
「全問正解だ」
ふーぅ、と気が抜けたらしく息を吐き出したカルマ。
「これ結構きつくね?」
「きつめにした。出題者によって難易度を変えられるのがこのゲームのミソだな」
「ふぅむ」
カルマは身をもって理解したからか、納得気に頷いている。蛍はそんなカルマを見て、不安そうな表情を浮かべていた。
「私、ちゃんと答えられるかな……」
「その場にいる人の全員が分からない問題の場合は出題者の方にペナルティがありますから」
「それ初耳なんだけど」
「4人になるとできるのです」
翔もカルマ達とそう変わらない立ち位置になったようだ。




